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2013/9/12更新

 

止まらない汚染水流出

オリンピックなんて悪い冗談です
水による冷却に限界─金属による冷却も検討すべき事態

 

▼「国家が倒産するほどの事態なのに、政府も国民も現実を見ようとしないのです。オリンピックなんて悪い冗談です」と、小出さんは語った。「国会は、事故をどう収束させるのか?被災者をどう救済するのか?を最優先に議論すべき」とも。

小出裕章さん(京都大学原子炉実験所助教)インタビュー

事故直後から始まっていた汚染水漏れ

編集部…新聞・雑誌・テレビなど、あらゆるメディアが、にわかに汚染水問題について活発に取り扱ってます。事態の重大さは?

小出…汚染の深刻さに光を当てるのはありがたいことだと思いますが、今さら何を騒いでいるのか?とも思ってしまいます。汚染水問題は、2011年3月11日から続いている問題です。事故発生直後の4月には、ピットというコンクリートのトンネルから汚染水が海に流れ出ているのが発見されたために東電は、大あわてで漏れを防ぐ緊急工事を行いました。するとメディアは、汚染水問題は終わったかのように知らん顔を決め込んできたのです。

事故原発敷地内には、ピットのほかに配管を格納しているトレンチや立坑があり、その先にはタービン建屋・原子炉建屋があります。これらが全部、汚染水で水浸しのままなのです。

建屋にしろ配管用トンネルにしろ全てコンクリート構造物です。福島第1原発は、地震に襲われ、あちこちでヒビが入り、そこら中で水漏れを起こしています。地上で割れがあり水が漏れていれば見えるので塞ぐこともできます。しかし見えない地下でも同様に割れたところから汚染水が漏れ続けていることは明らかです。2011年の4月の初め段階で、敷地の中には約10万トンの汚染水があふれ、恒常的に海に流れ出ているのです。

私は、その時から@コンクリート構造物から汚染水をくみ出し、A巨大タンカーに移し替えて、B柏崎刈羽原発内にある処理施設で処理すべきだと言い続けてきました。あれから既に2年経っています。汚染水問題は、今、急に立ち現れた問題ではないのです。

編集部…原子力規制委員会は、レベル3という評価をしていますが…

小出…バカげた評価です。今回タンクから300dの汚染水が漏れたので、かけ算をして24兆Bqになるので、レベル3だと言っているわけですが、冗談じゃない。汚染水は2年以上にわたって海に流れ出続けているのです。実際、どれほどの量かは誰にもわかりませんが、私は300dの10倍・100倍のレベルだろうと思っています。

既に事故原発敷地内は、放射能の沼のような状態になっています。今回タンクから汚染水が漏れたのですが、タンク建設にしても、時間をかけてしっかりした工事ができる環境ではないのです。猛烈な被曝環境で応急措置的工事しかできないのです。

汚染水が地下水と接触するようなことになれば手がつけられなくなるので、私は2011年5月に、事故原発周辺に流れ込む地下水を止めるために、建屋を地下ダム(遮水壁)で取り囲み地下水から遮断すべきだとも提言してきました。

当時、東京電力は6月に株主総会を控えており、そんな大規模工事を提案すると総会を乗り切れないということで、議案書には書かれていなかったのですが、総会後に作成された工程表には、「遮水壁の建設」が書き込まれていました。ところが、それは建屋の海側に作るという計画でした。

これではだめです。地下水は山側から流れ込んでいるのですから、山側にも作らなければ、汚染水はドンドン増え続け、海側の遮水壁の横から海に漏れ出るし、横から漏れなければ遮水壁を超えてしまうからです。海側では意味がないのです。こんな簡単なことに「専門家」と言われる人たちが気がつかないことに驚いています。

最近になって東電は、凍土壁を建設して原子炉建屋を囲むと言っています。これは、2011年から言い続けている地下ダム(遮水壁)と基本的に同じ役割なので早く実施すべきです。しかし、それでも2年かかるそうです。この間も汚染水は、海に流れ続けます。

