2014/3/7更新
大今 歩
2月末の東京都知事選挙で、宇都宮健児と細川護煕が脱原発(原発再稼働反対)を掲げて立候補し、両者合わせて約190万票を獲得した。舛添要一の得票(約210万票)に及ばないものの、ほぼ匹敵する票を得たことは、3月中にも予想される再稼働に向けた動きへの橋頭堡となり得る。
しかし、宇都宮氏・細川氏がともに原発の代替として「自然エネルギー」による発電の拡大を掲げている。
しかも舛添氏も、選挙公約で「自然エネルギー」発電の拡充を掲げている。「自然エネルギー」発電はバラ色の未来をもたらすかのようにもてはやされ、その拡充が「挙国一致」の目標になっているが、本当か。
まず第一に、「自然エネルギー」は発電のための代替エネルギーにはならない。細川氏は、「国土の7割が山林です。バイオマス発電の余地は十分ある」(2014年1月31日「日刊ゲンダイ」)と述べる。しかし、木質バイオマスの発電効率はせいぜい20%である。「非効率な発電用のプラントであっても、電気の優遇買い取りがある故に成り立つのだとしたら、FLTは悪しき制度である」(『エネルギーを選び直す』小澤祥司、岩波新書)。ちなみにFLTとは、固定価格買い取り制度のことで、2013年度ではバイオマスは材質に応じて5区分され、未利用木材の場合、33・6円。バイオマス発電はコストが合わないし、細川氏が言うように、未利用木材で電力を賄おうとすれば、たちまち日本中がはげ山だらけになってしまう。
太陽光発電も設備利用率は12%に過ぎず、原子力発電所1基分の100万kWを発電するためには、約5600f、つまり大阪環状線の内側くらいの面積が必要となる(「自然エネルギーの罠V」武田恵世、『むすぶ』2013年10月号)。
夜や雨の日には、発電量がゼロになる、効率の悪い太陽光発電で電力を賄うことは、非現実的である。ところが、太陽光発電も38円という優遇買取制度により繁盛しているのである。
第2に、「自然エネルギー」は自然破壊が著しいことである。風力発電は丘上・山上に建てられることが多く、その建設のための道路を作るために、丘陵や山が壊される。騒音や低周波音による地域住民の健康被害も深刻である。昨年11月、福島県沖で出力2000kWの浮体式洋上風力発電施設が稼働した(2013年12月2日「日本経済新聞」)。しかし、洋上風力発電に対しては、漁業関係者などの反対は根強い。稼働中の騒音(低周波音を含め)によって音でコミュニケーションをとる多くの水中動物が被害にあう恐れがあるからである(『巨大風車はいらない、原発もいらない』鶴田由紀、アットワークス)。当然、野鳥も衝突するし、自然条件が過酷な洋上風力発電は事故も深刻である。
また、エネルギー効率の低い太陽光発電は、緑の大地を食いつぶす。昨年6月、安倍政権は「日本再興戦略」で、風力発電の「環境アセスメント」の期間を半減という被害の深刻化につながりかねない決定を下した。新たな「日本再興戦略」では、産業界の要請により、現在は禁止されている耕作放棄地や休耕田への太陽光発電の展開を容認しかねない。
日本の食糧自給率は、すでに40%を切っている。私の暮らす山村では、「中山間地直接支払制度」の補助金をもらって、休耕田や耕作放棄地の雑草を刈って、いつでも田畑を再開できる状態を保っている。太陽光発電設置を認めることは、こうした努力を無にしかねない。
「自然エネルギー」という言葉に魅かれるが、実際には「自然エネルギー」は環境破壊をもたらす。
第3に、「自然エネルギー」による発電が、国民の税金や電力料金の上乗せによって成り立っているのに、結局は政府と結びついた大資本の目先の金儲けにしかならないことである。
先に見た福島県沖の洋上風力発電には「震災復興予算」が当てられ、総事業費は188億円。東京大学、三菱重工、新日本製鉄、日立製作所、清水建設など、日本を代表する大学・重電・ゼネコンなどが参加する一大事業である。「震災復興」とどう関係しているかわからないし、地元の漁民からは反対の声が上がっているという(前掲『巨大風車はいらない』)。このように、「自然エネルギー」による発電は、補助金や固定価格買い取り制度を目当てにした大企業をボロ儲けさせる仕組みでしかない。
日本中の原発がすべて止まってすでに半年以上も経つが、十分電力は足りている。もちろん、石油も天然ガスも資源に限りがあるため、当然火力発電も減らした方がよい。細川氏は先のインタビューで、「自然エネルギーに切り替え、世界の先端をいく新たな経済成長を日本が成し遂げていく」と述べるが、「経済成長」ではなく、むしろ大量消費社会を見直して、電力需要を徐々に減らしていくべきである。「エコ」や「省エネ」を叫びながら、エアコンや「オール電化住宅」を推進する大量消費社会の仕組みに気づく必要がある。
その上で「エネルギーを選び直す」ことも大切である。小澤祥司は次のように指摘する。
「福島第一原発事故後になっても、電気偏重の議論はあまり変わっていない。まるで電気がなければ社会・経済が成り立たなくなる、というように。しかし、人類が電気を使い始めて100年しかたっていないことを考えれば、少し奇妙な気がする」(前掲『エネルギーを選び直す』)。
例えば、熱は熱として用いた方が良いのである。太陽光発電の変換効率はせいぜい10数%なのに、太陽熱利用は太陽エネルギーの40〜50%を利用できる(前掲書)。
私も太陽熱温水器を利用しているが、夏など5回でも熱湯のお湯に入れる。冬でも確実に水温を高めることができて、燃料を節約できる。25年間使用しているが、メンテナンスも不要である。大規模なボイラーなどで給湯しているホテルなど大型施設は、屋上に太陽熱温水器を設置することで、電気代や燃料費をかなり節約できるはずである。
また、冬の電力需要の大半を占めるエアコンによる暖房は、石油ストーブに切り替えた方がよい。石油を燃やして作った電力を、長い送電線で家庭に送り、それをまた家庭で熱に変換するという複雑な仕組みより、ただ灯油を燃やすという単純な仕組みの方が効率が良いことは、明らかである。それに、石油ストーブはお湯を沸かせ、就寝用の湯たんぽにも利用できる。
「大量消費社会を見直」し、「エネルギーを選び直す」ことにより、大幅に電力需要を減らすことができる。もちろん原発再稼働も、未完成で有害な「自然エネルギー」による発電も必要がなくなる。
太陽光発電や風力発電の電力供給は不安定で、発電コストも高いため、細川氏や宇都宮氏が「バラ色の将来」を語っても、「脱原発」の議論は信用されない。むしろ、「自然エネルギーによる不安定な電力供給を原発によって補充すべき」という原発再稼働の論拠にすらなっている。「大量消費社会を見直す」「エネルギーを選び直す」ことで、電力需要の大幅な削減は可能であると示し、原発再稼働を阻止したい。
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