2014/7/26更新
7月6日「遊牧民とウラン開発」と題する公開学習会に参加した。2011年5月、モンゴルのゴビ砂漠を核のゴミの最終処分地とする秘密計画が暴露され、国際的批判に晒された。いったんは、消えたかに見える同計画のその後を知りたかったからだ。
「トイレのないマンション」と例えられる原子力発電にとって、廃棄物処理は原子力開発上最大の課題だ。福島事故後も原発の生き残りを模索する原子力マフィアにとっても避けて通れない難問。プルトニウムを燃やす高速増殖炉「もんじゅ」も事故続きで全く動かないなか、国際処分場計画は「魅力的」なはずだ。
実際、2013年10月には、フランスの巨大原子力企業=アレバ社と三菱商事がモンゴルでのウラン鉱山開発に関する合意文書に調印し、ドルノゴビ県のオラン・バドラフ郡で6万dのウランを採掘することになった。今年から、戦略的ウラン鉱山3つの開発に着手する。
また、原発メーカーである東芝が、米政府高官に対しモンゴルでの「包括的燃料サービス」推進を要請する書簡を送っていた(2011年7月)ことも報道されている。「包括的燃料サービス」とは、モンゴル産のウラン燃料を原発導入国に輸出し、使用済み核燃料もモンゴルが引き取るというもの。危険な放射性廃棄物は自国内で処分するという原則を覆し、ウラン輸出とセットでモンゴルに国際処分場を作るという計画だ。「核燃料サイクル」をパッケージにして原発を売り込む計画には、日本の原子力ムラが深く関わっていた。(編集部・山田)
国際処分場計画は、米国主導で秘密裏に進められてきた。国内に処分場を確保できない米国が、原発を輸出する韓国・台湾の使用済み核燃料も合わせてモンゴルに運び、最終処分するという計画だ。
米大統領補佐官・ゲイリーダイモア氏は、「同盟国に核燃料を供給するアメリカにとって魅力的な計画だった」と語っている。
モンゴルで同計画を担当していたモンゴル国営原子力会社社長=バタム・ダムデン氏も、計画の存在を認め、「2010年にはモンゴル外務省にこの計画の作業部会も組織された」と語る。まずは、モンゴル側の事情から見てみる。
大阪大学准教授・今岡良子さんによると、モンゴル政府は、市場経済移行後、ウラン鉱山開発、核エネルギー利用、核燃料サイクル、核廃棄物処分に取り組んできた。1994年に鉱物資源法を制定し、国際資本の投資を可能にして、1997年に鉱業法を制定。国際資本に探査権や採掘権を認め、地下資源開発の法的環境を整えた、という。
こうした取り組みの結果、モンゴルの経済成長は、2011年に17・5%という驚異的な成長を記録し、その後も2012年=12・3%と、好調が続いている。2005年以降、鉱工業がGDPに占める割合が農牧業を上回って第1位となり、2012年の農牧業の対GDPが14・8%に対して、鉱工業は18・6%となっている。高度経済成長を維持したいモンゴル政府にとって、ウラン開発は成長の起爆剤なのである。
ところが2011年5月、毎日新聞が「日米が核処分場極秘計画原発商戦拡大狙う」とのスクープ。この後に、モンゴル国内で反対運動が起こり、当時の首相は国際的核廃棄物処分場について「否定」の記者会見を行なわざるをえなくなった。
現在のモンゴル政府の基本的姿勢について芝山豊氏(清泉女学院大教授)は、次のように要約している。@ウラン開発は行う、A原発は導入する、B他国の使用済み燃料の輸入と国際的使用済み核燃料中間貯蔵所をともなう商業ベースの核燃料リース協定に加わるつもりはない、C優先課題は核産業と核ビジネスについてもっと学ぶこと、というものだ。
ただしBは、「他国はそれを望んでいるのでしょうが、私たちとしてはやりません」という相手の期待を前提とした婉曲な否定であり、「モンゴルが引き取るとすれば、モンゴル起源のウランでなければならない」(モンアメ科学研究センター/2011年3月)に見られるように、「モンゴル産ウランの使用済み核燃料については否定していないことが重要だ」(芝山氏)と指摘する。
さらに、自然破壊を抑え、乱開発を規制する環境規制が外国投資にブレーキをかけているとして、規制緩和しろという圧力がかかっているそうだ。
前出アレバ社・三菱商事との鉱山開発調印式1カ月前に、環境のノーベル賞とも言われるゴールドマン賞を受賞した活動家=ツェ・ムンフバヤルが突然逮捕されている。象徴的事件だと言える。
