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2014/3/25更新

県下20基の焼却炉地元説明会 入場制限メディア排除情報秘匿
秘密主義で進む放射能汚染物の焼却減容化 

福島県鮫川村焼却炉問題連絡会 和田 央子

「放射線防護の国際的合意として、…汚染された食品や廃棄物を、汚染されていないものと混ぜて『危険でない』とすることは禁止されている」―ドイツ放射線防護協会々長:セバスティアン・プフルークバイル博士の勧告だ。(3面下参照)

福島県では、膨大な放射性汚染物の減容化のためとして焼却施設が急ピッチで建設されている。すでに稼働された4カ所を加えて、合計20以上の計画が進行している。日本のゴミ処理は焼却処分が一般的だが、放射能汚染物を燃やすと、排ガスによる周辺地域の汚染、焼却灰の管理、労働者の被曝など、新たな被曝が発生する。

地元では焼却炉建設反対運動も取り組まれているが、環境省と福島県による情報秘匿が徹底しており、報道も少ないため、実態を知るのは困難だ。住民説明会に入場制限を課し、建設場所も非公開という秘密主義は、何故なのか?「希釈政策」を大規模に行っている日本政府と東電に対し、地元住民と国際世論は政策の撤回を求めている。福島県鮫川村焼却炉問題連絡会・和田央子さんに話を聞いた。(編集部・山田)

どうして福島県民が更なる被ばくを強いられるのか?

事故から3年が経ちましたが、私たち福島県民は、放射性物質による健康被害への不安、仕事や生きがいの喪失、長期に及ぶ不自由な避難生活、家族離散などに翻弄され、疲弊しきっています。復興ばかりが叫ばれていますが、現実は厳しく、深刻の度を深めています。

4年目を迎えた福島は、大手メディアがほとんど取りあげない重大な問題に直面しています。放射性廃棄物の焼却炉建設です。政府は、膨大な廃棄物を焼却によって減容化するとし、各地に焼却施設を設置する方針を決定。すでに鮫川村をはじめ、相馬市、福島市や郡山市で仮設焼却炉が建設されており、これらを含め合計20以上もの計画が進行しています。

しかし、放射能汚染物の焼却減容化は、焼却灰や気体に放射性物質が何十倍に濃縮され、二次汚染と深刻な内部被ばくにつながる恐れがあり、放射線防護の「国際合意」に反し、「厳禁」とされています。

環境省は排気筒から出る放射性物質をバグフィルターで99・9%除去できるとしていますが、排ガスの排出基準や測定方法は極めて疑問が多く、「焼却炉周辺において、市民側の自由な測定をさせない」など、大きな不信を招いています。

政府・環境省は、除染にともなって増え続ける除染廃棄物を処分しなければ、「復興が進まない」「あなたの町は、何時まで経っても廃棄物に占拠されたままですよ」と説明し、焼却施設の受け入れを迫っています。でも、そもそも私たちのかけがえのない土地や水、自身や家族の健康、そして大切な財産を汚染させたのは誰なのでしょうか?なぜ汚染者の罪が全く問われることなく、被害者である私たちが追加の被ばくを迫られねばならないのでしょうか?

「大切な家族を実験に使うな」の声無視して作られた鮫川村焼却施設

福島県内で進む放射能汚染棄物焼却施設

田村市・川内村

4月からの避難指示解除が決定された田村市都路(みやこじ)町と川内村の境界は、県内最大規模の焼却炉建設計画が進められている。県内各地から放射能汚染物が持ち込まれ、処理されることになっている。都路町には4つの小中学校・保育園があり、4月から子どもたちが通うため、排ガスへの不安の声があがっている。

焼却施設は帰還の妨げになるうえ、農業への被害も避けられないとして、地元では建設反対運動が起きている。

福島市  既設1基

福島市では、下水処理場に仮設焼却炉が建設され、下水汚泥を処理している。福島市の焼却施設には石原環境大臣と井上副大臣が視察に訪れ、華々しく点火式が行われたが、地元住民には知らされなかった。敷地内には、放射線管理区域の標示と高濃度の焼却汚泥が入っていると見られる放射能マークの付いた黄色いドラム缶が並んでいるのが見える。住民は立入禁止で、全身防護服の作業員が立ち働いているのが道路から見えている。道路を隔てた真向かいには市民プールがあり、夏場は通常通り営業するという異様な光景が広がっている。敷地周辺の線量は、昨年11月末に計測したところ、最も高いところで1.7μSvだった。

