2014/7/4更新
再稼働のトップバッターに指名された川内原発再稼働が山場を迎えようとしている。同原発の再稼働を許せば、次々と他の原発も再稼働することになる。逆に同原発再稼働を阻止、あるいは大幅に遅らせることができれば、次の再稼働も簡単にはできない。
6月12日から3日間、鹿児島県議会・九州電力鹿児島支社・川内原発現地を貫く阻止行動が取り組まれた。12日は、主に関東圏のからの参加者が午後6時半から議会棟前で前段集会と記者会見。13日、県議会初日には、全国の原発現地、全九州からの参加を含む千人超が議会棟を取り囲み、終日の抗議行動。14日は、川内原発正門前で抗議活動を繰り広げた。
再稼働をめぐる推進勢力と阻止運動のせめぎ合いは、合理性と正義性は言うまでもないが、力量においても阻止側が上回っていると感じられる、迫力ある行動となった。(編集部・山田)
県議会初日に当たる13日早朝7時、傍聴受付ブースには既に100人以上が並んでいた。県議会では、傍聴券を発行すること自体が異例だというから、関心の高さが窺える。議会棟周辺は、隣にある鹿児島県警からの制服・私服警官、県職員らが全ての入口を固めて来庁者をチェックするという、異様な警備だ。日本の原発再稼働をめぐる攻防の焦点にふさわしい緊張感を漂わせた。
原発の安全審査が始まったのは昨年7月。当初、「審査は半年程度」と見込まれ、早ければ2014年明けにも「合格」が宣言される原発があるとされていた。実際、伊藤祐一郎鹿児島県知事は、年頭記者会見で、「6月県議会で意見表明する」と発表した。
しかし、安全審査が始まって1年が過ぎようとしている6月県議会で、結論を出すことはあり得ない状況まで押し返している。「年明け=審査終了」・「6月=地元同意」という2度の再稼働策動を潰してきたのは、全国各地で闘われている反原発・再稼働阻止運動に他ならない。
3度目の策動は、早くて9月頃との見通しだが、九州と全国の運動を結集してこれを潰していく、との決意が漲る集会となった。
抗議行動を呼びかけた「反原発・かごしまネット」の向原祥隆さんは、次のようにアピールした。
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―川内原発が再稼働適合審査のトップバッターになったのは、「安全」だからではなく、地元合意が取り易いという理由からだ。伊藤鹿児島県知事と薩摩川内市長の前のめり姿勢は、顕著だ。伊藤知事は、5月の記者会見で「日本の原発は100万年に1回の事故しか起きない」と言っている。あきれた発言だ。川内原発の敷地には3万年前に火砕流が押し寄せており、10万年前にも火砕流が襲っていることがわかっている。火砕流は数万年に1回は起こるというのが、火山学者の知見なのだ。県知事は、こうした事実も無視している。
「数万年に1回なら良いんじゃないか」という意見もあるが、使用済み燃料の保管は数万年に及ぶので、原発が運転を停止していても、火砕流が襲えば世界的な核惨事となる。
昨年9月、川内原発から風船を飛ばしてみると、3時間半で宮崎まで飛んだ。鹿児島は、あっという間に汚染されてしまうことになる。
福島事故で、放射能の90%は太平洋に降った。残り10%の放射能汚染であれほどの被害が出ているのだから、西日本で原発が爆発すれば、放射能雲は偏西風に乗って日本全土を覆うことになるだろう。こうした事実を覆い隠したり、見ないようにしているのが、鹿児島県知事や県議会だ。
地震に対しても、安全性は担保されていない。1997年3月、川内原発をM6・5の鹿児島県北西部地震が襲った。96年には、1次冷却水漏れという間一髪の事故も起こしている。日本中の原発でこうしたきわどい事故が日常茶飯事のように起こっており、ついに福島事故に至ったのである。集会で挨拶に立った向原さんは、「原発を再稼働させれば、必ず事故は起こる」と、危機感をあらわにした。
