2014/2/10更新
二本松有機農家(元農水省官僚) 関 元弘さん
元農水省官僚で、二本松に就農した関元弘さん(ななくさ農園)を訪れたのは今回で3度目となる。関さんは、東京生まれで農林水産省官僚だったが、中央と地方の人事交流で旧東和町役場に2年間赴任したのが縁で、「人と環境に優しい生活と農業を実践したい」と、定住を決めた。
原発事故と放射能被害にもかかわらず、「いいことも悪いことも受け入れる」と、定住継続を決め、なかまとともに東和果実酒研究会を立ち上げて、酒造を核にした地域作りをめざしている。
今回訪れてみると、果実酒研究会メンバー有志で資本金を出し合い、醸造工場を開設。初出荷したリンゴワイン2000本は、完売していた。将来は、レストランも併設し、県内の旅館・ホテルとも協同し「オーガニック福島」という「持続可能な生活スタイルを提案したい」と語る。「オーガニック&ナチュラル」という価値観を共有する人たちからも出資を募り、参加型農業をめざす。
持続可能性な地域作りは、着実に具体化しているように見える。しかし、直面する現実は厳しさを増している。(編集部・山田)
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関…果実酒の製造・販売のための株式会社=「ふくしま農家の夢ワイン」を2012年に設立し、翌年ワイン作りをスタートしました。「夢ワイン」は、最初の事業なので、所有と経営の分離はしないで、出資した株主は全員役員になりました。8人で50万ずつ出資して資本金を400万円とし、被災地支援、6次化関連の補助金約750万円で製造場改修、醸造機器の整備に充てました。醸造所は、使われていなかった養蚕施設を農閑期にみんなで自力施工で改修し、工場建屋としました。
2013年3月までに醸造機械を搬入し、4月にはリンゴを搾ってスタート。7月に販売を始めて、8月には2000本を完売しました。9月に青い摘果リンゴを仕込んで、現在醸造しているところです。少量ですが第2弾として「青リンゴワイン」を販売する予定です。
使っているリンゴは、役員の1人である熊谷耕一さんが作った「羽山リンゴ」です。糖度が高く、果実の保存性も高いので、ワインには最適です。震災前は主に贈答用として販売していたのですが、震災後は全く売れず、棄てる他なかったリンゴです。これを搾った果汁に酵母を入れて、シードル(発泡性のワイン)にしました。
醸造は社長を中心にやってもらい、私は販売を含めたマネージメントを担当しています。被災者雇用の枠で地元の若者5名を雇い入れたので、次世代育成・地域雇用の拡大にも役立てれば、と願っています。
農家が農閑期の副業としてワイン醸造を取り入れてもらえれば、農業経営も安定しますし、雇われではなく、経営者としてワイナリーに関わってもらい、販売にも責任を持ってもらうことで、よりよい製品作りにつながっていくと思います。
「夢ワイン」は、福島のワイナリーとしては3件目ですが、果樹の育成からワインの製造販売まで一貫してやるワイナリーとして大きな注目と期待を集め、たくさん取材も受けましたので、最初の2000本はすぐに完売できました。
今は「構造改革特別区域法」による、地元産果実のみを原料とする条件付き免許ですが、今年中に条件解除して、6000gの普通免許にランクアップして、他地域からの請負もできる本格酒造メーカーとして軌道に乗せたいと思います。
昨年秋の収穫祭にはワインに興味のある人が集まってくれましたし、「スローフード福島」と共同で試飲会も開催しました。こうしたイベントをやると、人が集まってきます。ゆくゆくは、レストランを併設し、直営店も出店するなどして、消費者参加型の農業に発展させたい、と夢はふくらんでいます。
──関さん自身の農業経営は?
関…厳しさを増しています。震災の年に「オーガニックふくしま安達」を立ち上げ、首都圏の有機農産物卸業者へ直接販売を行いました。2年目は、販売額が1・5倍に伸びましたが、3年目は、全く売れず、前年の1割程度まで落ち込みました。
そもそも有機農産物は、「安全・安心」が基本です。安全を求めて買う消費者にとって、福島産は、全く受け入れられない農産物なのです。1年目は被災者支援、2年目はその勢いで伸びたのですが、流通業者も、2年の間に代替生産地を探していたようです。3年目の激減は、ショックでした。「支援」の気持ちはありがたいのですが、長続きしないし、対等な関係ではありません。
こうした経験から、「安全・安心」という狭い意味の有機ではなく、「持続可能&ナチュラル」という大きな枠で有機農業を捉えなおす必要を感じています。食べものだけでなく、生活スタイルや生き方まで含めた、トータルな価値観を打ち出し、その連合体の中に我々の「夢ワイン」やさまざまな活動も位置づけなおして、投資を求める、という構想を立てています。
食べ物だけでなく、風力・水力・太陽光といった発電事業やオーガニックホテルなどと組み合わせたパッケージに出資を求め、リターン(利益)は、それらの利用権や現物による支給となります。
「安全・安心」にとどまっているかぎり、福島の有機農業は消えゆく運命です。「新しい価値観や夢を共有するなかま」という大きな枠組みの中に有機農業を組み込むことで、地域作りの突破口を開きたいと思っています。
──農塾を始めたそうですね。
関…農村は、「夢がかなう場所」であって欲しいのです。昨年3月、「あぶくま農と暮らし塾」の設立総会をやりました。中島紀一塾長(茨城大学名誉教授)は、「農村に若者が集まって話し合う場がなくなってしまった」と心配していました。昔なら消防団や青年団で夜遅くまで酒を飲んで夢を語り、形になっていったのです。夢を語り、実現する場として農塾があります。
農学コースは月1回、中島先生が専門家を伴って直接講義します。このワイナリーは交流拠点として整備したので、塾の校舎としても使用しています。講義の後は必ず交流会で、先生も交えて酒を飲みながら話をします。
塾とワイナリーと研究会の活動が、1つの場所で展開しています。人が出会ってつながり、夢を語り、その実現のために汗をかく、こうした「場」を作ることで、活路も見えてくると思います。
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