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2014/6/17更新

メディア時評

安倍暴走政権支える記者クラブメディア(上)

違憲の集団的自衛権容認

浅野 健一
ジャーナリスト/同志社大学大学院社会学研究科博士課程教授
(京都地裁で地位保全・確認係争中)

安倍内閣は、集団的自衛権行使容認に向けて、今国会会期中での閣議決定をめざしている。連立与党の公明党は、「限定容認」などと慎重な姿勢を見せてはいるものの、安倍の暴走を止められない。

今回の浅野健一さんの『メディア時評』は、集団的自衛権行使容認について、記者クラブメディアについて徹底的に批判してもらった。上下2回でお届けする。

なお浅野さんは、3月いっぱいで同志社大学から「定年延長拒否」という形で不当解雇されており、現在京都地裁で地位保全・確認係争中だ。(編集部)

※ ※ ※

私は慶応義塾大学時代に、「英字新聞会」というサークルに所属していた。ブッシュ米大統領をハーバード大学大学院で教えたことのある霍見芳浩・米ニューヨーク市立大学名誉教授は、同会の大先輩だ。霍見氏は4月25日、東京での講演で、「安倍政権は日本を滅亡させる」と警告した。日本の企業メディアは、訪日したオバマ大統領が尖閣諸島に日米安保を適用すると明言したのは日本外交の大きな成果だ、と持ち上げた。NHKなど記者クラブメディアの報道は、戦時中の大本営発表報道と変わらない。

霍見氏は「尖閣発言は、ロシア、中国をけん制するという大統領の内外における強い指導者イメージ♀m立のためだ。しかも、仮に中国が尖閣への武力行使に踏み切ったとしても、米国が日本国、日本人の安全のために自動的に、人、もの、資金を使って、つまり米国民の血を流すとの保障は、何もない」と強調した。

また「集団的自衛権に関する大統領の発言は、安倍首相が解釈改憲に走っているのまで歓迎≠オているのでは全くない。大統領は日中、日韓の更なる改善≠求めたが、これは河野談話と村山談話を国会決議にまで持って行く首相の政治力を期待していると解すべきだ」と解説した。

霍見氏は、日本に日本軍慰安婦問題で「強制」はなかったなどと強弁している政治家がいるのを嘆いた。オバマ大統領は4月25日、次の訪問国の韓国・朴槿恵大統領との共同記者会見で、同問題について「戦争中であることを考えても、女性たちは衝撃的な形で性暴力を受けた。これは甚だしい人権侵害だ」と語った。

私は「村山談話を継承し発展させる会」の共同代表の一人だが、4月9日、在京米大使館のダーナ・ウェルトン公使(政務担当)と会談した。共同代表の天木直人、高嶋伸欣両氏らも一緒だった。ウェルトン公使は「日本軍慰安婦問題は、日韓問題ではなく、戦時下の軍隊による性暴力をどう防ぐかという問題であり、日本は恥ずかしくないことをすべきだ」「アーリントン墓地と靖国神社は全く違う」「靖国神社の遊就館は、狭い視野で歴史を描いている」などと表明した。公使の見解は、オバマ大統領にも届いているはずだ。

中韓罵倒記事を垂れ流し 安倍の自作自演も批判できないメディア

NHKは4月29日、オバマ氏のアジア歴訪終了を伝えるニュースの中で、「日本では、米国に尖閣の防衛義務があると約束した」と報じていた。どこまで政府広報を繰り返すのだ、と思った。

私は霍見氏の講演会の後、サークルの先輩や同期、現役学生と懇談したのだが、「中国は怖い。何をするか分からない。沖縄も狙っている」「韓国はいつまでも慰安婦問題にこだわるのか」などと言うので、がっかりした。昔、学生運動で活躍した世代の人たちが、企業メディアの報道にだまされている。「週刊プレイボーイ」を除く有力週刊誌の見出しには、中韓罵倒記事が毎週載っている。特定の国、国民を差別・偏見で報じるのは、レイシズムではないか。

5月15日、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)が報告書を提出したのを受けて、安倍首相は今後の検討に関する「基本的方向性」を発表した。その中で、報告書で示された集団的自衛権の行使容認について今後さらに研究を進めていきたいとし、その上で「憲法解釈の変更が必要と判断されれば」閣議決定を行う、とした。

安保法制懇のメンバーは、安倍首相が選んだ、安倍氏と同じ思想のメンバーを集めて結論を出した。こういうのを自作自演、お手盛りという。民主国家では考えられない手続きだ。

安保法制懇の座長は柳井俊二元駐米大使で、メンバーは岡崎久彦(元タイ大使)、北岡伸一(東京大学名誉教授)、田中明彦(東京大学東洋文化研究所委嘱教授)各氏らだ。

座長代理の北岡氏は、奈良の東大寺学園中学・高校を経て、東京大学法学部卒だ。米英のイラク戦争を無条件で支持、自衛隊派兵も煽った。集団的自衛権の活動範囲について、「論理的には地球の裏側まで、極論すれば地球外でも。宇宙だろうがどこだろうが行くかもしれない」と言い放ってきた御用学者だ。

安倍首相は「東アジアなど国際安全保障環境の激変」と言うが、日本の歴史改竄と軍国主義化こそが東アジアと世界の平和の脅威である。

法制懇報告書は、釣魚島・尖閣諸島を、民間人・漁民になりすました中国人が上陸・占拠した場合のケースなどを挙げている。日本の多くのメディアが、中国が海洋進出、軍事的脅威を強調しているのを悪用しての結論だ。

首相はパネルを見せて、具体例を挙げた。東に米国の地図があり、日本の西にある地域を「攻撃国」としている。日本人が「最も重要な同盟国」の米国の艦船に救助されて運ばれている時に自衛隊が守れなくていいのか、と問いかけた。まさに子どもだましだ。

「150万人の日本人が海外に住み、年間1500万人が外国へ渡航する。米軍の艦船が攻撃された場合、同盟国の日本の自衛隊が米軍を助けられない。日本人が米軍の船に乗っているのに、助けられない。現在の憲法の解釈を変え、子どもや孫の命を守るべき責任が私にある」と言うのだ。

首相が挙げた15の具体例には、国連平和維持活動(PKO)に参加する民間人や他国の兵士を自衛隊が武器で救援する「駆け付け警護」も含まれている。

首相は、「平和主義を唱えるだけでいいのか。何もできないというのでいいのか。テロリストはいつどこを攻撃するか分からない、北朝鮮のミサイルは日本全土を狙える」と言いたい放題だった。

記者会見で幹事社の東京新聞が、「一政権が解釈を変えるのは危険。日本が再び戦争に巻き込まれるのではないか。それが積極的平和主義か」などと、いい質問をした。共同通信記者も、「一政権の解釈変更で行われることは、憲法により国家権力を制限することで人権保障を図るという立憲主義に反するのでは」と聞いた。その後、女性記者の質問は、「南シナ海での中国とベトナムの軍事衝突を受けてどう思うか」という提灯持ち質問があった。(次号に続く)

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