郡山市  既設1基

郡山市の下水処理場には、100億円以上が投じられ仮設焼却炉が建設された。行政が指定した限定的な人を対象に形ばかりの説明会が開かれたが、市議会議員すら知らされないという秘密の説明会だった。

計画では、7カ月間の短期稼働だったが、地域住民に対し一方的に2〜3年の延長通告が出された。運営主体も国から県に移管されるそうだが、理由については説明されていない。

相馬市  既設3基

相馬市には、既に大型焼却炉が3基建設されている。震災がれきと除染廃棄物を混合焼却しているが、風下で線量が高くなると、市民から不安が寄せられている。

施設周囲には多数の運動場や学校幼稚園がたち並ぶ地域だが、焼却炉建設に当たって、住民説明会は開かれなかった。石原環境大臣は井上副大臣と視察に訪れた際、この炉を「福島復興のシンボル」と絶賛し、自身のフェイスブックでも発信している。事務次官、福島県知事、相馬市長らトップが一堂に会し、華々しく起工式や点火式が行われたにもかかわらず、地元住民への説明が全くないのは、なぜなのか?

飯舘村

飯舘村には、仮設焼却炉2基の建設が進められている。ここでも説明会は、地権者を含む限定された地区住民だけが対象で、他の村民には知らされていない。蕨平(わらびだいら)においては、筑波の研究者が建設に難色を示していた区長以下7名を香川県直島町の産廃施設に視察に連れていき、安全性を確認させたのち、受け入れに転じたという内容が福島民報により報じられた。

放射能ごみの焼却処理なのだから、既設の相馬市などの仮設焼却炉を視察すべきだが、なぜ汚染のない香川県にまで行く必要があったのか? 費用を出した環境省は明確に答えていない。

2011年9月、私の自宅から2qほどにある鮫川村に焼却施設建設が、発表されました。ここは福島でも奇跡的に深刻な汚染を逃れた線量の低いエリアで、関東のホットスポットよりも低い値です。ここで施設を稼働すれば、二次汚染は避けられません。近くには小学校があり、保護者から排ガスへの不安の声があがっています。

この焼却施設は、国に処分責任のある8000Bq/s以上の指定廃棄物とされた汚染稲わらを焼却することになっており、安全性確認のための実証実験炉とされています。環境省の直轄事業で、3年間で7億3000万円の予算です。ここでのデータを基に各地に焼却炉を設置をするためのモデル事業とされていますが、その進め方は恐ろしいほどの秘密主義で行われました。

環境省は、わずか30世帯の同意だけで建設を決定し、村民にも近隣市町住民にも知らせず、建設地住所も非公開。建築仕様書には、「公道から(煙突も含めて)施設が見えないように」と指示しています。環境影響評価(アセスメント)を逃れるために施設を小型化するなど、とても国の事業とは思えないルール無視のやり方に、戦慄を覚えるばかりでした。

地元説明会では、地権者の一人が「大切な家族を実験に使わないでくれ」と訴え、もう一人の若い父親は「かわいいわが子を避難させて離れ離れに暮らすことは堪えられない」と泣いて訴えましたが、願いは届きませんでした。

建設地区限定の説明会は、メディア取材も許されず(3回目に撤回)、私たち隣町の住民は入場を拒否され、氷点下10度以下という厳寒の中、会場の外で震えながら説明に耳を傾けざるを得ませんでした。

私は、焼却施設からわずか2qに自宅があるため、関連資料の提供を求めましたが、全て拒否されました。情報開示請求手続をしないかぎり情報は出さない、しかし手続きをしてもほとんど出てこない、という対応が今も続いています。

