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2014/4/2更新

超監視管理社会

JR大阪駅ビル「大阪ステーションシティ」でシステム実験
「自由」を犠牲にした「安心社会」

「Aが大阪駅中央改札口を出たのをカメラが発見。南に向かっている。Aは駅前で反原発の行動を呼び掛けている要注意人物。警備員は、急いでマークしろ」─そんな映画のような監視・追跡システムが、JR大阪駅ビルで実験されようとしている。実施するのは、総務省所管の独立行政法人・情報通信研究機構(NICT、東京都小金井市)。

JR大阪駅は、1日41万人が乗降する。その駅ビル「大阪ステーションシティ」は、近隣の私鉄・地下鉄の駅や百貨店・ホテルなどを含めると、1日約80万人が利用する。NICTは、JR・駅ビルの協力を得て、駅ビルの地下1〜地上3階の改札やエスカレーター、コインロッカー、店舗などに約90台の監視カメラを設置して(すでに完了)、顔認証・追跡システムを使った実験を4月以降、2年間おこなう予定にしていた。

ところが、今年1月に入ってこの「顔認証実験」がマスコミで報道されると、市民から不安・抗議の声が上がった。3月11日、NICTは「課題が解決されるまで実験をおこなわない」と延期を発表した。果たして、この「顔認証システム」の実験とは何なのか。(編集部一ノ瀬)

「ビッグブラザー」垣間見せる「顔認証システム」

「顔認証システム」が従来の監視カメラと違う点は、個人を識別できる点だ。高性能のカメラが捉えた映像から、認証技術を使って人間の顔を細かく分析し、個人を特定。他のカメラでその人物を捕捉したら、位置情報・時間を記録。その行動記録は1週間保存するという。システムを開発した業者は、個人識別率は99・99%だと語っている(1月25日「読売新聞」)。正面でなくても、マスク・サングラスをしていても、しかめっ面をしていても、認識されるというから驚きだ。

「この顔の人物」が、「いつ」「どういう行動をしたか」─などが、詳細に記録されていく。事前に顔を登録しておけば、人混みの中から対象者を見つけることも可能だ。

NICT側は「災害時の避難誘導に役立てるため、人の流れを把握したい」と説明しており、JR西日本はデータ(顔の画像などは消去)の提供を無償で受ける。JRは1月の時点では「まだ使い道は決めていない」(1月25日「読売新聞」)としていたが、「災害時の安全データが提供してもらえると考え、協力を決めた」と語っている(2月14日「東京新聞」)。

2006年5月には、国土交通省が東京・霞ヶ関駅で同様の実験を19日間おこなった前例がある。内幸町口改札の1つに約2・3bの高さにカメラ2台を設置し、通行人が事前に『危険人物』として登録したデータと一致すれば、警報音が鳴るシステムだった(2006年4月29日「毎日新聞」)。

海外でも、顔認証システムが「テロ対策」に使われている。しかし、それは効果を上げているとは言いがたい。

昨年4月、ボストンマラソンで起こった爆弾「テロ」事件では、「犯人」は4日後に逮捕されたが、米政府のデータベース上に容疑者兄弟の画像が存在していたにもかかわらず、顔認識ソフトウェアは2人の名前を割り出せなかった。結局、容疑者の身元の特定につながったのは、市民による従来式の協力だった、と4月20日の「ワシントン・ポスト」紙は報じている。

また、2005年7月のロンドン同時爆破「テロ」事件は、顔認証システムが導入されたロンドン市内の50万台の監視カメラ網の中で起こっている。警察は、2500本の映像を解析し、5日後に「犯人」を割り出したが、2度目の爆破の翌日、無関係のブラジル人男性が犯人と誤認されて射殺される事件も起こっている。

社会のすみずみに広がる「顔認証システム」

同様の顔認証システムは、すでに警視庁・茨城・群馬・岐阜・福岡の5都県の警察で導入されている。「過般型顔画像検出照合装置」と呼ばれるもので、警視庁広報室は、「組織犯罪捜査に活用」しているが、「運用基準は明らかにできない」と説明している(2月27日「毎日新聞」)。もし、警察が保有する8100万人を超える免許証の顔データを使えば、ほとんどの国民を認識できる巨大な監視システムができあがる。

「顔認証システム」導入は、民間でも進む。大阪のテーマパーク・USJでは、1年間何度でも入場できる「年間パス」を発行しているが、「不正入場防止のため」として、顔認証システムを使った入場ゲートを導入している。

