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2013/12/28更新

「津波→メルトダウン説」覆す重大研究
地震で炉心損傷が始まった

元東電社員・木村俊雄さんは告発する

12月2日、伊方原発(愛媛県)に隣接する八幡浜市で、元東電社員・木村俊雄さんの講演会が行われた(主催・南予住民交流会)。木村俊雄さんは、東電社員時代、原子炉の設計と制御に関わる部署で働いていた経験と知識をもとに、過渡期現象記録装置データを解析。福島原発事故は、津波ではなく、地震動によって炉心損傷が起こり、メルトダウンに至った可能性が高いことを立証しようとしている。

要旨は、@地震発生1分30秒前後から、炉心冷却の安全機能が失われた。Aその原因は、原子炉圧力容器に接続されている配管の破損である。B配管破損により、原子炉冷却材が漏えいし、本来あるべき炉心内の自然循環の流れを止め、さらに炉心内(シュラウド)冷却材の流れを逆方向に変えた。自然循環冷却停止は、事故を重大化させ、事故進展のスピードを加速させた要因といえる、というものだ。

さらに、C東電報告書では、原子炉水位が燃料頂部に到達するのは、地震発生から約3時間後(17時30分過ぎ)、炉心損傷による原子炉格納容器からの気相漏えいが発生するのは、その後という見解となっている。しかし、同じ東電報告書では、津波来襲後の17時19分、「現場確認のために原子炉建屋に入ろうとした運転員は、既に線量が高く退きかえした」と記述されている。東電が推定した時刻よりも早くメルトダウンが起きていたことを示す記述だ。木村さんは、2つの事実は明らかに矛盾しており、津波を原因とする説明は破綻している、とも指摘している。(文責・編集部)

隠されていた「装置データ」

私は、今年4月に調査を開始。東電事故調査委員会の報告書800n、その他のデータ約2000n、事故時の操作手順書5000nの全てに目を通し、解析を行いました。

木村俊雄さんプロフィール

元東電社員、現在、自給エネルギーチーム共同代表。「東京電力学園」卒業後、1983年東電入社。福島第1に配属・研修。新潟原発で試運転および使用前検査業務に従事。柏崎刈羽原発にて燃料管理業務、福島第1原発にて炉心設計管理業務に従事。
 事故後、高知県土佐清水市で避難生活をしながら、独立型ソ−ラーシステムの設計・施工を中心に活動。

この過程で7月10日に、東電に対し公開質問状を提出。8月に奇跡的に公開された「過渡期現象記録装置データ」から、福島第1原発1号機に関する地震動による炉心損傷のプロセスを解析しました。その結論と過程を説明します。

炉心には、冷却材(水)を強制的に送り込むために、外部に再循環ポンプ2台が設けられています。仮に、事故や故障時にこの再循環ポンプが停止しても、自然循環(風呂釜と同じで温度差によって下にある高温水が上昇するという対流が生じる)だけで約50%出力まで炉心を冷やすことができます。

この炉心内の自然循環は、BWR(沸騰水型原子炉)特有の安全性のひとつで、異常事態や事故に十分対処できる設計基準としてうたわれています。

ところが、「過渡期現象記録装置データ」の「炉心流量」を解析すると、地震発生1分30秒前後から、冷却水の循環が急激に減少し、逆流すら起こしていることがわかりました。

冷却水の循環が止まると、炉心・核燃料棒の周囲に気泡が張り付き、発熱している燃料棒と冷却水が直接触れなくなり、燃料が壊れ始めます。専門用語ではPCM(出力冷却不整合)と言います。いったん泡が張り付くと相当温度を冷やさないと再び冷却水が燃料棒に直接接触しない、たいへんな状況で、「ドライアウト」と呼ばれています。

福島第1の1号機では、この状態が地震発生後、1分30秒を待たずして起こっていたのです。つまり、津波を待たずして、燃料が壊れる環境が整ってしまっていた、ということです。

この解析結果について、10月中旬に、元国会事故調査委員会の田中三彦さん、後藤政志さんや、東芝で運転管理を担当していた小倉史郎さん、GEの技術者・佐藤さとしさん他、原電の先生たちの前で、6時間かけて説明しました。みなさん大筋で納得されてました。11月には、九大名誉教授・岡本良二さんにも「合理的・論理的な論考だ」とのお墨付きをもらいました。

ドライアウト/失われた自然冷却機能

では、なぜこうなったのでしょうか?

地震が起こると、制御棒が挿入されるので、再循環ポンプの出力が最低速度まで自動的に下げられ、その直後、外部電源喪失により再循環ポンプは全台停止になります。冷却水の流量を見てみると、途中で外部電源が喪失し、ストンと流量が下がるのですが、非常用電源が立ち上がり、なぜか一度スパイクしてから、ゼロになっています(原因不明です)。これがいわば原子炉の心肺停止状態(冷却不全)です。

核燃料棒の崩壊熱という残留エネルギーを水の自然循環で冷やすのが、最後の安全機能だったのですが、この機能が停止したと言えます。

福島事故では、大地震によって、@原子炉自動停止と、A外部電源喪失が重なって生じたのですが、2つとも想定内の事象であって、これで燃料が壊れることがあってはならないのです。

東電にとって、外部電源喪失は「まさか」という事態だったのでしょうが、想定内であるはずの2つの事象で燃料が壊れたとすれば、原子炉安全設計審査指針、電気事業法の技術基準の違反になります。

原子力規制委員会が新たに作った再稼働審査基準は、津波対策に主眼がおかれ、電源対策・代替注水がその柱です。地震対策が入っていないので、基準そのものを作り直さねばならないことになります。

細管破断が原因?

