2013/10/11更新
メディア時評/浅野健一(ジャーナリスト/同志社大学社会学部メディア学科教授)
安倍晋三首相が「汚染水の影響は、港湾内0・3平方`の範囲内で完全にブロックされている」などの大ウソをついたIOC総会で、高円宮妃久子氏が東京のプレゼンの前に登壇し、「IOCの支援は、日本の子どもや若者たちに希望をもたらしてくれた」と、東日本大震災の被災地への支援に感謝を述べた。続いて、元パラリンピック選手の佐藤夏海氏(宮城県気仙沼市出身)、猪瀬直樹東京都知事、ニュースキャスターの滝川クリステル氏、招致委の竹田恒和理事長や水野正人専務理事、フェンシングの太田雄貴選手も登壇した。
久子氏は東京の演説の間、席にとどまった。久子氏の演説は皇室の政治活動であり、憲法違反なのに、日本テレビ系の「ミヤネ屋」で、竹田圭吾・元「ニューズウィーク日本版」編集長は、「皇室は持たれるものが違う。登場されただけで、その場の雰囲気ががらりと変わった」、キャスターは、「これからこういうふうに皇室のみなさんに出てもらいたい」と語った。門地で人を区別するのは、人権の否定だ。テレビ文化人は、「海外では王室がプレゼンするのは当たり前」と言っていたが、日本国憲法は皇室の行動を厳しく制限しているのだ。
安倍氏は、総会後の会見でも「(放射能による)健康への問題は全くない」と断言した。
安倍氏の「日本の食品安基準は世界で最も厳しい」という発言も、事実に反している。米国の食品安全基準はかなり厳しく、日本の食品の多くが米国では輸入禁止になっている。9月10日の東京新聞によると、チェルノブイリ事故影響を受けたベラルーシは、一部の食品の基準が日本より厳しい。
日本のメディアは、「福島原発の汚染水問題で、日本より海外の方が敏感」と繰り返し報じたが、日本の市民が福島原発の現状に無関心なのは、メディアが福島の真実を報道していないからだ。
私は8月末、ゼミ学生と一緒にインドネシアを訪問したが、ジョグジャカルタとバリ島の大学生たちは、「汚染水問題がある福島原発は大丈夫か」「日本の首相はなぜ韓国、中国の首脳と会談できないのか」と私たちに聞いた。
竹田氏が総会で「東京は福島から250`も離れている」と言ったのは、大問題だ。猪瀬東京都知事も、誘致活動で何度も「福島から遠い」と強調していた。両氏は、福島が危険だと認識しているから、そう言うのだろう。
安倍氏の総会での発言の後、東電の山下和彦フェローは9月13日、「今の状態はコントロールできていない」「想定を超えてしまうことが起きていることは事実」などと語った。
また、猪瀬知事は9月20日の記者会見で、汚染水問題で「今は必ずしもアンダーコントロールではない」と述べた。
東京五輪決定の前日放送されたTBS「報道特集」で、福島の避難民は、「われわれは棄民だ」「五輪なんてどこの国のことか」と嘆いていた。
毎日新聞(三村泰揮記者)によると、原発事故で全域が避難区域に指定されている福島県浪江町の町議会は同じ20日、「事実に反する重大な問題がある」とする抗議の意見書を全会一致で可決した。意見書は、「1日推計300dの汚染水が流出している深刻な事態。浪江町だけで震災関連死が290人を超えている。福島を軽視する政府・東電に、憤りを禁じ得ない」などと訴えている。
内外から安倍発言に疑問の声が上がり、風刺漫画でも取り上げられた。ところが、安倍氏は、総会でのウソ発言を謝罪・撤回もせず、19日に福島原発を視察した際も、コントロールされている、と言い放った。
私が見た限り、毎日新聞(21日)しか報じていないのだが、安倍氏は9月19日に現地を視察した際、放射性物質による海洋への影響が抑えられていると説明する東電幹部に、「0・3(平方`)は(どこか)?」と尋ねたという。安倍氏は「0・3平方`」の位置も確認せずに、官僚が用意した文書を読み上げただけなのだ。
全く許せないことだが、首相がIOCで福島原発についてウソを発した翌日の9月9日、検察当局は東電福島原発事故をめぐり、業務上過失致死傷などの疑いで告訴・告発された東電幹部や政府関係者ら42人全員を不起訴処分にし、発表した。記者クラブメディアが東京五輪万歳の翼賛報道を展開する中で、どさくさに紛れての不起訴発表だった。
検察当局者は仮名で、「刑事責任を誰にも問えない」などとコメントしている。メディアは、もともと「起訴は困難」と強調していた。国会の事故調査委員会は、「東電や規制当局は対策を意図的に先送りした。事故は人災だ」と明確に指摘していた。十分な捜査が行われた、とは到底言えない。
検察は専門家任せにせず、自分の目で原子炉格納容器の状態を確認してから結論を出すべきである。「専門家らから直ちに対策を講じるべきだ、との指摘はなかった」と結論づけをしているが、これは単なる伝聞や臆測、推測にすぎない事実もどきであり、事実ではない。
五輪報道を振り返ると、五輪は国家ではなく、都市が主催するスポーツの祭典だ、ということが見事に忘却されている。平和の祭典に国が前面に出ていいのか。「オールジャパン」でやるべきは、原発の事故の収束(廃炉)ではないか。
かつて大阪や名古屋が立候補した時、政府は前面に立っていない。広島市長が誘致を表明した時にも、政権は冷たかった。長野冬季五輪の時、五輪は長野市のイベントだとして、県内の松本市は五輪にまったく関わらなかった。なぜ、今回、「国」が表に出たのか。
天皇制ファシズム体制は、アジア太平洋戦争開戦前に東京五輪の誘致に成功したが、結局中止になった。困窮する民衆をさらに疲弊させる政策を続け、憲法などの法体系を戦前に戻そうとする安倍氏は、総会後の会見で「アルゼンチンを訪れた日本の首相は祖父の岸信介以来で、因縁を感じる」と話した。岸は東条内閣の商工相で、元A級戦犯容疑者だ。
私の友人の元公務員は、「こういうことを人前で言えないが、今東京で五輪をやるべきではないと思う。中東で初の五輪がよかったのに。豪華な選手村を建設する前に、避難住民に恒久住宅を提供すべきではないか」と言ってきた。
極右靖国反動の安倍自民党と公明党の連立政権が記者クラブと共謀して、「東京五輪」を徹底的に政治利用し、日本のネオファシズム化を進めようとしている。日米軍事同盟廃棄、TPP反対、壊憲¢j止を掲げ、東アジアの人民との共生を目指す日本の人民は、自公政権に抗う広範な戦線を構築したい。
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