2013/9/12更新
8月31日デール・ガヴラク(AP電及びミント・プレス・ニュース)&
ヤヒヤ・アバーブネ(ヨルダン人フリーランス・ジャーナリスト)
8月21日の化学兵器攻撃を受け、米を中心とするシリアへの《武力介入マシーン》が弾みをつけているが、犯人を取り違えている可能性がある。
ダマスカスと郊外の町グータでは、「国境なき医師団」が活動、「先週の神経毒成分爆弾と思われるもので、少なくとも355人が死亡した」と報告しているので、私たちはそこの住民などにインタビューした。その結果を報告する。
米・英・仏・アラブ連盟は、「アサド政権側が化学兵器を使用し、主として民間人を目標にして攻撃した」と非難し、米はシリア政府を懲罰攻撃するために地中海に艦隊を集結させている。
米と同盟国は、シリア政府軍の無実の証拠には興味がなく、調査をしないし、そうした調査結果に耳を貸そうともしない。ケリー国務長官は、アサドの犯行は「すでに全世界に明らかな…審判である」と言い切った。
しかし、医師、グータ住民、反乱兵やその家族の多くから取材した結果、全く異なる事実が現れた。何人かの反乱兵がサウジアラビアの諜報機関長であるバンダール・ビン・スルタン王子を経由して化学兵器を受け取り、それを使ったと思っている人は、非常に多い。
「息子が2週前に、武器らしいものを取りにやってきた」と、アサド政権転覆のために戦っている反乱兵の父親でグータ住民のアブ・アブデル=モネイムが語った。「息子に携帯させよ」と、武器を渡されたという。彼は、息子と12人の反乱兵は、戦闘隊を指揮しているアブ・アイェシャとして知られるサウジアラビア人民兵が運んでくる武器を貯蔵するトンネルの中で死んだ、と言った。彼は、息子に渡した武器は「筒形の装置」と「大きなガスを詰め込んだような瓶」だった、と説明してくれた。
「反乱軍兵士は、モスクや一般民家で一般住民のように寝泊りし、その間、武器をトンネルに隠していた」と、グータの人々は話した。アブデル=モネイムは、息子たちが死んだのは化学爆弾の攻撃の時だった、と言った。その日、アルカイーダとつながっているジャブハト・アル=ヌスラという民兵組織が、「報復だ」として、同じような攻撃をアサド政権の中心地ラタキアの住民に行う、と宣言した。
「いったいどういう武器なのか、どう使うのかを教えてくれなかった」と、女性反乱兵K(反乱兵は実名を出すのを嫌がる)が言った。「まさか化学兵器だとは思わなかったわ」。そして、「サウジ王子がそんな武器を渡すときには、化学兵器の使い方を知っている者に渡すべきだったのよ」と言った。
横にいたグータ出身の反乱兵Jは、彼女の意見に賛成した。「ジャブハト・アル=ヌスラは、地上戦では一緒に戦うことはあっても、あまり一般の反乱兵と共同行動をとらない。それに秘密が多くて、それを我々には教えない。あの変な武器用の物質を一般反乱兵に運搬させたり、いろいろ扱わせたけれど、それが何でどうするのかについては、何も言わなかった。運悪く反乱兵の一人が扱いを間違って、爆発が起きたのだ」とJが説明した。
化学兵器犠牲者を治療した医師たちは我々に、「インタビューはよいが、化学兵器攻撃の責任者に関する質問には用心するように」と忠告してくれた。国境なき医師団の説明によれば、3600人の患者の世話をしたヘルス・ワーカーも、口から泡を吐く、呼吸困難、痙攣、視界不良など、同じような徴候を見せていると言う。医師団は、勝手にこの情報を証言できないのだと言う。取材した反乱兵の多くが、サウジアラビア政府から給料をもらっている、と言った。
『ビジネス・インサイダー』の記者ジェフリ・インガーソルは最近の記事で、2年半にわたるシリア内戦でサウジのバンダール王子の顕著な役割を明らかにしている。実際、彼が米政府と密接な関係をもっていて、米国の反アサド戦争を推進する中心的存在である、と見ている観測筋は多い。
インガーソルは同記事の中で、バンダールがサウジ・ロシア秘密会談の中で、「ロシアがアサドを捨てたら、原油を安価で提供する」という提案をプーチン大統領に行ったことを報じた英国紙『デーリー・テレグラフ』の記事を紹介している。
