2014/2/1更新
1月19日に投開票された沖縄・名護市長選は、「辺野古新基地反対」を掲げる現職・稲嶺進氏が、自民党候補を破って当選した。選挙期間中、自民党は石破幹事長や小泉進次郎を投入する一方で、仲井眞県知事・佐喜眞宜野湾市長らも応援に駆けつけるなど、「移設推進」派は全力を注いだが、結果は4100票の差をつける過去にない歴史的な「圧勝」となった。
今号は、名護市長選の特集として、山城博治さん(沖縄平和運動センター議長)と安次富浩さん(ヘリ基地反対協)のインタビュー(3面)と合わせ、富田英司さんの「沖縄通信」(2面)と、名護在住の稲垣絹代さんからのレポート、井上澄夫さんの「時評短評」(4面)をお届けする。(編集部)
──稲嶺さん当選の意義は?
山城…「名護市民は、決して屈しない」という意思を示したことです。同時に、反基地・平和運動を後押ししている名護市民・沖縄県民の「基地のない平和な沖縄」を願う思いも再確認できました。
有形・無形の広範な市民の支えによって、警察・機動隊は闘争現場で、運動妨害を思うようにはできないのです。警察が弾圧を強行しようとしても、「市民の安全を守るべき警察が、民意に背いて、市民に襲いかかるのか」という声を前にして、躊躇せざるをえず、無謀な弾圧を抑止しているのです。
辺野古での座り込みをはじめ、普天間や高江での座り込みも、一部の人間が突出している訳ではなく、沖縄県民全体からのバックアップがあるからこそ、反対運動が続けられているのです。
──安倍政権は、「選挙結果にかかわらず、辺野古移設は進める」と言っています。
山城…政府はそう言うしかありません。特に石破幹事長は「(基地移転は)日本政府が決めること」と言いました。本当にふざけた話です。地域住民に長年にわたって耐えがたい苦痛を押し付けてきたのは、名護市民、沖縄県民に対する許しがたい民主主義の冒涜であり、沖縄に対するどす黒い差別の現れです。
政府は住民投票後も、「辺野古に基地を作る」と17年間言い続けてきました。だけど、いまだに建設できずにいます。沖縄の世論は「絶対許さない」と言っているし、強行すれば、自民党は次の国政選挙で確実に沖縄の議席を失います。次の県知事選挙でもボロ負けすることになるでしょう。
沖縄の自民党は、「辺野古移設」は県民に受け入れてもらえないことをわかっていたから、「反対」を言ってきたのです。だから今回、安倍政権が何が何でも「辺野古移設」を強行する姿勢を見せたために、いわば諦めてそれに従ったわけです。
日本は一人ひとりの意思で政治が成り立つ「民主主義社会」のはずです。いくら建前にせよ、民主主義に則って市民や有権者に支えられているのが、権力の本来の姿。民意をないがしろにして、何でも沖縄に押し付けられると思うのなら、「やってみろ!」と言いたい。
今回の市長選は、「新基地を作るか作らないか」という明確な争点で闘われました。基地が数ある争点の中のひとつだったというならともかく、どちらもハッキリと中心政策として掲げていました。そしてその一騎打ちで負けたのだから、本来なら自分たちのスタンスを見直すべきです。そうしないのは、彼らの傲慢さです。
沖縄に戦争のあらゆる犠牲を押し付けようとするスタンスは、何も変わっていない。それは権力の暴力です。沖縄は、決して揺るぎません。
──知事の辺野古埋め立て承認や、自民党県連・沖縄選出の自民党国会議員が「辺野古新基地容認」を表明して、「オール沖縄」の形が崩されてしまいましたが…。
山城…安倍は、「オール沖縄」を崩すことに腐心し過ぎて、政権基盤にしているはずの「自公政治」の枠組みを壊してしまいました。沖縄への強圧的な姿勢をみて、公明党は自民党に距離を置き始めました。今回の名護市長選挙で、公明党は「自主投票」を決めました。だから4200票もの大差がついたのです。
那覇市議会は1月6日に、「仲井眞知事の辺野古埋め立て承認に抗議し、辺野古移設断念と基地負担軽減を求める意見書」を採択しました。那覇市の翁長雄志市長はもともと自公の推薦を受けている保守系の人ですが、その市長を支える市議会与党の多数が賛成に回ったのです。
安倍政権は、形だけ「オール沖縄」を崩して、反対派を追いつめたつもりなのでしょうが、実際に追いつめられたのは、自民党です。裏切ったのは自民党の一部、安倍の圧力に屈した国会議員に過ぎません。反対運動の新しい団結が作られ始めていることを、安倍はわかっていないのです。
──大差がついた理由は何でしょうか?
山城…「基地移設」の問題だけをとってみれば、賛成の立場の人もいたと思います。しかし、安倍内閣の沖縄に対するあまりにも手段を選ばないあけすけな恫喝に、「自民党よ、沖縄を舐めるな!」と、人びとの怒りが炸裂したのです。
自民党候補が敗北したとたん、「500億円基金は回さない」と言い出しています。沖縄は、彼らの底の浅さを見抜いています。権力の座にあぐらをかいて、世の中が見えなくなっている。安倍政権にもっともっと私たちの怒りをたたきつけないと、自分たちがいかに民主主義を踏みにじる行為をしているのか、わからないのかもしれません。
──辺野古で新たな動きは起こっていますか?
