平和への提言①

子ども時代、一番好きだったことは、祖父の話を聞くことでした。藤の椅子に座った祖父は、穏やかな声で若いときの思い出話をしてくれたものです。しかし、日本のことに触れると毎回、厳しいまなざしで、「日本人はとても悪い人間だ」と、言いました。

祖父は１９３０年代に生まれ、20歳のときに軍隊に入りました。貧しさゆえに、学校に行けなかった祖父にとって、教育を受けるところは軍隊しかなかったのです。戦争のせいで日本に悪い印象を持ち続けている祖父は、日本語を専門に学ぶ私に対して、会うたびに「何を学んでもいいが、よりによって日本語なんかを」と、何度も言うのでした。私が、「日本人みんなが悪い人間ではないよ。私の先生も日本人だけど、やさしい人だよ」と、言い返すと、祖父はただ首を振ってため息をつくのでした。

２年生のとき、学校の日本人教師―田中先生が広州に旅行された時に、私の家に泊まりました。母は日本人が初めてでしたが、２人はとても仲良くなりました。

先生が帰国されたあと、先生の印象を聞くと、「とてもやさしく、礼儀正しかったよ。田中先生は開いている部屋の前を通るとき部屋をのぞかないし、案内していないところも勝手に入らなかったよ」。「それは普通の礼儀じゃないの」。

「それができない人がいるんだ。その一人が、黄姉さんさ」と言いました。

一週間後、母の友達の黄姉さんが、母の引っ越し後、初めて家にきました。彼女は玄関に入ると、あちこち見回し、カーテンも全部勝手に開けて、「新しい服を買ったの？」と、洋服ダンスまで開けてしまいました。

自分にできること

冬休み、祖父にその話をすると、しばらく黙っていましたが、疑うようなまなざしで「日本人にもいい人がいるのかね」と、独り言を言いました。日本人に対して、初めて態度が変わった祖父を見て、私は一気に力を得ました。

その後、祖父の家に遊びに行くたびに、先生から教わった社会的マナーや、日本語コーナーで知り合った日本人のことを祖父に話すと、次第に、そして確実に、祖父の様子が変わっていきました。

ある日、テレビに日本人が出ていました。祖父は私を呼び、「この日本語、わかるのかい」と聞きました。私が通訳してあげると祖父は、目を細めて笑い、「すごいね、学校でよく頑張っているんだね。これからも頑張りなさい」と褒めてくれました。

そのときの祖父の目は、「お前のしていることを認めよう。日本語でも何でも、学ぶことは素晴らしいことだ」と言ってくれていました。今でもその時の祖父のまなざしが、ありありと目に浮かびます。

「日中友好」と言えば、とても大きいテーマですが、日常生活の小さい積み重ねなら、自分にもできることがいっぱいあります。

もし私たち一人ひとりが周りの人にほんとうの日本の姿を丁寧に、よく伝えれば、日中友好の局面は早く打開できると信じます。それは、かけがえのない祖父のまなざしが、私に教えてくれたことです。

日本のアニメとともに成長した私

上に紹介した提言を発表した余立君さんに、提言の背景や自分と中国の将来などについて聞いた。

学生の私が、「中日友好」という大きなテーマについて提言などできるか？と不安でした。江西省は中国の中でも貧しい省で、経済発展も遅れ日本企業も日本人も多くありません。

ずっと悩んでいましたが、週末、家に帰った時に祖父が「日本語を教えてくれよ」と言いました。私が簡単な「こんにちは」や「ありがとう」を教えると、真面目に私の発音を真似た祖父の顔を見て子ども時代を思い出し、スピーチの内容が決まりました。

英語の成績はずっとクラスのトップだったので、「外国語に才能がある」と言われていました。「英語以外の外国語を学びたい」という気持もあり、日本のアニメと一緒に成長したので、日本語を専攻しました。

本当の日本の姿がわかるようになりました。以前は、日本というと第２次世界大戦を思い出しました。日本軍は残忍で野望の強い国だと思っていました。

でも日本語を学んだ今は、日本人に接する機会が多くなりました。日本人は礼儀正しく、仕事に対してとても真面目で、清潔を心がけるなど、学ぶべき素養がたくさんあると思います。日本は中国伝統文化の影響を受け、ちゃんと保存している国だと思います。今は、特に中日関係のニュースを関心をもって見ています。

釣魚島の国有化は直接に中日友好関係を壊す事件でした。日本政府は、中国の意見を無視し、島の国有化を強行し、靖国参拝をくり返しています。これらは中国国民の感情を傷つけています。戦争は、傷を受けた方が、より強く記憶に残ります。私たちは靖国参拝にはとても敏感です。

夢は、中国伝統文化を世界に広めることです。フランス語も学んでいます。中国伝統文化の経典を翻訳し、国際舞台で活躍したいのです。

現代中国は、貧富の格差や子どもを溺愛するなどの課題に直面しています。中国は物質的な面で豊かになりましたが、将来は精神的にも豊かになると思います。中国の未来を信じています。

人民新聞オンライン