2014/4/10更新
2013年12月13日『レーバー・ノーツ』 サマンサ・ウィンスロー
「ブース教育」とは、児童を狭い仕切り空間に閉じ込めて、コンピューターなどの教育器具を通じて、条件反射的な訓練を行い、州主催一斉テストの点数をあげること。チャータースクールのネットワークであるロケットシップ・エデュケーション社は、そういう教育をアメリカ中に普及させる、と豪語している。
ハイテク界の大物たちは、この「教育実践」を支援し、「落ちこぼれゼロ」教育に貢献していると自慢。シリコン・バレーのエリートは貧困地区や労働者階級の子どもを対象にした「教育実践」を支援しているが、自分の子どもは、「コンピューターが児童の発育の妨害になる」という哲学で授業をするエリート私学へ通わせている。
ロケットシップ社の幹部は、「既成概念に囚われない教育を実践する」と自慢している。
例えば、「教師など不要だ」というのだ。教員免許のあるベテラン教師を外し、無資格の大学生や大卒者を時給15jで臨時雇用する。教員減で年間50万jの節約。無資格臨時雇用指導者は、マザーブースに陣取り、一度に130人の生徒のブース内学習状況をモニターする。生徒たちは「ロケッティア」と呼ばれ、1日に2時間、ブースの中でコンピューター画面と睨めっこして、パズルに答える形で学習する。
ビル・ゲイツのような財界指導者は、子どもに未来の職種のための訓練を施すべきだ、と言っている。「未来の職種」とは、デジタル・アニメ制作者とかナノテク技術者のことを言っているのだろうか?
しかし、「ロケッティア」は、例えばクラウドフラワー社(訳注…タスクをクラウドソース、つまり不特定多数の人々に委任するという雇用形態で管理するサービス会社)のオンライン「マイクロタスク」の訓練を受けているだけである。クラウドフラワー社は、データ仕分けや重複データ削除のような単純作業をやる会社である。マイクロタスクをやる人の賃金は、時給2j程度。
概して言えば、最近は公立学校が育成するような熟練中産階級的職業人口は、チャータースクール(親や教員、地域団体などが、州や学区の認可を受けて設置する初等中等学校。公費の補助を受けるが、公的教育規制を受けない)の増加で減少、低賃金職が増加している。ロケットシップ社が自ら育成しているような種類の労働者、つまり非熟練の非組合員労働者を雇用しているのは、偶然の一致ではない。同社の教員の半数が教育経験2年以下で、75%が「ティーチ・ファー・アメリカ」(TFA)(訳注…ニューヨークに本部があるNPOで、大卒者を教員免許の有無にかかわらず、国内各地の「教育困難」公立校へ送り込む)から送り込まれている。
ロケットシップ教育モデルを批判する人々は、児童への「コンピューター画面での学習は1日2時間以内に制限すべき」という全米小児科協会の勧告を引き合いに出す。児童が学校外でもパソコンやタブレット・携帯電話に接していることを考慮すると、彼らのパソコンなどの電子器具への接触時間は、平均7時間以上になる。まさに警告が必要な状況である。また、ロケットシップ教育は、芸術・言語、その他おこなわれるべき学習を犠牲にして、テスト準備の訓練ばかりに終始している、と批判する。
ロケットシップ理事会や顧問は、ゲイツ財団、ウォルトン家族財団、ブロード財団など、企業「教育改革」でお馴染みの顔ぶればかり。後援団体の中には、フェイスブック、ネットフリックス、スカイプなどの有名なインターネット会社の姿がある。
ロケットシップの学校はカリフォルニア州、ウィスコンシン州、テネシー州にある。2017年までにインディアナポリス州、ワシントンD.C,ニューオーリンズ州に拡大し、生徒数25000人にする計画だ。対象となるのは低所得世帯の児童で、彼らをブース教育モデルの実験モルモットにするわけだ。子どもを実験台に使われることを望む親がいるだろうか?ビル・ゲイツ自身も、「この教育の効果の有無は、10年経たないと分からないだろう」と言っている。
実際、ロケットシップ・チェーン校は、4年生や5年生など上級学年については、100ブース減らした。上級生は機械的な反応学習に熱中しなくなり、時にはぼんやりスクリーンを眺めているだけで、当てずっぽうで回答ボタンを押しているだけの場合が多くなったからだ。
ハイテク界エリートの熱心な口調を聞いていると、彼らが毎日自分の子どもをこれら流行の最先端校へ車で送り迎えしているかのような錯覚に陥る。しかし実際には、彼らの子どもはウォルドルフ・スクール・オブ・ザ・ペニンシュラ(コンピューターは子どもの発達と注意持続時間を阻害するので、コンピューターを使わない教育を行うという教育方針)のような私立学校へ通っている。経済的余裕のある層は創造性、人から人の学習法、少人数クラス、生徒―教師の相互作用や人間関係などを大切にする学校へ子どもを行かせるのだ。
ビジネス界の大物たちは、自分の子どもをそういう私学へ通わせる一方で、公立学校を自分の企業の市場として利用し、公教育費用を自社の利潤に変えるのだ。
教育は、彼らにとって5000億j産業である。ちなみに、ロサンゼルスの学校は、すべての生徒と教員にアップル社のiPad(アイパッド)を買い与えた。
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