山城…当選した稲嶺市長は、市長が持つ権限を駆使して基地建設を阻止する、と改めて表明しています。埋め立てにともなう漁港の使用権や、漁港を使っての工事への承認などは一切許さず、基地建設を止める決意を明らかにしています。
これから政府が具体的にどう動くかが問題になりますが、時間が経つほど、今年11月に予定されている沖縄県知事選が近づいてきます。無謀を極めれば、与党・自民党が知事選でボロ負けするのは目に見えています。そうなればまたひとつ手詰まりになるわけで、彼らも打つ手がないと思います。
──高江では、ヘリパッド建設に向けて新たな動きがあるそうですが…。
山城…北部訓練場のN1地点で、新たに森を切り開いてヘリパッドを作る動きがあります。すでに建設業者も決まっている状態です。私の感覚では、名護市長選で稲嶺さんが負けていたら、開票速報の結果が出た直後にでも、建設工事に大挙して押しかけていたでしょう。
選挙や県民大会まではおとなしくして見せるけれど、終わったら一挙に工事に着手したり、オスプレイ配備を強行する。これまで沖縄防衛局や日米両政府のやり口は、いつもそうでした。息つく暇もなく、私たちを押しつぶそうと襲いかかってくるのです。
──普天間の状況について。
山城…一昨年から続く配備以降、オスプレイは沖縄のあちこちを訓練で飛び回っています。市街地上空も、夜間の時間帯も、お構いなしです。私たちの仲間たちは、1年を超えて、ゲート前での「オスプレイ配備反対」の運動を続けています。機動隊に守られてようやく機能している普天間基地、市民の怒号に包まれているのが普天間基地なのです。米軍自身が「普天間基地はもう限界」だと思っているはずです。
先日、映画監督のオリバー・ストーンやマイケル・ムーア、言語学者のノーム・チョムスキー氏らアメリカの文化人29人が、普天間飛行場を辺野古に移設する計画に反対する声明を出しました。
声明には、「仲井眞知事の埋め立て承認は、沖縄県民の民意を反映したものではありません」「戦後ずっと、沖縄の人々は米国独立宣言が糾弾する『権力の濫用や強奪』に苦しめられ続けています」「私たちは、沖縄の人々による平和と尊厳、人権と環境保護のための非暴力のたたかいを支持します」と書かれています。アメリカの中でこうした声が上がっているということで、私たちの怒りや闘いが世界中に知られていると実感でき、あらためて勇気を持てました。
本来なら、日本国内の良識的な学者が真っ先にこうした声を上げて欲しかった。少し寂しい気がします。
──秘密保護法や靖国参拝の強行など、安倍政権の暴走が止まりません。
山城…安倍は戦争をすることしか考えていません。まさに「戦争へ邁進する内閣」です。戦争になればどんなことになるのか、安倍には想像力がない。彼にあるのは、かつて日本が米国に負けた悔しさであり、彼はどこかで仕切り直しをして、日本が強いことを示したい、「いつの日かやっつけてやる」─そんな子どものケンカ程度の認識しかもっていないのだと思います。
アメリカの中ですら、沖縄にいる一万人規模の海兵隊では、中国人民解放軍200万人に向き合えないから、沖縄から撤退すべき、と声が上がっているのに、20万人の自衛隊が対峙して戦争するなんて、冗談にもなりません。沖縄が再び戦渦に巻き込まれて地獄を見るのは、火を見るより明らかです。
安倍は、これから戦争の準備を着々と進めるでしょう。これ以上、凶暴な内閣を続けさせてはダメです。「戦争反対」すら言えなくなるような世の中になるのかもしれません。安倍に反撃する闘いを、本土でも大きく盛り上げて欲しい。沖縄の基地問題は日本全体の問題でもあるのです。
──今後の沖縄の闘いについて。
山城…沖縄県議会が、年明けに「知事辞任要求決議」の実行を進めるために、広範な県民連帯による大規模集会開催を準備しています。その上で、知事辞職への環境を作っていきます。
3月には、石垣市長選挙があります。この地域は、自民党の「島嶼防衛」政策で、中国との「最前線」に位置づけされています。与那国島や宮古島も含めた動きが激しく、自衛隊の誘致をめぐる動きなど、保守派との攻防が続いています。安倍の「戦争できる国づくり」で、もしも戦争が現実になったら、攻撃を受けるのは、基地がある沖縄です。
現職の中山市長は、自公の推薦を受けています。3月の市長選で反戦平和の候補が勝利して自民党を敗北させ、揺るぎない平和な国境の島々にするのが、私たちの願いです。
石垣市長選挙に勝ったら、自民党が目論む「沖縄の軍事要塞化」が一挙に粉砕されます。そういう意味で、3月の市長選挙は大事です。同時に、石垣市長選に勝利すれば仲井眞知事の求心力は底をつきます。そうなれば「今年11月の知事選挙まで、ボロボロになりながら任期を全うするのか」と迫られることになります。
現実的な選択として、仲井眞知事で通すしかないのでしょうが、そうなれば、仲井眞の後継候補が選挙でズタズタに敗北するのは、明々白々です。安倍の意向を受けて基地推進の片棒を担いでいる仲井眞ではどうにもならないくらい、彼らは追いつめられています。悩ましいのは自民党でしょう。
私たちは、「県民を裏切った仲井眞は辞めろ!」「公約違反したなら、知事選は出直しだ!」と、要求しています。これまでの県民大会のような10万・20万人規模の集会を作っていきます。沖縄の元気を発信したいと思います。
政府があくまで新基地建設を強行するのであれば、より多くの県民が大結集するでしょう。反基地闘争は、来年に向けて最後の攻防が始まろうとしており、最終局面を迎えています。
今回の名護市長選挙のように、知事選挙で「基地反対」候補が圧勝できたなら、政府も沖縄には手が出せません。沖縄県民の意思は変わらない、基地を受け入れる余地はどこにもないのだ、と示していきたいと思います。
ある意味、沖縄の闘いが、大きな平和の砦になっていると思います。これ以上軍事国家化が進まないように、全国の仲間と連帯して闘いたいと思います。
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