さらに同氏は、「九州電力ほどたちの悪い会社はない」と批判した。「97年の地震の際にはデータを隠し、冷却水漏れの時(96年)もウソの報告を行った」という。火砕流についても、つい最近まで「原発には届いていない」と言い張り、多くの火山学者から事実を指摘されて渋々認めるという有様だからだ。
川内原発周辺の活断層についても、トップレベルの地震学者による「地震調査推進研究本部」が、九州電力の報告を否定した上で「(九電の)解釈はとにかくひどいものである」と酷評する始末だ。
さらに驚くべきは、こうした経過にもかかわらず九電は、再稼働申請に際して旧来の活断層評価のままで書類を提出したという。「こうしたデタラメをくり返しているのが九州電力であり、デタラメを許しているのが規制委員会です」(向原氏)。
地元では、特に避難計画について不安が高まっている。
川内原発30q圏内で暮らす住民は22万人。事故の際に避難するまでの時間もわからず、交通渋滞が起こった場合どうするのか?全く見通しが立っていない。さらに、急に風向きが変わって避難先が放射能汚染されていた場合、次の避難先も決まっていない。
避難計画は欠陥だらけにもかかわらず、鹿児島県知事は、「できている」と主張し、再稼働を認める意向をくり返し表明している。
病院や施設にいる要援護者の避難計画もずさんだ。伊藤祐一郎知事は、5月の定例記者会見で、次のように述べた。「10q圏の要援護者計画は7月にできる。そこまでできれば、パーフェクトに近い。30q圏の要援護者避難計画を作らないと再稼働はできないという人がいるけれども、そんなことをすれば全部の原発は動かない」。
県の防災計画でも「30q圏内」としているのに、これを自ら否定するというとんでもない発言だ。自力で避難できない人たちの避難計画も全く目処が立っておらず、自宅で暮らす在宅要援護者の計画も立てられていない。
かつての原子力安全委員長=斑目春樹氏の「厳密に安全を追求していたら、原発は動かせない」という発言と同じで、安全軽視の姿勢が顕著である。安倍首相は、「日本の規制基準は世界一厳しい」とウソの発言をし続けているが、彼らはゲッペルスの「100回嘘を言えば本当になる」に倣って安全神話を振りまいているようだ。
大飯原発再稼働をめぐる裁判で福井地裁は、「人格権が最大最高の価値だ」と指摘した。伊藤知事の発言は、要援護者の人格権を踏みにじる人権感覚のなさを示している。
原子力規制委員会への批判も相次いだ。「新基準」について規制委は、「安全を保証するものではない」と言い、政府は、「規制委の安全性判断の下で再稼働を進める」(エネルギー基本計画)としている。一方、鹿児島県知事や議会は、「政府が安全性を確認し、再稼働の政治決断をするなら同意する」としている。つまり、誰も責任を負わない形で再稼働が進められようとしている。
原子力学会の田中知氏が委員として規制委に入ることになったことを例にあげ、たんぽぽ舎の柳田真さんは、「人事の面でも、規制委員会が再稼働推進機関であるという本質を顕わにした委員交代劇だった」と批判する。
再稼働阻止全国ネットは、5月、全国14カ所の原発現地にある規制委員会の出先機関に対し申し入れ行動を行っている。内容は、@規制委員会がやるべきは福島事故の収束作業であり、A再稼働ではない、というもの。同氏は、「再稼働への第1関門である規制委員会への追及は、最も重要な行動の一つです」と訴えた。
また、「3年間、原発の電気がなくても大丈夫という実績を作ることができた。原発がない方がむしろ安全で安心だという実績だ」と強調。「再稼働トップバッターに指名された川内原発で最大の抵抗を示して原発を止めるという行動を、全国のなかまとともにやりきりたい」と決意を語った。
次の焦点は、9月の鹿児島県議会となる。
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