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2014/3/7更新

自治体行政におけるヘイトスピーチ勢力への規制
〜門真市における対ザイトク先進施策の報告説明会

龍谷大学法科大学院教授 金 尚均 さん講演

2月21日、門真市役所で「自治体行政におけるヘイトスピーチ勢力への規制〜門真市における対ザイトク先進施策の報告説明会」が行われた(呼びかけは戸田ひさよし門真市議)。

各地で在特会をはじめとする差別暴力集団(戸田市議は「ザイトク」と総称)が、ヘイトスピーチや暴力行為を繰り返している。戸田市議は、門真市から、自治体として啓発を行い、ヘイトデモや役所等への押しかけ行動があれば、毅然とした対応を行う、という「反ザイトク施策」の答弁を引き出した。「40数年間、蓄積された『同和人権行政』を活用すれば、自治体はヘイト行動に対して、毅然と対応できる。もっと各地の自治体で、門真市のような対応を引き出すべきです」(戸田市議)。

説明会では、「ヘイトスピーチ・ヘイトクライム問題と、それへの対策」と題して、龍谷大学法科大学院教授の金 尚均さんの講演が行われた。ここに紹介する。(編集部一ノ瀬)

「人間の普遍的価値」守りヘイトスピーチを禁止する法律を

私がヘイトスピーチ・ヘイトクライム(以下、「ヘイト」)と直面したのは、2009年12月の京都朝鮮初級学校(以下、「朝鮮学校」)への在特会の襲撃事件でした。

ヘイトについて私は、3つの立場から抱く思いがあります。それは、@在日朝鮮人2世としての思い、A朝鮮学校襲撃事件当時、3人の息子を通わせていた親としての思い、そして、B法律に携わっている者としての思い、です。

何よりも、親として、子どもたちに大変申し訳ないと思います。子どもたちを朝鮮学校に通わせていたのは、民族的なアイデンティティを大事にしてほしい、という願いからでした。しかし襲撃事件は、そのアイデンティティを暴力的に破壊する行為であり、大変ショックでした。いまもトラウマ的に残っています。

私たち保護者は学校側とともに、12月16日、「威力業務妨害」「名誉毀損」で在特会を京都府警に刑事告訴しました。しかし、警察は「在特会が言った『朝鮮学校の生徒はスパイの子』などの発言について事実の確認が必要で、立件が難しい」などを口実にして、「『名誉毀損』を取り下げて『侮辱罪』に切り替えたら捜査する」と言ってきました。朝9時に告訴状を持っていったのですが、受理されたのは、夜でした。

「侮辱罪」では、ヘイトを止められません。侮辱罪は刑法26条で「禁固以上」の刑罰を定めていますが、立ち小便と同じ「軽犯罪」扱いに過ぎず、同じことを繰り返しても、執行猶予が取り消されるわけではありません。

2013年10月、京都地裁は朝鮮学校襲撃事件に対して、「人種差別撤廃条約で定めた人種差別に当たり、違法」と認定し、街宣禁止と1200万円の賠償を命じる判決を出しました。しかし、この京都地裁判決は、十分にヘイトの問題を捉え切れていません。

京都地裁は、朝鮮学校襲撃を「個人の名誉を傷つけた」という構図で捉えています。「在日朝鮮人」「朝鮮学校の生徒」という不特定多数の集団は被害者には当たらない、との態度なのです。

この襲撃による一番の被害者は誰でしょうか?もちろん、差別怒号を聞かされた子どもたちです。しかし、現行法によれば、法律上の被害者は、学校の授業を妨害された朝鮮学校になるのです。ですから、ここ数年、東京・新大久保や秋葉原、大阪・鶴橋などで繰り返されているヘイトデモでは、「法律上の被害者」は存在しない、というおかしなことになります。「ヘイトは《表現の自由》」という誤ったメッセージとして受け取られかねません。

自由主義法ではヘイト対応できない

いまの法体系では、ヘイトスピーチに真正面から対応できません。個人の問題に還元してしまっては、限界があるのです。人間の生存権・人格権を傷付けるヘイト行為は、規制しなければなりません。

ヘイトに対抗するには、「法の下の平等(社会的平等)を守る」発想が必要です。ヘイトのような反社会的行為は、単に個人的人権の問題ではなく、社会での平等関係を傷つけます。ヘイトが社会的にまん延してしまったら、標的にされたマイノリティの人たち(朝鮮学校襲撃事件の場合は子どもたち)が「自分たちは劣った者」だと思い込まされてしまいます。被害者の「自尊」が傷つけられるのです。

ジョン・ロールズ(米の哲学者)は、著書『正義論』(1971年)の中で、平等な市民権について、「人間が社会的・政治的に守らねばならない第一善は自尊心だ」と書いています。ヘイトは、自尊心を傷付ける非常に重い罪であり、反社会的行為なのです。

かつてドイツは、ナチスによるユダヤ人・ロマ・障がい者迫害で、多くの人命を奪った歴史をもっています。迫害を受けた人は、人間としての価値を剥奪され、「人間以下の存在」として扱われました。

そこで「ドイツ連邦共和国基本法」では、「基本的人権」の規定とは別に、第1条で「人間の尊厳を尊重し保護することは、国家権力の義務である」と、個人を超えた「人間の尊厳」の保障を定めました。これが戦後ドイツの出発点となりました。

またドイツでは、ヘイトを個別に規制する「民衆扇動罪」が設けられています。日本での「名誉毀損罪」は、最高「懲役3年」ですが、ドイツの「民衆扇動罪」の罪は最高5年です。それほど重大な罪として認識されているわけです。

日本では、「人間の普遍的価値」を認める法律はありません。次善の策として、憲法14条の「法の下の平等」に依拠し「個人の名誉」ではなく、社会的平等を守ろう、と訴えていく発想が必要だと思います。今後は、こうした点を議論していく必要があります。

これまで日本での差別は、被差別者は「劣った存在」=2級市民である、との認識によるものでした。ところが近年は、自分たちとは違う「敵」だ、という認識がまん延しているのではないか、と危惧しています。だから「敵」を攻撃することが、ヘイト集団の中で「正義」として正当化されているのだと思います。

近代における自由主義が考えてきた法体系では、もはやヘイトに対処できない時代が日本にも来ています。いかにヘイトをなくしていくか、新たな法体系を考えなければなりません。

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