2014/2/20更新
名古屋ふれあいユニオン元運営委員長 酒井 徹
私は、2006年にトヨタ自動車の期間工になった。日給9000円だった。ただし期間工は、期間限定とはいえトヨタ自動車の「社員」なので、社員寮にタダで住める。また、トヨタ自動車の「社員」なので、寮や工場の食堂でメシを食べると社員割引がある。600円のメシが400円で食べられる。
ではトヨタ自動車はどこから収奪してあれだけ儲けているのだろうか。実はトヨタ自動車は、下請け企業から部品を安く買い叩いて儲けているのだ。トヨタでは、部品を安く買い叩くことを「安く買う」とは言わない。「原価改善」と言う。トヨタ自動車から「原価改善だ」と言われた1次下請けは、部品を安く納めなければならない。
するとどうなるか。トヨタ自動車の期間工を辞めたあと、次に私は1次下請けのトヨタ車体で派遣工として働いた。1次下請けのトヨタ車体になると、直接雇用の正社員と期間工とだけではやっていけなくなり、ここで初めて派遣社員が登場する。
トヨタ車体の派遣工は、時給1200円だ。給料だけを見ると、トヨタ自動車の期間工より労働条件が良いように見える。
だが、派遣工はトヨタ車体の社員ではなく、派遣会社の社員である。だから、トヨタ車体の寮に住ませてもらうには、寮費を払わなければならない。私の場合は1カ月で4万9000円取られた。同じ仕事をしているのに、トヨタ自動車の期間工だった時にはかからなかった寮費が、派遣工になったとたんにのしかかってくるのである。
そして、派遣工はトヨタ車体の社員ではなく派遣会社の社員であるから、トヨタ車体の寮や工場の食堂でメシを食べても社員割引は効かない。一部上場企業の正社員であるトヨタ車体の社員が400円で食べているメシを、非正規雇用労働者である派遣工は600円出さないと食べられないことになる。これは本当に理不尽な話だ。
その後、私は愛知県の地域労働組合・名古屋ふれあいユニオンの運営委員長として、トヨタ生産構造のさらに下、2次下請けや3次下請けの実態も見ていくことになった。
1次下請けのトヨタ車体がトヨタ自動車から「原価改善だ」と言われると、トヨタ車体は、さらにその下請けである2次下請けに「原価改善だ」と言って転嫁する。するとどうなるか。1次下請けのトヨタ車体の製造工程には日本人の労働者しかいなかったが、2次下請けの会社になると、外国人労働者が出てくる。
もちろん、みんな派遣である。私が「名古屋ふれあいユニオン」の運営委員長になった当時は、雇用保険にも社会保険にも入れてもらっていない外国人労働者がたくさんいた。
さすがに最近では、社会保険はともかく雇用保険に単純に入らない会社はずいぶんと少なくなってきた。しかしそれでも、脱法的なやり方で「合法的に」労働者を社会保険・雇用保険に入れない手口や、社会保険料や雇用保険料を半額にする手口(当然、労働者が失業したときにもらえる手当ても半額になってしまう)を編み出す業者があとを絶たない。悪質な派遣会社やブローカーが、ここでは横行しているのである。
これが3次下請けになると、ついに労働者に最低賃金も払えなくなる。ここで外国人「研修生」(今は「実習生」)が登場する。法律が改正されて今はそうではなくなったが、私が名古屋ふれあいユニオンの運営委員長になった当時は、彼らには労働法が一切適用されなかった。彼らは、労働者ではなく、車づくりのお勉強に来ている「研修生」という建前なのだ。だから、最低賃金法も適用されない。時給300円とか350円とかで、朝から晩まで彼らは長時間、黙々と働く。
彼らは労働者ではないことになっているので、今でも職業選択の自由がない。会社をクビになれば、勝手に他の会社に移って働くわけにはいかないのだ。「○○会社の工場で3年間車づくりの勉強をする」という資格で日本に来ているから、社長がクビだと言えば原則強制帰国である。だから、会社にものが言えず、セクハラ・パワハラも横行している。だから「実習生」制度は「人身売買」・「奴隷労働」と、世界から批判されているのだ。
下請も協同組合で団結を!
こうした構造を打ち破るには、個々の労働者を労働組合に組織して個別企業と闘っていくのももちろん大切な取り組みだが、それだけでは構造そのものを変えることはなかなかできない。下請け会社も一面では大企業によって搾取される側にあることを理解し、中小企業等協同組合法に基づく協同組合に下請企業を組織して、下請企業同士の分断を打ち破り、協同組合法の共同受注・共同販売制度で、下請企業が団結して価格決定力を取り戻していくことを追求すべきだ。(協同組合法に基づく共同販売―みんなで結託して同じ値段で物を売る―には独占禁止法の適用が除外される。また、協同組合には取引先との団体交渉権があり、大企業は誠実に協同組合との交渉に応じなければならない)。
トヨタ自動車を頂点とする「原価改善」の押し付けに抗して今こそ幅広い共同闘争を「下から」組織し、負担を下へ下へと押し付ける圧力を上へ上へと跳ね返そう!14春闘勝利!アベノミクスインフレ(物価上昇)下での大幅賃上げ、下請け単価の大幅引き上げを、労働者・下請け企業の団結の力で獲得しよう!
名古屋ふれあいユニオンも、微力ながら今春闘、賃上げ要求を果敢に掲げ、トヨタ下請けを含む複数の職場で粘り強く闘い抜く。
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