2014/1/23更新
遙矢当
2014年は医療法と診療報酬の改定の年になります。改定の目玉の一つが「既存医療法人の合併を促す『ホールディングス』化」ですが、4月を迎えると医療業界、介護業界の再編が一気に進むことになりそうです。
その端緒となりそうなのが、昨年湧いて出た徳洲会の一連の疑獄かもしれません。ロッキード、リクルートなど大型疑獄に比肩しかねない事件となりつつありますが、政治家のみならず医療業界、福祉業界に携わる人々にとっても、覚悟が求められる新年となりそうです。
日本最大の医療法人複合体ともいえる徳洲会が、猪瀬直樹前知事へ供与したという5000万円の問題は、現時点では公職選挙法や政治献金としてのモラルが問われています。
しかし、日々医療と福祉の業界を見つめる私にとっての最大の関心事は、徳洲会の存続そのものです。少なくとも2014年は、徳田虎雄というこの国の医療史上最大のカリスマとその妻、そして息子で後継と目される徳田毅衆院議員や医師である長姉、次姉など、徳田家そのものの排除が進んでいく1年になります。
ここで私は、2007年に湧いて出た「コムスン事件」を想起します。当時、全国最大の介護事業者だったコムスンは、不正に基づく運営の処罰として、折口雅博ら主要幹部の排除に加え、事業体そのものも政府/官僚主導で、全国の介護事業者へ分割・譲渡されました。
7年の時を経て、今度は「主なき」徳洲会が解体されていくことになるのでしょうか。彼が統合した法人とその病院の中には、地方における地域医療を支えるものが多数あります。前回介護業界で生じた当時の経緯を見ると、再び政府/官僚主導で巨大な医療法人群が、各地域へと分割され、再出発していく姿を想像せざるを得ません。早ければ4月以降に表面化するでしょう。
そもそも、徳洲会は何を間違えてしまったのでしょう。そして、この問題から浮かび上がる問題は、猪瀬前知事への資金供与だけなのでしょうか。今回の経緯を丁寧に捉えることは、再びこのような過ちを起こさないためにも、大切な作業です。
徳洲会の理念・原点は、徳田虎雄自身の苦しい出自と、医療にかける並々ならぬ情熱にあったはずです。鹿児島の貧しい家庭で生まれ育ち、自らの手に筆記具を突き刺しながら睡魔と闘った末に大阪大学医学部に進学。医師となった彼の姿に、畏敬の念を抱く医療関係者は今も多いはずです。小紙読者にもファンであった方も多いでしょうし、「徳洲会の関連病院に入院していた」という関係者の報告を耳にする機会も多くあります。
しかし、高い志で地域医療を作り上げた彼の理念は、徐々に「権力への志向」という形で歪曲されていきました。自身の政界進出や、息子や娘を4〜5年の浪人期間を経ながらも医学部に進学させ、また地方に点在する経営の悪化した医療法人との度重なる合併と統合など、「生命だけは平等だ」という彼の銘句からは程遠い姿へ向かったのです。その「到達点」というか象徴的な存在が、息子の徳田毅衆院議員でしょう。
徳田虎雄にとって権力への接近は、当初「この国の医療を根底から変えていきたい」という志に発するものだったのでしょうか。彼の意志と情熱に賛同する医療関係者、政界関係者が多い一方で、既存の医療関係者、特に日本医師会から疎まれていたのも、また事実です。
例えば、救急(2次救急)医療における無条件な受け入れの表明などは、画期的である一方、病院経営で人員確保に過度な負担を強いるため、日本医師会が後に続く医療機関をけん制しようとした話などは有名です。
徳田虎雄にとって、こうした医療機関の矛盾や既得権益の解消が、この国の医療再生に絶対必要であることは自明で、最大の課題でもあったわけです。自身の政界進出の契機でもありました。
その意味では、今回の東京都政から発した疑獄が、単に徳田虎雄自身の劣等感と、社会における「医師として承認されたい」という欲求に端を発するものであるとするならば、大変残念です。
このままでは、これまでの医療法人としての拡大や統合、彼の下に集った医療関係者の想いは、彼自身の自慰的な活動の結果に過ぎなかったことになってしまいます。
徳田虎雄が統合した法人とその病院の中には、地方における地域医療を支えるものが多数あるからです。
繰り返しますが、今回の疑獄は、東京都政の不始末に留まらず、地方における地域医療の存続を問いかねないものです。仮に、徳洲会の各事業が後継の医療法人を求めたにしても、この国の医療法人は経営的に疲弊している法人がほとんどで、手を挙げるに挙げられないという状況です。徳洲会が280を数えるという全国すべての医療法人や関連企業の運営から手を引かされることになれば、双頭蛇のように無秩序に動き回る混乱だけを起こしかねません。
徳洲会は形を変えて残るとしても、現在の法人複合体は消滅していくでしょう。返す返すも、この国の医療は理想や思いだけでは変わらないという、普遍に近い教訓を徳田虎雄は残したと言えます。
その意味では、高齢社会と言われる中で流布する「医療革命」「介護に革命を」という標語が、いかに空虚で軽薄なのかとも思わされます。そもそも「革命」という言葉は、死を賭するものだけに許される決意です。私も苦境にある医療や福祉、介護の現場の実情は無数に聞きます。その中でまず医療、福祉の現場で問われるのは、日々患者や利用者へ地道に向き合う姿勢に尽きます。私自身、日常に逃げずに「向き合う」姿勢を持ち続けたいと願っています。
(文中敬称略)
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【参考文献】
・2013年11月22日 社会保障審議会医療部会資料
・『生命だけは平等だ 医療一揆編』(上/下)1998年1月 道出版
・『日本インディーズ候補列伝』2007年7月 大川豊 扶桑社
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