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2014/5/11更新

八重山教科書採択問題で下村文科相の「敗北」ほぼ確定
横暴な安倍内閣に初の挫折を経験させた竹富町の主権在民意識

琉球大名誉教授 高嶋 伸欣

宮古・八重山地方は、北に尖閣諸島をのぞむ国境の島々だ。ここ数年、安倍政権は、辺野古移設をはじめ、沖縄への締め付けを強めている。竹富町での中学公民教科書問題について、琉球大名誉教授の高嶋伸欣さんに原稿を寄せていただいた。また与那国の自衛隊誘致問題について、富田英司さんからの「沖縄通信」(2面)を掲載する。(編集部)

「つくる会」系の育鵬社教科書を拒否した竹富町教委と町民

沖縄県の八重山地方は、サンゴ礁の海や星砂の浜、それに亜熱帯植物の茂る西表島などの自然環境に魅かれた国内外の観光客で、賑わいを増している。その八重山地区が2011年夏以来、別の話題で全国から注目されてきた。中学校の社会科公民教科書の採択で地元の教育委員会の判断に自民党のタカ派文教族などが政治的圧力を加え、採択結果を変更させようとしたのに対し、人口4000人の竹富町が抵抗し続けている、という件についてだ。

小学校と中学校の教科書は、1962年制定の「教科書無償法」と翌年制定された「無償措置法」により、国が買い上げて児童・生徒に給付している。その際、検定制度によって複数の教科書が存在する中のどれを選ぶかという採択権限は、「地方教育行政法」の規定で、個々の教育委員会にあるとされてきた。

ところが、「無償措置法」では、採択の地域単位を「市若しくは郡の区域又はこれらの区域を合わせた地域」とし、この採択区域においては、科目ごとに同一の教科書を採択しなければならない、とされていた。

このために、2010年までにも、幾つかの採択地区で教育委員会間の意見が対立して、紛糾する事態が生じた。しかし最終的には、地区内で同一教科書を採択しないと無償扱いされず、地区全体に迷惑が及ぶ、との「脅迫」に少数派が屈することで、混乱は表面上回避された。だが、2011年の八重山地区の採択では、そうならなかった。

八重山地区の石垣市と与那国町は育鵬社版の公民教科書を採択し、竹富町は東京書籍版を採択するとして、採択協議会で対立した。育鵬社版は、現場教員を調査員に委嘱して各教科書の比較研究をした報告書では、「問題点だらけ」とされていた。東京書籍版は、報告書で推薦されていたものの一つだった。

さらに、採択協議会の運営も不明朗だった。再協議の場では、多数決で育鵬社版を選ぶとされた。しかし、文科省は協議会の結論を参考意見とみなし、教育委員会に対する強制力はないものとした。このため、竹富町は再協議の繰り返しを求め、沖縄県教育委員会も文科省と相談しながら再協議を指導していた。

ところがその再々協議の最中に、当時は野党だった自民党の義家弘介議員などが介入し、再々協議では多数決で東京書籍版に一本化した結果を、民主党野田政権の中川正春文科大臣が認めないように、圧力を加えた。発足間もない野田政権が、国会での審議拒否などによって混乱するのを恐れた中川大臣は、安倍晋三氏たち自民党タカ派文教族の圧力に屈し、石垣市と与那国町の育鵬社版は無償扱いとし、「竹富町の東京書籍版は無償制の対象としない」との決定を同年10月にした。ただし同時に、「竹富町が、公費で東京書籍版を購入して生徒に給与するのであれば、それを法律では禁じていない」との法制局「見解」も公表した。

この「見解」は、国ではなく自治体が教科書代を負担するのであれば、ともかく無償制は守られていることになるという、姑息な手段を提案したものだった。これに対して、竹富町は強く反発した。一本化できていないとみなされるにしても、その責任は3自治体に等しくある。にもかかわらず、竹富町だけになぜペナルティを課すのか。ましてや、混乱の原因である「地教行法」と「無償措置法」の規定の矛盾を長年放置してきた責任は国側にあって、竹富町には違法性がないことを中川大臣も認めていた。

このような不条理に対して、竹富町教委と町民は予想外の行動に出た。町費での購入ではなく、全国各地からの寄付金を町内の篤志家が管理して、それで毎年必要な部数の東京書籍版を購入し、教科書現物を教育委員会に寄付したものが生徒に渡される、という手法を実行したのだった。この手法によって、竹富町の中学校では現在までの3年間、何の支障もなく平穏に学習が続けられている。

下村文科相と自民文教族の完敗/沖縄から日本は変わる!

予想外の事態に直面させられた野田政権は、効果的な対応をほとんどできないまま、2012年12月に安倍政権と交代した。教育政策でのアピールを重視している第2次安倍政権では、義家議員が文科省政務官に就き、前政権以上に露骨な圧力を竹富町と沖縄県の教育委員会に加え続け、育鵬社版への採択変更を迫った。電話での指導、文科省に呼び出しての指導、文書による指導、政務官が現地に出向いての指導、など。

いずれも、竹富町だけに責任を負わせている不条理について何も説明のないもので、竹富町教委は全く動じなかった。

ついには下村博文・文科大臣が地方自治法による「是正要求」を県教委と竹富町教委に出すに至ったが、共に受け流されてしまっている。残る手段として「違法確認訴訟」を起こせる、と下村大臣はしきりにけん制している。しかし、その道は事実上閉ざされている。

下村大臣は、国会に「無償措置法」改正案を上程し、この4月に可決成立させた。その結果、採択地区は「市もしくは郡」から「市町村」に改められた。しかもこの改正条項は、「公布と同時に発効」とされた。したがって、今年2014年夏の採択の時から竹富町は単独の採択が可能になり、東京書籍版使用の4年目に当たる2015年度分については、無償制が適用されることになる。そのためには採択地区の区分を変更する県教委の議決が必要だが、県教委はすでに5月21日の定例会で、そのように議決する方針であることを表明している。したがって、今さら下村大臣が「違法確認訴訟」を起こしても何も意味はなく、「訴えの利益なし」として門前払いにされることは明らかだ。

かくして、八重山教科書問題の第1ラウンドは、下村大臣たち文科省と自民党タカ派文教族の「完敗」で終わろうとしている。国会の衆参両院で安定多数の議席を確保した安倍政権は、「戦後レジームからの脱却」を旗印に、「暴走」と言われるほどの強引さで次々と大胆な政策を実施している。その「我が世の春」を謳歌しているかに見える政権に対して、西の果ての小自治体が一歩も引かず、不条理な権力行使を挫折させたことになる。

政権側が右往左往し、万策尽きて立ち往生している様に国内外のマスメディアが注目し、この話題はすでに全国から国際レベルへの広がりになっている。特に人々の関心を呼んでいるのは、竹富町の主張の根底に主権在民の原点がある、という点だ。

安倍政権の偏狭なナショナリズムを十分に抑止できていない最近の日本社会の状況にいら立ちとあせりなどを覚えつつある他府県(本土)の人々にとっては、安倍首相とは別の意味で衝撃を受けたできごとでもある。それは、国内に「向かうところ敵なし」のごとく勢いづいている安倍政権に対しても、主権在民の原則に立脚した姿勢を堅持するならば、必ずその横暴を阻止することができる、と竹富町の人々が実践をもって学ばせてくれた、ということだ。

沖縄から「本土」社会が学ぶことは、基地問題だけではない。沖縄から日本が変わる。それを証明する事実がここに存在する。このことを我々は広く認識していきたい。

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