2013/10/25更新
福島県内を走ると、あちこちで「除染中」と書かれた看板に出会う。近くでは、作業員が草を刈り、土をはぎ取っている。大規模な除染が進んでいる。除染によって生まれた汚染物が詰まったフレコンが並べられた広大な空き地も目につく。しかし、「除染をして帰還」の政府方針は、住民から不信の目を持って迎えられている。
理由は、まず効果への疑問だ。除染直後は線量が下がっても、雨が降り、時間が経過すると、徐々に線量が上がってくる。周囲の汚染源が飛来して、汚染されるからだ。政府自身も放射能の自然減衰を上回る除染の効果を諦めているのが現状で、面的に除染しないかぎり効果は限定的だ。それでも政府は、広大に広がる山林の除染はしない、との方針をきめている。
刈り取った草木・表土など汚染物の保管場所の問題もある。楢葉町では、10月1日、中間貯蔵施設の住民投票条例を町議会が否決した。同町は大熊町や双葉町と比べて線量が低く、帰還を考えている住民も少なくないため、中間貯蔵施設設置への反発は強い。大熊町・双葉町も、施設設置の候補地となっているが、住民の反発が強く、廃棄物の行方が宙に浮く恐れが強い。除染によって生まれた「汚染物」を保管・処理する場所が決まらず、除染の障害となっている。
「政府が進める高圧水による除染は『移染』であり、効果はない」として、代替除染法を研究・実践してきた山田國廣さんらが進める除染の公開実験に同行取材した。山田さんらが提唱する方法は、「効果と保管場所」両方の問題を一挙に解決しようとしている 。
特徴は3つある。第1に、当面 年間1_Sv(シーベルト)を目指すが、最終的には、事故前のレベルである0・06μSvにして元の生活を取り戻す、という高い目標を掲げていることだ。第2の特徴は、保管場所。「その場で保管」を原則とし、新たに開発した安価で効果の高い安全容器に汚染物を保管する。同安全容器は、ホットスポットの遮蔽にも使うので、「一石三鳥の保管方法だ」(山田さん)。
第3の特徴は、住民が主体となって除染作業を行う点だ。郡山市は線量が高いため、広大な除染地域をかかえており、高線量地域から順番で進めるため、これを待っていたのでは、いつになるかわからない。行政が発注し、ゼネコン主導で行う除染は、環境省作成のガイドラインに基づくもので、住民主体でできることは限られている。このため山田さんらは、大規模な機械や設備を必要とせず、住民自身の身の回りにあるものを使って効果的な除染ができるというモデルを作ろうとしている。
午前中は、ホットスポットの除染実験となった。ホームセンターの軒下、雨水・排水が溜まるところを計測すると、30μSv/時を越えている。子どもたちの通学路のすぐ側にあるこんなホットスポット が、2年半も放置されていたことになる。
クエン酸を含んだ洗剤で汚染物を浮かせて、湿式の掃除機で吸い取る(写真下)。この方法なら 高圧水除染のように、周囲に汚染物を撒き散らすこともないので、線量は確実に下がる。実際、雨樋下の線量は、10分の1にさがり、「繰り返し除染することで確実に空間線量を下げることができる」(山田さん)という。
今回の除染実験には、周辺自治会の役員、郡山市職員、ふくしま会議(代表理事・赤坂憲雄)メンバーらも参加した。環境省がすすめる高圧水除染への失望が広がり、効果的な除染法への期待感のあらわれだ。
ふくしま会議・除染分科会の高畑恒志さんは、「費用がかからない、リーズナブルな除染法だ。ふくしま会議は、さまざまな除染法の情報収集と発信を行っている。今年度中にコンペを行い、普及に努めたい」と評価した。
古町団地自治会会長・大泉兼房さん(71才)は、「市が2回の除染をしたが、住民には『あれだけやっても下がらないのか』との失望感が広がっている」と語り、「(今回の方法は)効果が目でわかり実感できるので、住民を説得しやすい」と期待感を表した。
近くの町内会の会長さんは、「(除染実験の)噂を聞きつけて参加した」という。「高圧除染に失望感が広がり、除染そのものを諦めかけている」との現状を嘆いた。
総括会議では、率直な意見交換が行われた。「政府がのらりくらりと結論を先延ばしにしていること自体が、ストレスの原因となっている。ダメならダメと言うべきだ」との声は強い。「除染すれば帰還できる」かの幻想を振りまきながら、除染は一向に進まない現状への怒りだ。
「除染を担当していた」という郡山市職員は、「(除染は)環境省任せにはできず、市としても新たな手法を作り出さねばならない」としたうえで、「市民との共同は必要」と語った。除染の要となる面的除染は、大規模に行って初めて効果が現れる。逆に言うと、個人努力による除染では効果は限定的なため、「業者委託と同程度の予算を補助すべき」との意見が相次いだ。
具体的には市民除染への補助金制度が議論された。福島市民シンクタンクの荘司信行さんは、「住民自らの除染に行政が補助金を出す制度が必要」と発言。他にも「費用対効果によって補助金を」(行建除染ネット)、「自治体の主体性を発揮し、行政・市民・企業の総力戦で」(山田國廣さん)との意見が出た。しかし現状は、環境省が定める「補助メニュー」になければ補助金は出ない」(市職員)。ただし、郡山市も「市民との共同は必要」と考えており、高畑氏(ふくしま会議)も「業者による除染の限界は政府も認識しており、環境省の姿勢にも変化がみられる」と報告した。
今回の除染実験は、その効果を証明できたと言えるだろう。特にホットスポットの除染効果は高く、10分の1まで下がった。市民主導による除染は、住民自治力を高めるという副産物もある。
しかし、原子力を推進する勢力は、「事故が起こっても除染すれば住民は住み続けることができる」という新たな安全神話=「福島モデル」を作ろうとしているのも事実。IAEA福島支部はその橋頭堡である。高線量地域で生活する住民にとって、除染は不可欠だ。しかし、公害をまき散らした東電の責任を曖昧にしたままの除染の研究は、結果として原子力ムラの延命を助けることになる。このジレンマについては考え続けたい。(編集部・山田)
HOME┃社会┃原発問題┃反貧困┃編集一言┃政治┃海外┃情報┃投書┃コラム┃サイトについて┃リンク┃過去記事