2014/4/10更新
インタビュー 内部被ばくを考える市民研究会 代表 川根 眞也さん
福島・関東で放射能による子どもの健康被害が増え続けている。だが国・行政による情報隠しと対応の遅れは深刻だ。特に関東は意識されること自体が少ない。川根さんは中学校の理科の教員で、今回の地震後にすぐ「放射線測定メール」を発信し、友人と「内部被ばくを考える市民研究会」を2011年8月に立ち上げた。日々接する子どもたちへの被ばくの広がり、教育現場での困難、今後について話を聞いた。(園良太)
川根…事故直後に「これは内部被ばくが大変なことになる」と思い、学校現場や身の回りを測定してメールで発信し始めました。「放射能が危ないと学校で言うな」と言われていましたが、どこかで子どもたちに説明しなければと思い、内部被ばくの講演会を学校近くの公民館でやりました。その時お母さん方が複数参加され、「これは良い話だ」と毎月4〜5回の講演を依頼されるようになりました。最初の1年間で43回やりました。
先生は給食を食べるかどうかを選べますが、子どもたちは選べません。だから保護者にも聞いて欲しいのですが、私の中学の保護者からは講演依頼がありません。授業で放射能のことを話すと、子どもから保護者に行き、保護者から校長に「放射能のことだけで授業時間を使いすぎる」とクレームが行きます。校長・教頭からは「授業で予定された時間以上に放射能のことを話すな。ただし学校外で勤務時間外の活動には口出ししない」と言われています。
結局、学校というのは国家権力の末端機関で、国が決めたことに従って動くものなんですね。だから、自由主義の学校と違って、国が決めたとおりに授業をやらなくてはならない。第1次安倍政権の下で教育基本法も改悪されています。その下で愛国心教育や道徳教育もやらなきゃいけない。同じく「国が100ベクレル/s以下まで安全」と決めたら、それ以下の食材は「安全ではない」と言ってはいけない建前なのです。学校が政府基準に逆らうことは勇気がいることなのです。
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川根…私は、福島市や郡山市は、人間が住んではいけないレベルの汚染だと思っています。多くの子どもが甲状腺がんを発症しているし、僕がそこにいたら、教師を辞めて避難しているかもしれません。
今年2月7日の「第14回県民健康管理調査検討委員会」の報告で発表された数字というのは、甲状腺がんおよびその疑いが75名という数字です。そのうち、『甲状腺がん』と確認されたのが33名で、既に手術をして甲状腺がんをとってしまった子どもです。
残る「疑い」の41名(1名は手術して良性腫瘍とわかっている)は、実は甲状腺がんの手術を受けるべきなのに受けていない、手術を待っている子どもという意味なのです。その子どもたちの9割方は、調べたら良性腫瘍ではなかった、つまり75名中70名近くは甲状腺がんが確定した、ということです。これは非常に大きな数字で、ベラルーシの甲状腺がんの発生割合を大幅に超えています。
福島原発事故前の子どもの甲状腺がんは「10万人に0.1〜0.2人」ですが、今回の調査は「10万人あたり72人」で、145倍です。しかし、福島県立医大はいまだに「放射能の影響とは考えにくい」と言い続けています。
実際には、福島は凄まじい土壌汚染があります。日本の人口密度はベラルーシの比ではないので、もっとたくさんの子どもが甲状腺がんになる可能性があると思っています。
川根…「放射能防護プロジェクト」に参加している三田茂さんという医師がいます。この3月に小平市の病院を閉院して、東京から岡山へ移住することを決断されています。今年3月11日に、『報道ステーション』で古舘伊知郎さんが甲状腺がんの特集をやりました。古舘さんは三田先生にも取材に行っています。
三田医師は、東京・関東の子どもたちの血液、特に白血球の数値が低くなっている、と明らかにしました。それは柏市や三郷市のようなホットスポットだけでなく、埼玉市や川崎、横浜、相模原の子どもたちの数値も悪くなっている、と指摘しました。
話を聞いた古舘さんたちは驚いて、「先生の名前と顔が出るが、話していいのか」と聞きました。三田先生は「大事なことだから、きちんとした良い番組を作ってくれるなら出して構わない」と、OKを出しました。ところが、数日後に連絡が来て、「実は東京が危ないということは報道できない」と、全面カットになったそうです。福島だけの問題になってしまいました。
三田先生は、他の医師にも「甲状腺エコー検査機器を共同で買って、治療し直しましょう」と呼びかけているのですが、反応がない。多くのテレビ局や新聞社からも、「東京の子どもの健康問題はどうなっているんだ」と取材を受けていますが、一本の記事にも番組にもなっていません。今のマスメディアは、「東京は安全だ、危険なのは福島だ」という情報操作がなされているのです。