また、千葉県佐倉市で建設中のマンションでは、「顔認証入館システム」を採用し、不正入館を防ぐ。また、出入りしたデータ記録を利用して、登録されている高齢者・病人が一定期間出入りしない場合は、建物内の「防災センター」に連絡が入り、部屋に駆けつける「見守りシステム」も備えている。このマンションは即日完売の人気だったため、販売会社は、「今後、計画中のマンションには標準仕様とする予定」としている。神戸・三宮に建設中のマンションでも、顔認証システムが導入される予定だ。

オムロンは、2008年に同社の顔認証技術を使った自動改札機を開発している。これは、カメラ映像から人の性別や年代などの属性を推定・収集する「セグメントセンサ」を搭載したもので、不正乗車の常習者の特定が容易になるとしている(囲み記事参照)。

『フライデー』3月7日号には、万引きに悩む店舗が、顔認証システム『リカオン』を導入して効果を上げている、という記事が出ている。あらかじめ「不審者」の顔を登録しておき、その人物が来店したら、店員に知らせる仕組みだ。さらに『リカオン』の「売り」は、全国の同システム導入全店が登録した《注意人物顔データ》を共有できることだ。全国の「要注意人物」の顔画像データを共有(=購入)すれば、「あなたの店舗に来店したことのない『他店の要注意人物』の犯行すら『未然に防止する』監視ができる」としている。

東京にあるショッピングセンター「ららぽーと豊洲」(江東区)やスーパー「西友」赤羽店(北区)、秋葉原のパソコン店などで、計29台の顔認証システムのカメラが無断で撮影をおこなっていたことが明らかになっている(2012年11月28日「読売新聞」)。導入の目的は、顔認証システムで店内の広告を見た人の性別・年代を分析、マーケティングに役立てるというものだが、ららぽーとでは、データは週1〜2万人分にものぼったという。

顔認証システムを使った次世代自動販売機(その人にあった商品をオススメするなど)や電子看板(関心がありそうな広告を表示する)も、すでに出回っている。

現状ではシステム設置側は「録画していないし、性別や年代だけの抽象化したデータに変えているので、個人情報には当たらない」としているが、石埼学・龍谷大法科大学院教授は、「本人の同意なく分析していいのかどうか。ただちに害悪がなくても、考える必要がある」「このまま街頭カメラが増え、技術が進歩していくと、私生活の自由がなくなってしまうことにならないか」と語っている(2013年12月29日「朝日新聞」)。

顔認証システムは廃止あるのみ

技術的にまだ発展途上の顔認証システムではあるが、2020年の東京オリンピック需要もあって、セキュリティー各社は、今後の売上拡大を見込んでいる。

街中や交通機関・銀行・店舗・マンションで導入された監視カメラは、すっかり日常の風景となり、画像データが警察に提供されることへの抵抗感も希薄になってきている。

しかし、こうした膨大な個人情報が、私たちの知らないところで売り買いされるだけではなく、私たちが外出すれば、監視カメラで姿を捉えられ、その情報が警察権力によって時間・場所・映像を記録されるという時代に、すでになっているのだ。「防犯や犯罪捜査に有効」「消費者のきめ細かいニーズに応える」とのうたい文句の影で、何がおこなわれているか、私たちはまず知り、議論することが必要だ。

2012年12月、「10月にJR大阪駅構内をハンドマイクで街宣しながらデモ行進した」とのデッチ上げ容疑で不当逮捕された下地真樹さん(阪南大学准教授)は、カメラ撮影は権力の監視手段である、と指摘する。下地さんたちが「駅構内をデモ行進した」という大阪府警の主張は、カメラ映像を確認すれば、嘘だということがすぐわかるのに、裁判所は証拠開示請求をまったく認めなかったのだ。「カメラは警察・検察の都合の良いようにしか使われておらず、私たちの権利を何も守ってくれません」(下地さん)。

「そもそも、写すこと自体が人権侵害」と、大川一夫弁護士は指摘する。大川さんは、大阪駅ビルの顔認証実験について、@公共空間であること、A撮影側はJR・駅ビルといった民間・私人であり、撮影の必要性がない、B顔認証は写真や監視カメラ撮影よりも高度な情報取得である、という問題点を挙げる。「防災目的」の実験という説明も、顔認証システムを使わなければならない理由にはなっていないのだ。「こうした顔認証システム実験は、延期ではなく、中止しかありません」(大川弁護士)。

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