最後の安全機能である冷却水の自然循環が止まった原因は、圧力容器につながっている配管が破損して、圧力漏れが起こり、冷却水の流れが変わったためだ、と考えています。缶ビールに穴が空いてビールが吹き出している状態を想像してください。缶の中のビールが、穴に向かっていっせいに流れ始めるのです。

どの配管が破損したかは、わかりません。原子炉建屋は放射線量が高くて人が入れませんので、確認のしようがないからです。しかし、「4号機原子炉建屋1階における水漏れ状況」(東京電力発表)は、配管の破断を報告しています。

4号機は、定期検査中で、圧力容器の蓋も開いて大気圧状態、ほとんどのポンプも停止していました。つまり、運転中の動加重が全くかかっていない状態で、ジェットポンプ計測のための配管が破損していました。東電は、いつ・なぜ破損したか?は発表していませんが、地震動の加重だけで配管が破損したということです。

一方、1〜3号機は、運転中の動加重に地震の動加重が加わっています。4号機よりも厳しい状況にあったわけです。ですから、1〜3号機でも、どこかの計測配管が破損して水の流れが止まり、ドライアウトが起こったことは容易に推測できますし、合理的推測だと思います。

スリーマイル島(TMI)原発事故の教訓を無視した東電

計測器配管は小さいので、破損して漏水しても水位がほとんど下がらない(きわめてゆっくりの水位低下)ので、事故対応で混乱している運転員にはわかりません。そのような対応マニュアルにもなっていません。しかも原子炉水位は、シュラウドの外側で測っているので、炉心燃料棒がドライアウト状態になっていても、運転員は全くわからないのです。

1979年の米・スリーマイル島(TMI)事故の時も同じでした。あの時の運転員も、水位計では見かけ上満水になったので注水をとめてしまい、メルトダウンに至りました。東電は、TMI事故の教訓を生かしていないのです。

実は、事故時に水位計が正確な状態を示さないことはわかっていました。このため事故時用の水位計が開発されたのですが、古い原発=福島や伊方では、付けられていませんでした。工事にお金がかかるからです。1日でも多く運転したい東電は、運転を停止して工事費がかかる改良工事を実施しませんでした。

つまり、今回の炉心損傷は、@小さな配管からの水漏れによって起こりましたが、A運転員は他の事故対応に追われてこれに気づかず、さらにB水位計は、事故の時に正確に測れない、という要素が重なって起こりました。こうした事象について、再稼働審査基準では全く考慮されていません。

今回の解析結果は、重大です。炉心損傷が、津波ではなく地震によって引き起こされた可能性が高いからです。

このテーマは、新潟県の柏崎刈羽原発再稼働審議委で、審査されます。11月16日、新潟県は「安全管理に関する技術員会」において「福島事故検証課題別ディスカッション」を実施することを発表しています。第1の課題が「地震動による重要機器の影響」です。同委員である田中三彦さんが孤軍奮闘で頑張っていますが東電の技術者を呼んで、この事態について質問し、審議することになっています。国会でも十分審議する必要があります。

加圧水型の伊方原発の危険性

原子炉容器内が満水でなく、容器内で蒸気を発生させる沸騰水型に対し、加圧水型である伊方原発では、配管が壊れたら、沸騰水型より過酷な状況になります。福島事故が津波ではなく、地震動によって炉心熔融の引き金が引かれた可能性があるとすれば、より厳格な地震対策の必要性は明らかです。津波対策しか検討しない審査基準のままで再稼働を認めていいのでしょうか?

原発を動かせば、何万年も管理が必要な核廃棄物を生み出し続けます。私たちの今の生活のために核のゴミを子や孫の世代に残していいのでしょうか?今の生活を維持しようとするから、代替エネルギーが課題になります。私たちは、「自エネ組(自給エネルギーチーム、囲み参照)」を提唱し、ソーラー発電についても提案しています。しかしまず、電気の消費を減らすことから考えるべきです。

データ隠し続ける東電(編集部)

新潟県の審議で地震損傷に対応した新たな耐震強化策(安全策)が必要との結論になれば、柏崎刈羽原発はもちろん、全国の原発再稼働に重大な影響を及ぼすことは間違いない。

東電は、耐震性が疑わしい「第1ベント」の完成をもって柏崎刈羽の再稼働が可能との立場だが、地震損傷説が採用されれば、早期の再稼働は不可能となり、金融機関からの融資打ち切りや経営計画の再考、ひいては破綻処理への道が大きく切り開かれることになりかねない。このため東電は、「地震損傷説」を裏付けるデータを徹底的に隠そうとするに違いない。

特定秘密保護法は、こうしたデータ隠しにも利用されることになりかねない。同法は成立してしまったが、実施までには1年ある。そもそも事故加害者=東電が、事故データを管理し、公開されていないこと自体、異常なのである。(編集部山田)

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