2013/11/26更新
佐藤雄平知事は10月18日の定例会見で、除染技術や放射線の研究拠点として三春町と南相馬市に整備する「県環境創造センター」の概要を発表した。三春町には、国際原子力機関(IAEA)ほか、日本原子力研究開発機構(JAEA)と国立環境研究所等の研究者を集め、「国内外の知見を結集する」としている。
しかし、IAEAには注意が必要だ。日本では、核開発の疑いのある国に査察を行う組織との認識が一般的だが、実際には「核の平和利用」の 美名の下、原発を推進する国際組織であり、核保有国だけに核兵器独占の特権を与える役割を果たしてきた。
本来、福島に来て健康調査すべきはWHO(世界保健機関)だが、WHOとIAEAが合意書を取り交わし(1959年)、WHOは原子力の健康被害について発言する際は、事前にIAEAの同意を得なければならないことになった。実際、IAEAは、チェルノブイリ原発事故の際にも被害地域に調査団を派遣したが、原発事故による死者は50人、甲状腺がんで亡くなった子どもは9人とするなど、事故の影響を極端に過小評価する報告書をまとめている。WHOを黙らせ、チェルノブイリでの悲惨な健康被害を隠ぺいした組織なのである。
原発被害告訴団々長の武藤類子(三春町在住)さんは、「IAEA福島進出の目的は『最高水準の安全性をもって原発を活用』するというもの。結局、安全アピールのための研究だ」と批判している。
三春町の隣にある田村市在住の鈴木匡さんも、IAEAに疑問をもつ住民の一人だ。田村市民ねっとの活動やIAEAについて聞いた。
(文責・編集部)
「田村市民ねっと」代表世話人 鈴木 匡さん
編集部…三春町にIAEA研究施設が誘致されます。どういう役割ですか?
鈴木…IAEAの研究には、2つの目的があります。1つは除染です。日本で進行している除染法とチェルノブイリ被害地での除染法を比較検討し、有効性の高い除染法を研究・提案します。第2は、福島県立医大生を対象に、被曝に関する研究者の養成です。
昨年12月、郡山市で、IAEAと日本政府が共催した「原子力安全福島閣僚会議」が開催されました。会議の間の休憩時間には、原発メーカーと電力会社が各国要人と名刺交換をし、原発の売り込みやっていた、と取材したジャーナリストから聞きました。
タイとベトナムの原発建設は、3・11以降足踏み状態ですが、原発売り込みの口上として、「新しい原発は、耐震性を強化するのは勿論だが、仮に原発が壊れても被害は極小で、除染すれば人が戻って来て住める状態になる」「今、福島の人がそれを立証している。福島には、地域住民の強い地縁・血縁があって、この『絆』によって住民は元通りの生活を続けている。その福島の人たちの姿を見てください」と、各国要人にアピールしていたそうです。これを「福島モデル」と呼んでいるそうです。耳を疑うような話です。
「原発が壊れても、除染をすれば生活再建できる」という神話を、IAEAは「福島モデル」としてつくりたがっているようです。このために、除染の調査・研究と被曝の研究をします。
編集部…反対の動きは?
鈴木…昨年11月、IAEAの透明性や公正性を監視しようと、「フクシマ・アクション・プロジェクト」が発足しました。
閣僚会議についても、「福島の女たち」は、@IAEAの福島進出の中止、A除染でなく汚染地域の避難の優先、B学校単位の疎開の開始、などを求め、抗議活動を展開しました。
同会の黒田節子さんは、「IAEAは安全、安全と言って、福島を亡き者にしようとしている。私たちは、IAEAの本質を知っている。チェルノブイリ被害者からは、『IAEAを日本で解体してくれ』と言われた。何があっても声を上げ続ける。福島の女たちをなめるな」と語っています。「フクシマ・アクション・プロジェクトを中心に、監視が続けられると思います。
編集部…田村市民ねっとの活動は?