実際には、関東の子どもたちの健康状態が悪くなっています。具体的には、子どもたちの血液の数値が非常に悪くなっています。特に、白血球の中の好中球の数値が下がっている傾向があります。好中球 が極めて少なくなると、風邪やインフルエンザにかかっても、病気が重 篤化する可能性があります。特に0〜2歳児の子どもで非常に悪い子が いました。白血球のうち、好中球が0になった子どももいたそうです。
大学病院では、診断はできても、治療はできませんでした。三田先生は そうした子どもの親には、「この子はここに居ちゃいけない、避難しな
いと良くならない」と話したそうです。九州に避難したその子どもは、好中球が4000、5000台に戻ったと聞いています。三田先生は今までに3人の子どもを東京・関東から西の方へ逃がしたそうです。
少ない例ですが、好中球が非常に少なくなった0〜2歳の子どもはみな、2012年春以降に産まれた子どもたちです。原発事故直後に産まれた子ども
たちではありません。小さい子どもを持たれている方は、白血球の分画まで調べるべきです。赤血球や血小板の数値と合わせた「末梢血液像」を調べて下さい、というとやってくれます。
血小板も下がっています。普段は20万ですが、10万や5万ならば、出血し た場合に回復する力があります。しかし、2万を切ると、出血した際に血が止まらなくなります。まだ、そういう子どもは診ていませんが、血小板の数値が極端に下がり、デッドラインを切るようになると危険です。
放射線を受けると、骨髄細胞が白血球を作り出すことができなくなります。赤ちゃんは急に具合が悪くなって重篤な症状になることがありうるので、急いで白血球の検査をする必要がある、と言っていました。
川根…2011年の末から12年までは、東京の江東区や葛飾区、千葉の柏や松戸の辺りで、「異型リンパ球」(リンパ球が放射線の影響を受け、形態異常になること)の子どもが多かったです。柏や松戸で子どもの健康被害に危機感を持った方は、すでに避難しました。
そして、2012年末から13年にかけては、東京の多摩や神奈川・埼玉に広がっているのです。これは、福島より低レベルの汚染地帯にいても、子どもたちの具合が悪くなっている証左だと思います。
いま症状が出てきた理由は、事故から2〜3年たち、放射性物質が体内に入って悪さをしているのだと思います。問題なのは、ごみ焼却場で放射性物質がついた落ち葉、木の枝、生活廃棄物が燃やされて、その見えない灰やチリが地域に拡散されていることです。それが呼吸とともに摂取され、特に赤ちゃんに悪影響を与えているのだと思います。
三田先生は、「東京・関東圏で甲状腺がんの子どもはまだ一人も診ていない」と言っていますが、肺炎で亡くなる中高年の方が増えているとおしゃっていました。ボランティアで街路樹の剪定や落ち葉掃除、側溝掃除をされた後にです。
学校現場でも、「うちの子は風邪をひきやすくなった」という家庭は多いと思います。私の中学校の保健室は、年間利用者が3700人を超えたそうです。一昨年の倍くらいじゃないでしょうか。ウイルス性胃腸炎に年3回なる子もいますし、お腹をこわす子も多いです。
また、体育の授業で、1500m走の後に33人中25人もの子どもが咳込み、うがいに行きました。初めてのことです。「外で激しい運動をした後に、子どもたちの調子が悪くなる」という感覚を持っています。学校側は「放射能とは関係ない」を前提にすべてのことを見ているので、対策のとりようがないのです。
関東でも安全キャンペーンが張られています。福島より意識されない形で、より巧妙に発動していると思います。これを変えることが必要です。
川根…《健康被害は放射能とは無関係だ》とされています。だから、松井英介氏ら「市民と科学者の内部被曝問題研究会 医療部会」では、事故直後からの自分の日常記録を書きこめる『内部被ばくからいのちを守る健康ノート』を作りました。これを多くの人に活用してほしいと思います。また、マスコミは事実を報道しないので、地域で小さな勉強会を開くことも重要だと思います。保護者は、健康診断の実施を求めるべきです。
保養のためのサナトリウム(保養所)も必要です。社会運動に関わる方々にもお願いしたいです。ベラルーシには50カ所の保養所があり、年間4万5000人の子どもたちが利用しているそうです。自分のカルテを持ち、体内放射能の数や保養でどれだけ下がったかがわかります。親が避難先で仕事を見つけられるよう、行政に支援政策をやらせる運動も必要です。力を合わせて実現させましょう。
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