現在モンゴルは、@2012〜16年に実験炉導入を決めているので、その使用済み燃料の処理問題を抱えており、さらにA技術移転による核燃料サイクル下で商業原子炉を必ず稼働するとしているため、今後の原子力開発について、芝山氏は次のような展開を予測している。
@自国実験炉の使用済み核燃料の中間貯蔵地は必ず作る、A自国商業炉の使用済み核燃料の中間貯蔵地も作る。これに加えて、B核技術移転の条件である自国産ウランの使用済み核燃料中間貯蔵地も設置することになるのは、自然の流れ。同氏は、「ここまで実績が積み重ねられれば、『もうこれだけ汚れているんだから』と、C国際管理最終処分場に行き着くことになると思います」と語っている。
いったん消えたかに見えているが、モンゴルの「包括的燃料サービス」は、国際的原子力ビジネスの生き残りをかけた戦略的事業として、今も推進されていると考えた方がいいようだ。
国際処分場計画は、ヨーロッパでも進んでいる。2011年、「使用済み核燃料などに関するEU指令」が各国に出され、核のゴミ対策を早急に立てることを義務づけた。ほとんどの国が核廃棄物を保有するEU諸国は、この時、処分施設の共有を認めた。(NHK「エネルギーの奔流A」)
この問題に長年取り組み、同構想を依頼されたチャールズ・マコンビー博士(国際地下貯蔵協会)は、「処分場を作るには、高い技術と多額の費用が必要」としたうえで、「原発建設には核のゴミを自国でどう処分するのか、その覚悟が必要」と語り、国際処分場計画が安易な原発導入につながらないよう、警鐘を鳴らしている。
アジアでは、モンゴルと北山(中国)、カザフスタンで、「核燃料のサイクル」という名目で、廃棄処分場建設が進められており、北山ではIAEA専門家の視察が繰り返し行われているという。(芝山氏)
こうしたなか、日本の原子力ムラのなかで推進役となっているのが、東大・原子力社会学教育研究イニシアチブ、国際保障学研究室だ。このプロジェクトのリーダーは田中知教授で、安倍政権の肝いりで原子力規制委員会の新委員に就任する人物だ。田中教授は、つい最近まで日本原燃その他原発関連企業から報酬を得ており、委員就任には強い批判が起きた。
「日本は、核不拡散と原発稼働のディレンマを抱えています」と指摘するのは、前出芝山氏だ。つまり、2018年に日米原子力協定の有効期限が終了するので、日本はそれまでにプルトニウムの処分方法を決めなければならない。原子力ムラにとって、選択肢は「核燃料として使う」という処分法しかないので、強引に高速増殖炉「もんじゅ」を動かし、MOX燃料として燃やすことにもなる。
それでも最終処分場は必要なので、モンゴルの原子力施設と核燃料サイクルを進め、「嘘でもいいから、モンゴルに最終処分場ができるという幻想を振りまくことが必要なのだ」(芝山氏)と語る。
「燃料供給から廃棄物処理のパッケージ」は、日本の原子炉メーカーが原発を輸出するうえで大きなセールスポイントにもなる。東芝が米高官に推進を求める書簡を送り、三菱がアレバと組んで鉱山開発を手がけるなど、着々と計画は進められている。
モンゴル廃棄物処理場建設は、福島事故後、原子力産業の生き残りをかけた戦略事業であり、国際原子力マフィアの最重要テーマといって差し支えない。
包括的燃料サービス(CFS)には、巨大な利権が潜んでいる。鉱山開発・精錬事業、輸送ルートの建設から処分場建設まで、途方もないマネーが動くことになる。30〜50年を見越した長期事業には、巨大な利権が眠っている。「最後は金目でしょう」―福島事故廃棄物中間処理施設建設に絡んでこう語った石原環境省の迷言は、モンゴルについても当てはまる。
「モンゴルの核廃棄物処理場建設は、日本の問題であり、世界の原発ビジネスが核燃料サイクルを推進するための重要な担保だ」と芝山氏は指摘する。これは、原子力に関わる全ての国に関わる、しかも世代を超えた問題でもある。
この幻想とも言える計画が生き続けるかぎり、原発が輸出され、再稼働が容認され、核のゴミが増え続ける。その結果、モンゴルの遊牧という生業は絶滅し、遊牧によって守られてきた草原は人類の目から姿を消すことになる。
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