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2014/4/2更新

【連載特集・「生きづらさ」を追う】C

言葉を武器に生き延びる
「生きづらさ」を短歌に昇華

当事者インタビューB  歌人 鳥居さん

「自分を肯定してくれる場所はある!」と伝えたい

@短歌に出会った経緯は?

DVシェルターに居た時に、図書館で出会いました。世間では無価値とされているものに価値や美がある、と認めてくれたのが短歌でした。孤児院で「ゴミ以下」と呼ばれ、対人恐怖でコミュニケーション能力がなく、学歴もない私にも、短歌の世界なら居場所があるんじゃないか、と思えました。

揃えられ主人の帰り待っている飛び降りたこと知らぬ革靴

刃は肉を斬るものだった肌色の足に刺さった刺身包丁

鳥居さんの短歌だ。初めて応募した現代歌人協会の2012年の全国短歌大会で、佳作に入選。2013年には、路上文学賞・大賞を受賞した。同賞選者の星野智幸さんは、次のように評した。「この人は、言葉だけを命綱として生き、言葉だけを武器として世と渡り合い、生き延びようとしている。それほど、鳥居さんの言葉は強いものです。単なる学校時代の苦痛の体験を詩的な言葉で美しく描いた作品ではありません。言葉だけでもって独りで世界と対峙しようと腹をくくった、凄みのある作品です」。

虐待、親の自殺、ホームレス生活など、過酷な状況を生きてきた鳥居さんは、短歌に出会い、「ありのままの自分で居ていい場所を得た」という。自身もたびたび希死願望に襲われるという鳥居さんは、「生きづらいなら短歌を詠もう」と呼びかけ、自殺を減らすボランティア活動も行う。

鳥居さんの生い立ちは、次のようなものだ。2歳のときに両親が離婚。母の実家に戻るが、不仲で、夜逃げ同然で東京へ。小学校5年の時、母親が自殺。新宿区の児童相談所に保護され、養護施設に入所したが、虐待の中で数年間を過ごし、学校にも通うことができなくなる。15才の時、アルバイトをしながらひとり暮らしを始めたが、対人恐怖で仕事は続かず、嫌がらせをする叔父から逃れるため、DVシェルターに避難。その後、里親に引き取られたが、熱が出た日に「そんな身体の弱い子はいらない」と追い出されてしまい、ホームレス状態を数カ月間過ごした。(聞き手・文責編集部山田)

路上生活時代は短歌を作る余裕などなかったのですが、大阪にたどり着き、安アパートを借り、貧乏ながら屋根のある生活を確保できて、やがて自分もこんな世界が紡ぎ出せたら素敵だなと思い始めたのが、3年ほど前です。見様見真似で短歌らしきものを、ひとり暮らしの部屋の中で地味に作るようになりました。たぶん100首以上は作りました。だけど、人が怖くてひきこもりだったこともあり、誰にも見せずにいました。

ある日「自分の短歌が良いのか悪いのか知りたい。誰かの意見が聞きたい」と思い、衝動的に賞に応募しました。

思い出の家壊される夏の日は時間が止まり何も聞こえぬ

これが受賞作です。選者の穂村弘さんは、「思い出が壊されてしまう思い出で心がいっぱいになってしまう音や時間を遮断してしまっている」と評してくれました。孤児院では「ゴミ以下」と罵られていた私ですが、良い作品を書けば何か変わるかもしれない、という予感を持ちました。

この頃、ボランティアも始めました。ひきこもりの友人のために何かできることがないか、と思ったのがきっかけです。私自身もひきこもり傾向にあるため、「どうしたら私たちは生きやすくなるのだろう?」と考えています。

A短歌を詠み始めて、何が変わりましたか?