計画では2012年1月稼働予定だったのですが、私たちの反対運動もあり、1年以上稼働が遅れました。南方数qにある北茨城市長も反対の意思を明確にし、住民合意と慎重な実施を求めていました。
地元住民のほとんどは建設反対で、推進派は村長と一部取り巻き議員だけだったのですが、反対していた地権者も次々と説得され、村議11名も全員賛成派となり、あきらめ気分が蔓延。説明会で強力に反対意見を述べた若い地権者は、幼い子どもがいるために移住を決意し、鮫川村を去りました。反対運動は孤立化を余儀なくされて建設が強行され、昨年8月に本稼働となりました。

ところが、運転10日目に焼却灰を運び出すコンベヤーの一部が爆発し、今も停止したままです。この事故対応にも大きな問題があります。
地響きがするほどの爆発だったにもかかわらず、環境省は爆発の事実を認めず、「ボンッ!という大きな破裂音」と称して事故を矮小化しています。爆発・火災は、消防署や労働基準監督署への通報義務があるのですが、法違反を犯してでも内密で処理しようという姿勢で、どうあっても「爆発」を認めないのです。

公文書公開請求で開示された事故報告書は、全て黒塗りで内容がわかりません。労基署の監督官庁である厚労省に問い合わせをしても、「公務員の守秘義務」を盾に答えませんでした。

また事故原因を作業員の人為ミスとして更迭することで、事業主体である環境省は責任逃れを図っています。そして、施設の全面的増改築と作業員の大幅増員で、再稼働を目指しています。

昨年11月に、再稼働についての説明会が村民を対象に開かれました。私は村民の委任状を持って行きましたが、門前払いされました。担当者は、「不満なら、どうぞ裁判でも何でもやってください」と、冷たく言い放ったのです。

「復興」の掛け声にかき消される「焼却施設反対」の声

実証炉の建設目的は、県内で焼却施設建設を進めるために安全データをとることでしたが、鮫川村の実験結果を待たず、各地で建設が進行しています。

施設に不安を持つ複数の住民はすでに鮫川村を去り、避難者は増えるとみられています。他市町村においても、焼却炉建設によって新たな避難者を生みだすだけでなく、帰還の妨げになるとして反対の声が上がっていますが、「復興」の掛け声にかき消され、地元合意抜きで進められつつあります。

試験焼却のデータは公開されているのですが、これにも問題があります。発表データが、排気ガスの放射能濃度=Bqではなく、煤塵重量=rなのです。「放射性物質は煤塵に付着するから」と環境省は説明するのですが、排ガス規制値として2Bq/m3と定められているのですから、放射能濃度値を出すべきです。

また、バグフィルターの後ろに付けられているHEPAフィルター(排気中の放射性微粒子を除去するための高性能フィルター)の値の方が高いのも不自然です。説明を求めましたが、明確な回答はありません。環境省をはじめとする行政の強硬姿勢と秘密主義には、慄然とします。
人が普通に生活している生活圏で放射性汚染物を燃やすというのは、世界で初めての暴挙です。汚染物が膨大で減容化が必要だとしても、2次被害を避けるために「焼却厳禁」の原則は守らなければなりません。

放射能汚染の発生源ははっきりしています。東京電力福島第1原発なのです。企業活動によって莫大な利益を得てきた企業が引き起こした汚染なのですから、排出者責任で、東電に回収する義務があるはずです。刑事責任も含めて責任追及を行っていきます。

爆発事故をきっかけに、私の住む塙町ではバイオマス発電施設が白紙撤回となりました。住民の粘り強い反対運動の成果です。このバイオマス発電施設は、1日340dもの森林除染廃棄物、震災木質がれきを焼却する計画でした。同じような施設は少なくても5カ所候補があがっています。

内部被ばくをもたらす危険な施設を、子どもたちが住む町に建設させてはなりません。この焼却政策を許せば、福島、そして日本は、新たな放射性物質の汚染が進むことは必至です。高汚染地帯の無駄な除染と帰還をやめ、汚染物は排出元である原発周辺において、汚染者負担のもと処理を行うよう、強く求めていきます。

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