2013/9/30更新
アルゼンチンのブエノスアイレスで9月8日朝(日本時間)開かれた国際オリンピック委員会(IOC)総会で「2020年東京五輪」開催が決まった。総会では、トルコ・イスタンブール、東京、スペイン・マドリードの順に最終プレゼンテーション(招致演説)が行われた。
安倍晋三首相は総会の演説で、海外で東京電力福島第一原発の汚染水漏れ問題が取り上げられる中、「福島について心配している人たちがいると思うが、(原発の)状況はコントロールされている、と私は確信をもって申し上げる。東京にダメージが与えられたことはこれまでもなく、また今後も決してない」と語った。
演説後の質疑で、ゲルハルト・ハイベルク理事(ノルウェー)は安倍氏に対し、「総理は福島(原発事故)が完全にコントロールされ、東京には影響がないと言ったが、何を根拠にしてそういうことが言えるのか。専門的、技術的な観点から明確に答えてほしい」と聞いた。
安倍氏は「日本語で答える」と前置きして、用意していた次のような回答を読み上げた。
「新聞の見出しだけで判断しないで、事実をきちんと見てほしい。実際には、全く何の問題もない。汚染水による影響は、福島第一原発の港湾内0・3平方qの範囲内で完全にブロックされている。(放射能汚染の)健康問題については、今までも、現在も、そして将来も全く問題ないということをお約束する。さらに、完全に問題ないものにするために、抜本解決に向けたプログラムを私が責任を持って決定し、既に着手している。実行していくことを、はっきりお約束申し上げたい」。
安倍氏は、「日本の食品や水の安全基準は世界で最も厳しい」とも説明した。
私は、これほど破廉恥なウソを国際会議で言い放つ国家指導者を見たことがない。ジャーナリストは記者会見で、「あなたは正気か」と聞くべきだが、東京誘致成功を賛美するバンザイマスゴミの社畜たちは、プレゼンの「見事さ」を賛美するだけだった。
ハイベルク氏は、環境保護を重視したリレハンメル冬季五輪(1994年)組織委会長で、長くIOC委員を務め、9月10日にJOC新会長に決まったバッハ氏(ドイツ)の信頼が厚い。ハイベルク氏は、汚染水問題だけでなく、福島原発事故が本当に収束していると言えるのか、と聞いたのだ。
安倍氏は、ハイベルク氏の適切な質問に、「新聞の見出しだけを見ないでほしい」と、メディア批判をした。汚染水問題は海外の報道機関が騒いでいるだけだ、と言いたいのだろう。橋下徹氏の手口とそっくりだ。
ハイベルク氏は、報道に影響されて聞いているのでは全くない。「原発を持たない」と決めているノルウェーの知識人としての、真摯な質問だ。安倍氏をヨイショする内閣記者会の記者たちと海外のジャーナリストは、全く違う。安倍発言は今後7年間、海外ジャーナリズムの調査報道の対象になった。
東電・福島第一原発の大量の汚染水流出問題は、日本の原子力規制委員会自らが「レベル3」の重大な異常事象と確認する非常事態だ。東電は、これまで何度も高濃度汚染水を海に垂れ流している。毎日400dを超える汚染水が地下に流れている。日本の海は外国の海とつながっている。かつてチェルノブイリがそうだったように、フクシマも全地球的問題になっている。
誘致決定のテレビ中継を見たが、東京誘致の成功をみんなで喜ぼうという大本営発表報道だ。都内でバカ騒ぎする若者たちを見て、情けなくなった。自分たちの払う税金が五輪に投入され、社会保障、教育の予算が削られることを考えもしない。
テレビと新聞は、安倍氏のプレゼンでの自信に満ちた姿勢がIOC委員を説得した、と持ち上げた。10日の朝日新聞は、一面トップで「結実チームジャパン」「人脈・笑顔入念な戦略」との見出しを掲げて、安倍氏が第2次政権を発足させて以来、五輪招致を「アベノミクスの第4の矢」と位置付けてきた、と書いた。
今なお15万人が故郷と仕事を失い、避難生活を送っている。地震の被災者が仮設住宅で暮らしている。なぜ東京五輪に3兆円の金を投入し、使用後は高級マンションになる選手村を建設するのか。東京湾の放射能汚染は大丈夫なのか。
東日本の被災者、原発事故被害者の声は、当初全く出なかった。TBSの「報道特集」「サンデーモーニング」で取り上げたくらいだ。
新聞各紙も「汚染水の問題で切った見栄を忘れまい」とういう程度の指摘で、安倍氏の発言の全文も載せない。ハイベルク氏の氏名を載せた新聞もなく、質問内容も「汚染水問題で質問した」というだけだった。
「アラブ・イスラム世界のイスタンブールで開催するのがいいのでは」という日本市民も、少なくなかったと思う。東京五輪に反対する声はかき消され、五輪決定を否定的にとらえる人は「非国民」扱いにされる雰囲気が醸成された。(次号に続く)
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