世の中には、幻覚なのか霊感なのかわからないけれど、みんなには見えないものが見える、という人がいます。でも「みんなと違う自分はおかしい」「変な奴だと思われる。内緒にしておこう」という気持ちが働きます。

ところが、短歌の世界は違います。みんなには見えないけど自分には見えるという幻視も、行き場のないどうしようもない感情、些細なことのはずなのに何故かいつまでも胸を痛め続けてしまっている憂鬱な気持ち、などがうまく表現されると、作品となります。そうした生きづらさを作品に昇華させれば、「あの人しか書けない歌だ」と世間から評価してもらえます。

私は、短歌に出会って孤独が慰められたような気持ちになりました。短歌を詠んだところで、決して孤独が消え去ることはないのですが、「こんなにどうしようもなく孤独な人がこの世界に、私以外にも存在していたんだな」と慰めになりました。

徐々に「生きづらさと短歌」という2つのものが、私の中で結びつくようになりました。器用に前に進めず、他の人が気づかずにやり過ごしてしまうようなところで立ち止まって悩んでしまう、そういう人だからこそ表現できることがある。このような生きづらさを感じられる感性や悩む力を評価してくれる世界が、短歌だと思います。短歌は、生きづらさを「武器」にできます。

現在私は、講演会(「生きづらいなら短歌を詠もう」昨年10月・紀伊国屋書店など)の他にも、セクシャルマイノリティの人限定の短歌の会を行っています。無職状態にある人やひきこもりの人を対象とした「生きづら短歌会」(今年2月)も行いました。

また、目の前で母と友人が自殺したので、自殺を減らしたいとも思っています。私自身も希死願望があるのですが、生きることが辛くなってしまった人に寄り添える方法を模索しています。自殺志願者は、「この世に自分を肯定してくれる場所はない」と思っています。そんな人に「ここにあるよ」と言ってあげたいのです。

生きている人より死んだ人ばかりくっきりと見える輪郭の淵

私は感情移入が激しいので、自殺志願者の話を聞くと、同じように辛くなってしまいます。でも、救える可能性があるのなら「やらなくっちゃ」という気分です。自殺の名所を巡る旅に出ようと決めました。

B「女性」ゆえの生きづらさとは?

私は、「鈴木しづ子さんに捧ぐ」という連作を発表しています。講演会の日には、この10首の短歌を1首ずつ和紙に自分の生理の血で書き、展示しました。この作品は、お母さんとの関係に問題を抱え、ストリップで働く苦学生の短歌です。身体を売るということ、女性の性について、貧困または教育などに思いをのせて作ったものでした。

姉さんは煙草を咥へ笑ひたくない時だつて笑へとふかす

ねつとりと膣口色に照らされて練習どほりゆつくりと脱ぐ

私はDVシェルターで、人身売買で日本に連れてこられた子や、旦那の借金のために働いてきた風俗嬢の人と共同生活をしました。また児童相談所では、性的虐待を受けてきた人とも共同生活をしました。ありとあらゆる女の人を見てきました。

私が思う「女性の生きづらさ」は、性の商品として消費されるところだと思います。商品ですから、賞味期限が切れたら終わりです。商品にならなくなったAV女優や風俗嬢の行く末を、誰も気にかけません。セックスワーカーの女性は、性処理の道具ではなく、ご自分のお母さんや娘と同じ人間であることを思い出してみてください。どんな人にも誕生日があって、赤ちゃんだった時があります。生まれた時から身体を売る仕事に就きたいと願う子はいないと思います。

身寄りなき赤子は強く泣きつづけ疲れを知って一人静まる

Cセーラー服を着ているのは?

義務教育を受けられず困っている人の存在を世間に知ってほしいからです。私は、「3割引」と書かれていても、いくら安いのか、ぱっとわかりません。大工見習いの少年は、漢字が読めないために駅名がわからず、いつも一番高い切符を買っています。「乗り越し精算で駅員さんに止められることもなく、迷惑をかけなくて済むから」と言います。

この社会は、義務教育修了を前提に成り立っていて、算数ができない大人や読み書きができない人を無視した世の中です。夜間中学校に入ろうと思っても、形だけ中学校を卒業しているので、入学できませんでした。

義務教育を奪われた人たちの存在を可視化し、貧困と教育の関係などを問題提起したいと思い、義務教育の象徴である「セーラー服を着る」という表現活動を行っています。

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このような活動をしていきたいのですが、お金がなくて困っています。応援してくださる方は、カンパをお願い致します。

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