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2013/11/12更新

【連載特集・「生きづらさ」を追う】B

「空気を読み過ぎるタイプ」から対人恐怖へ
「生きづらさ」を自己分析・共有する「づら研」

当事者インタビューAみやすけさん(26)

みやすけ君(26歳・仮名)は、週4回程度ヘルパーとして働いている。働き始めて6年。2年前には、アパートを借りて一人暮らしも始めた。両親と妹は近くに住んでいるので、月に数回帰ることもあるという。

ヘルパーの賃金だけで一人暮らしはきついが、障害年金と合わせると月15万円くらいになる。贅沢はできないが、一人なら十分暮らせる生活費だ。

みやすけ君とは、「生きづらさからの当事者研究会」(通称・「づら研」)で出会った。自らの生きづらさを研究し、共有する場である。づら研で、みやすけ君はよく発言し休憩中も仲間とのおしゃべりに積極的だが、彼の研究報告では、「精神危機」「苦しみ」「妄想」という見出しがならぶ。

「当面の目標は、この生活を安定させること」と語る彼の青少年時代は、まさに怒濤といえる。自己臭恐怖からうつなどの症状を発症して、ひきこもり状態に。16才の時に精神科を受診して即日入院。3年間ほど入退院を繰り返したが、当事者グループへの参加をきっかけに、症状が改善され、仕事もできるようになった。統合失調症を抱えるみやすけさんのいきづらさを語ってもらった。(文責・山田)

「自己臭恐怖」と父親への憎悪

中学生になり「自己臭恐怖」が始まりました。自分の軽微な体臭やおならの臭いで周囲から嫌がられているのではないか、と気になる妄想です。「くさい」「きしょい」という幻聴が聞こえるようになりました。

原因として考えられるのは、中学校に入学し、それまでの「自分を好いてくれる人に囲まれて育ってきた」関係が切れたことへの喪失感だったようです。小学校卒業までは、人見知りをしない社交的な子どもでした。自分を愛し可愛がってくれる人が常にいて、ノビノビしていたように思います。

ところが中学生になって、こうした人間関係とは全く別の、未知の人間関係の中に入ることになります。これが他人恐怖へと変わっていきました。自分の意思を表明するのが怖くなり、他人の顔色を伺い、「空気を読み過ぎるタイプ」になっていきました。対人恐怖は、周囲の視線への恐怖に変わり、外ではうつむいて歩くようになりました。

高校には入学しましたが、2学期から不登校。症状は快復せず、退学を余儀なくされました。単位制高校に転校しましたが、うつ症状がひどくなり、16才の時に受診した精神病院で即日入院となりました。その後、4カ月ほどの入院を4回繰り返しました。この時期の経験は「もがき苦しむというのはこういうことか」と思いました。

もともとの「先天性過敏症」が対人恐怖となり、緊張の限界が来ると「うつ」を発症するというサイクルを繰り返してきたように思います。症状は現在、薬でコントロールされているので、苦しさは軽くなっていますが、「父親を殺すかもしれないので、何とかしてほしい」と警察に駆け込んだこともあります。

父親への憎悪も症状の一つです。幼い頃の暴力や妹と比べられて依怙贔屓されているという感情が、父親から嫌われているという感情へと肥大化し、転化して憎悪になっていったようです。今はだいぶん整理され、父親への憎悪も消えていますが、この頃がいちばん苦しかった時期です。

渦巻く感情そのものが、自分でないような感覚です。別人格が自分の中に生まれて、「私」を引きずり回している、という感覚です。当時の写真を見ると、目がつり上がり極度の緊張を示しています。

「他にも生きづらさを抱えた人がいる」

20才からヘルパーを始めました。最初の利用者は、脳性麻痺の障害者です。若者の就労支援をしているMさんに紹介されました。その頃は、主な症状も消えて安定していたので、働いてみようという気にもなり、ヘルパー資格を取りました。当事者グループの集まりに参加するようになり、自分を客観的に見る機会ができたことが、快復につながったと思います。

当初、病気のことは隠して働いていたのですが、調子が崩れるとうつが発症し、寝込んでしまいます。遅れていったり、行ってもしんどくて寝ていたり、ということもありましたが、それでも脳性麻痺の利用者は、私を庇ってくれました。彼のおかげで仕事が続けられました。

2年前に、アパートを借りて自立生活を始めました。三重にいた友人が大阪に引っ越して来たので、一緒に住むことにしました。家族と暮らすのがしんどかった事情もあります。彼とは当事者グループで出会いました。

今は、ヘルパーとして週4日働いています。障害年金と合わせて15万円くらいなので、自立生活が可能です。

数学書や物理学の本を読んでいる時がいちばん落ち着きます。宇宙物理の書籍は100冊以上読みましたが、ある時、「本に依存している」という観念に襲われ、全て処分したことがあります。「宇宙の真理を目指せ」との指令を発した私の中の「彼」に囚われていたのだと思います。そうした経験も、自分を知るためには必要な過程だったのかもしれません。

将来は全く見通せませんが、焦る必要もないと思っています。「絶対的な真理を求める」強迫観念もなくなりました。自分の直感を信じて相対的な真理を求めていけばいいと思うようになったので、数学や物理の本も楽しく読めるようになりました。

づら研は、当初の自己主張の場から、他の人の生きづらさや意見を聞く場に変わってきました。性的マイノリティの問題など、いろんな生きづらさを抱えて人がいることも知りました。社会問題に対しても開いてくれた場でもあります。

当面の目標は、今の生活を安定させることです。

* * *

[インタビューを終わって]

みやすけ君の「自分研究」(発行・づら研)を読んで想像していた彼は、「頭がよくて勘が強い、気難しそうな若者」だった。実際、顔を合わせてみると、カラオケに友達を誘う快活とも見える若者で、驚いた。統合失調症という病を彼は、「自分の中に生まれたが、別の意志を持った『彼』の存在」として理解・表現しようとしている。「肥大化したものすごい力で私を引きずり回し、出口のない無間地獄を彷徨っている状態だった」との回顧は強烈で、凡庸な私の想像力を越える苦しさだったのだろう。

その苦しさを、自分なりのイメージと言葉でなんとか表現しようとする勇気と熱意には脱帽する。「思春期のかなりの期間を、閉鎖病棟の檻の中で過ごした」というみやすけ君は、今も自分研究を続けている。(編集部山田)

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