鈴木…原発建屋の爆発を見て、連れ合いと話して決めたことは、@避難する人たちと、A福島に留まって生活する人たち、両方を支援していこうということでした。介護が必要な高齢者がいたり、避難先で子どもが馴染めるかを考えると避難できず、福島に留まる選択をした人は、たくさんいます。「田村市民ねっと」を立ち上げ、継続的に空間染量を測り、「ホットスポットには近寄らないようにしよう」とか、食品測定器を購入して測定するなどの支援を行ってきました。
安全基準については、放射線専門家や医師の間でも、「全く安全」と言う人から「危険」という人までさまざまです。結局、判断するのは自分なので、講演会を開いたり、関連書籍を集めて読もうという呼びかけを行いました。こうした活動は、市民測定所として継続されています。
避難と保養の支援もしてきました。避難はできないが子どもに保養はさせたい、と考える人もいるからです。
原発爆発直後は、私たちも新潟県に避難し、ホテルで避難生活を送りました。その後ホテルのオーナーの家を借り、他に一戸建て2軒を借りて生活を始めた人もいましたし、新たな避難者の受け入れもしました。春休み・夏休みには、子どもたちの保養地としても活用しました。子どもだけ来させてもいいし、不安なら親御さんも一緒に来てもらってもいい、というものです。
保養プログラムは今春までやりましたが、家主さんが家を使うことになり、今年の3月に2つとも契約解除となりました。子どもたちの保養については、自分たちが京都に引っ越すので、京都に保養の場を作っていこうと考えています。
編集部…4号機の燃料棒回収が始まりましたが…。
鈴木…福島県に住んでいて一番怖いのは、4号機建屋のプールに保管されている使用済み燃料です。燃料棒の引き上げ作業が11月から始まりますが、原子炉を設計した人によると、通常でも危険な作業だそうです。それを建屋のない、しかもプール自体が破損していて、瓦礫が落ちていて、仮設のクレーンを使ってなので、とてもリスクの高い作業です。言ってみれば、UFOキャッチャーのような作業です。
使用済み核燃料は放射線量がとても高いので、万が一落としたら、作業はストップして、全員撤収となります。作業ができなくなるということは、冷却もできなくなるので、内外の専門家も言うとおり、史上最悪の汚染も考えないといけません。最低でも北なら北海道、西なら名古屋を越えて逃げるしかないくらいの汚染が広がります。北半球全体が汚染されるという、最悪の事故になってしまいます。
万が一4号機の燃料プールが余震などで倒壊しても、政府の迅速な避難誘導は期待できません。3・11の時には次々に原発が壊れて1分1秒を争う避難を求められていましたが、迅速な避難支援どころか、情報提供もありませんでした。4号機の倒壊は、東日本全体が避難というような事態なので、大パニックになります。
日本政府が、東日本全体の住民避難計画や再建なんて言うのは、アリバイでしかありません。福島では、できないことを「できる」というポーズを見せて、事実上放置しています。私たち住民は、最低限のリスク回避を考え、避難の準備だけはしておこうと呼びかけ、セミナーも開催しました。
原発は壊れないという「安全神話」があって、次に山下教授のように健康被害は出ないという「健康神話」が作られ、さらに原発が壊れても除染すれば住めるという「除染神話」が生まれています。今は、測定してるから大丈夫という「測定神話」が作られようとしています。
3・11以前の日本の市場に出回っていた食品の放射能レベルは1ベクレル以下で、ほとんどが0・1以下でした。それが今は、100ベクレル以下なら市場に出されています。基準値が、千倍、1万倍に緩和されたのです。政府・マスコミは、そういう比較情報を提供しません。
厚生労働省は、他国と比べて厳しい基準値だと自画自賛していますが、グラフを作ってみてみれば、ウソであることが明白です。
政府はあてにできない。自分と家族の安全は、自分で守るしかない―これが日本の現実であり、福島の教訓です。
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