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2014/5/28更新

インタビュー「労働現場はいま」@

長時間・低賃金の運送業界
カメラでリアルタイム監視

新谷 満男さん(52歳/仮名)

非正規労働の増大、賃金の低下と、労働者を取り巻く環境は、厳しさを増す一方だ。しかし「ブラック企業」が話題になっても、自分が働いている業種以外で働く労働者の現場について、具体的にどんな様子なのかを聞く機会は少ない。

労組に相談に訪れた労働者に、職場・仕事について語ってもらうインタビューを連載する。個別のケースを積み重ねることで、新自由主義のもとで生きる労働者の姿を浮き彫りにしたい、と考えている。

1回目は、物流会社で働く新谷満男さん(52歳・仮名)だ。新谷さんが働くS物流鰍ヘ、広島に本社があり、西日本を中心に、40カ所の事業所・1400人の労働者を抱える中堅の運送会社だ。新谷さんは、大阪府高槻市にあるS物流の営業所(外食産業向けの物流を扱っている)で、正社員として働いている。(編集部 一ノ瀬)

──1日の仕事の流れは?

新谷…通常勤務の場合、朝5時出社です。夜勤になると、夜10時出社、翌朝10時まで。

センターは、身分証明書であるICカードがないと入退場できません。また、飲酒検知器が置いてあって、検査に引っかかれば、「乗車停止」の処分を受けます。

仕事は、物品の積み込みから始まります。私の担当は回転寿司チェーン店ですが、野菜・米以外を、伝票通りに積み込みます。店舗や季節で変動はありますが、寿司ネタ、割り箸やナプキンなどのアイテム数は、合計200種類あります。

生鮮食品を扱うため、倉庫は常温庫・冷蔵庫・冷凍庫・超冷凍庫の4つに別れています。そこを行き来して、仕分けをしていきます。店舗によって納品するものが違うので、決まった品物を積めばいいわけではありません。手積みなので、身体に負担がかかるし、気も抜けません。

私は1日6〜7店舗を担当していて、積み込みに約2時間。7時にセンターを出発し、配達に出ます。最初の店舗到着が、8時半頃です。積み降ろしは、1店舗約1時間。以前は1つ1つ検品していたのですが、「時間がかかり過ぎる」と、時間を短縮しています。これを繰り返して、センターに帰って終わり、です。1日12時間労働です。

──昼休みは?

新谷…休憩は1日75分取れることになっています。配達途中で取りたいのですが、配達時間が厳しく指定されているので、思うようにとれません。冷凍・生鮮品を積んでいるので、気分的にも「早く配達を」となりがちです。結局、休憩は配達を全部終えてから、コンビニです。

きちんと昼休みを取っている仲間もいます。でも運転席には監視カメラが設置されているので、ゆっくり昼寝という気分にはなれませんが…。

──運転席に監視カメラ?

新谷…1車あたり数百万円相当の物品を積んでいるので、会社は「盗難防止」目的で、外に向けて4台、運転席に1台の監視カメラを設置しています。運転席にあるのは、ドライバーによる盗難防止らしいです。

会社はカメラやGPS(人工衛星を使った現在位置測定システム)も使って、労働者をリアルタイムで監視しています。仕事中の事故やスピード違反は、すぐにわかってしまいます。

昼寝姿を撮影されるのが嫌で、運転席のカメラを横に向けていた労働者が、カメラを元に戻し忘れて、クビになったことがあります。

──労災は?

新谷…まず腰痛です。手積みによる積み降ろし、運転席で座りっぱなしなどが原因の職業病です。ところが会社は、腰痛を自己責任の「私傷病扱い」して、労災を認めません。

それから、冷凍庫はマイナス40℃にもなりますから、積み込み作業で身体を冷やしてしまい、耳鳴り、肩こり、血圧上昇などを訴える仲間もいます。

──賃金などの労働条件は?

新谷…シフトの違いなどで個人差はありますが、手取りで月20〜30万円です。ボーナスは年2回ですが、基本給は10年間で3千円しか上がっていません。基本給が安いため、残業で稼いでいる状態です。

トラック運送労働者の賃金や労働時間は、他産業と比べて悪いです。2007年の厚労省調査によると、全産業平均の年間賃金が490万円に対して、運送業の年間賃金は427万円。一方、年間総労働時間は、全産業平均2160時間に対して、2508時間となっています。

私は、職場の仲間に呼びかけて地域ユニオン(北大阪合同労働組合)に加入し、賃上げを主な要求として、団体交渉を要求しています。

会社は「ドライバーは会社の顔」だと言います。しかし、仕事がキツくて給料が安いのでは、人が入ってきませんし、長続きしません。

ドライバー事故招いた規制緩和

──営業所の様子は?

新谷…24時間稼働です。正社員数は約60人。ドライバーの年齢層は、40〜50歳代が一番多く、あとは30歳代。ドライバーは、会社を渡り歩く人が多く、私はS物流で約10年になりますが、ここで一番の古株になってしまいました。

会社は経費節約のために、配送車を抱えたがりません。うちでは、自社便=正社員ドライバーは3分の1です。残りは「傭車」と呼ばれるもので、派遣ドライバー・下請け便です。

また、40〜50人の中国人労働者が「品出し」の仕事で働いています。高槻市内には、中国人労働者を雇用している企業が多いようですが、「聞いていた給料と違う」というトラブルも多いようです。

──職場の若い人と、組合の話をしての反応は?

新谷…まず、自分の権利について知りません。労働基準法、最低賃金制度、団結権…こんな話をすると、ビックリします。特に30歳以下の人にとって、労働組合や団交は、「別世界」ぐらいの意識でした。

若いドライバーが減っています。まず中型免許(※注・車両総重量5d以上11d未満の車)を取るのに25万円かかりますから、その自己負担分がハードルになっているのでしょう。おまけにに低賃金・長時間労働・キツイとなれば、来る人がいなくなります。

西濃運輸や近物レックス(元近鉄物流)は、若手ドライバーを育成している会社として有名ですが、ほとんどの業者は無関心です。

この仕事は、ただ車を運転すればいいというものではありません。予想外のことに対応しなければなりませんし、荷扱いの技術、顧客の対応など質を高めようとしたら、ドライバー育成に力を入れるべきです。

──運送・流通業界の状況は?

新谷…とても苦しくなっています。燃料価格高騰や、規制緩和による新規参入業者の増加(注・最低5台のトラックで開業可能)で、運賃のダンピングが常態化しています。流通業者が競争で下げる場合もありますが、ほとんどは荷主からの運賃「買いたたき」です。

業者が増えすぎて仕事不足という弊害もあり、倒産も多くなっています。それでも毎年、2000社が新規参入し続けているのです。

こうした状況は、明らかに異常です。いい加減な業者も多く、ドライバーとしての意識・誇りを持てないままにこき使われている労働者や、無責任な仕事をしても平気な業者が多すぎます。何らかの規制は、絶対必要です。

高速バスの事故や、過積載によるトラック事故などがマスコミでも取り上げられましたが、こうした事故を引き起こしたドライバーの睡眠不足も過積載も、行き過ぎた競争によって、労働者がしわ寄せを受け続けてきた結果です。

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