「バンダール王子は、アサド政権が崩壊してもシリアにあるロシアの海軍基地の安全を保障すると約束し、さらに、もし同意が成立しなかったら、ソチで予定されているロシアの冬季オリンピックをチェチェンのイスラム・テロリストが攻撃するかもしれないという脅しを仄めかした」と書いている。バンダールはロシア側に、「私は、来年の冬季オリンピックを保護する保障を与えることができる。オリンピック攻撃を示唆しているチェチェンのテロ・グループは、我々の支配下にある」と言ったという。
「サウジ王国だけでなく、米国もサウジ諜報機関長バンダールにロシアとの極秘交渉にゴーサインを出したという噂もあるが、別に驚くことではない」とインガーソルは書いている。「バンダールは、大学教育と軍人教育を米国で受け、駐米サウジ大使を務めた人物で、CIAの秘蔵っ子である」と付け加えている。
サウジ国王がバンダール王子にこの任務をやらせたことで、サウジはアサド政権打倒に「本気である」とCIAが判断した、と最近の『ウォールストリート・ジャーナル』が書いている。「CIAは、米国と同盟アラブ国の陰謀を熟知した男で、自分たちCIAにはできないことができる、と判断した。つまり、資金と武器を飛行機に満載してシリア反乱軍に渡すこと。それを、ある米国外交官がアラビア語で『ワスタ』と名付けた。隠れて行う不法な殴打という意味である」(ウォールストリート・ジャーナル)。
同誌は、バンダールがアサド政権とイラン政権とその同盟勢力ヒズボラを打倒するというサウジアラビアの目的を遂行している、と報じている。その目的実現のために、バンダールは、ヨルダンに軍事基地を作ってシリア反乱兵を軍事訓練する計画(訳注…すでにトルコには反乱軍の自由シリア軍の基地がある)を米国に持ち込んだ、と同誌は伝える。さらに同誌は、基地提供にあまり気が進まないヨルダンとバンダールとの会見についても書いている。アブドゥラ国王との交渉は、8時間もの長きにわたるものであった。「『またバンダールが来るのか。じゃあ交渉に2日間取れ』と王が冗談まじりに言った」と側近が語っている。
ヨルダンが財政的にサウジに依存していることで、ヨルダンはサウジの要求を受け入れざるを得なかった。2012年夏にヨルダン内の作戦センターが開設され、ネット通信を完備し、滑走路も建設、武器用の倉庫も建てた。サウジが購入したAK─47や弾薬が到着した、とウォールストリート・ジャーナルが報じた。サウジは公式には、「穏健派を援助している」と言っているが、新聞報道によると、「資金や武器が穏健派以外の過激派に次々と渡されている。これは、カタールが支援するライバルのイスラム主義者の影響力が強くなるのに対抗するためである」という。しかし、我々がインタビューした反乱兵は、「バンダール王子はアルカイーダ民兵から『アル・ハビーブ』(友人・恋人の意味)と呼ばれている」と話してくれた。
『デーリー・テレグラフ』のピーター・オウボーンは、米国がアサド政権打倒でなく、同政権の化学兵器使用能力を破壊する「限定的」武力介入を行って、アサドの「化学爆弾使用」罪を罰するという動きに対し、次のような警告を書いた。
「次の状況をよく考えてみなさい。あの化学爆弾という残虐行為で優位になったのは、それまで負け戦だった反乱側である。英米が自分たちを加勢するために介入するというのだから(訳注…英国は議会の反対で直接介入できなくなった)。化学兵器が使われたことには疑いはないが、誰がそれを持ち込み使用したかについては、大きな疑問があるのだ。アサドが以前、毒ガスを民衆に使用して非難されたことがある。しかし、そのとき国連委員のカーラ・デル・ポンテがシリアに調査に入り、アサドでなく反乱者が毒ガスを使ったようだ、という結論を出したことを、今ここで思い出すことが重要であろう」。
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