危機感のない政府にも解決能力なし

編集部…「東電には、解決能力がない。政府あげて収束作業に取り組むべき」との論調が強くなっています。

小出…「東電に責任がある」という真っ当な論理を貫くなら、東電は、確実に倒産させなければなりません。株券はいったんゼロにして、株主責任も問うべきです。しかし、実際には日本政府は、東電の大株主(大手都市銀行・生保・東京都など)を守るために税金を投入して東電を生き延びさせているのです。それでも、事故収束・被害補償のためのお金は全く足りません。

東電には解決能力も資金もないのですから、「政府が責任を負い全力で取り組むべき」との議論はあり得ます。しかしその前に、東電は必ず倒産させてからやるべきです。

ただし日本政府に解決能力があるかどうかは、別問題です。まず政府には危機感がなさ過ぎます。事故原発が大変なことになっているのに安倍首相は、未だに再稼働を目論み、海外輸出までしようとしています。

東電も政府も、一貫して事態をできるだけ過小評価し、楽観的見通しに立って行動してきました。見通しどおりにならず失敗すると、慌てて応急措置で対応するので、後手後手に回り、後退していくという悪循環です。こんな人たちに任せていては、事故収束できるはずがありません。

防災の基本は、最悪を想定して先手を打って対策を立てることですが、自民党政権である限り、望みようもありません。そもそも、この事故の深刻さをわかっていないのです。国家が倒産するほどの事態なのに、現実を見ようとしないのです。

オリンピックなんて、悪い冗談でしょう。国会は、「福島の事故をどうやって収束させるか?」「被災者をどう救済するのか?」を、何よりも最優先で議論すべきなのです。ところが現実は、政治家もマスコミも知らん顔をしている、という風に見えます。

猛烈な被曝環境での困難な労働

編集部…事故収束はますます遠のく?

小出…東電が示している収束ロードマップは、絵に描いた餅です。理由は以下のとおりです。事故収束の要は、熔けた核燃料を回収することです。でも、メルトダウンした炉心がどこにどんな状態であるのかすらわかっていないのに、収束計画なんて無意味です。

事故原発敷地内は、「汚染水の沼」のような状態です。作業員が立ち入るだけで危険な状態で、作業をできるだけ短時間に終わらせて立ち去らねばなりません。汚染の拡大で、どんな作業をするにしても被曝を伴うことになります。収束作業環境は、ますます困難になっていますので、そのうち作業員の確保も困難になるのでしょう。いずれ海外の労働者を集めるという汚い手を使うことになるだろうとも思っています。

金属で冷やすという新手法

編集部…東電はお手上げ状態のようです。政府にも期待できないとすれば、どんな手段もないのですか?

小出…東電にも日本政府にも事故収束ができるとは思いませんので、私にできることは、困難な状況を少しでも軽減するための方法・アイデアを提案することくらいです。

水で冷やす限り汚染水が貯まり続けますし、地下水と混じることも避けられません。タンク建設も、敷地面積に限りがあるので破綻するのは目に見えています。巨大遮水壁建設も数年かかりそうなので、タンカーに汚染水を移し替える方法は今も有効だと思っていますが、「原子炉を水で冷やすのはもうやめよう」という提案を検討しています。水の代わりに融点の低い金属(鉛やビスマス)で原子炉を冷やす方法です。崩壊熱もだいぶん下がってきたので、可能性はありますし、もう水での冷却は無理なので、試してみる価値はあります。

簡単に説明します。熔けた核燃料は、「圧力容器の底を熔かして、格納容器の底にあるコンクリートに落ちている」(東電)とされています。今は、圧力容器の上部から水を注ぎ続けているのですが、水の代わりに金属を注ぎます。崩壊熱を出し続けている核燃料に注がれた金属は、熱で熔けて核燃料と混ざり、体積がどんどん大きくなります。

崩壊熱は、事故直後から比べればすでに百分の一程度に減っていますし、少しずつですが今後も下がり続けます。一方で、核燃料混合体の体積は大きくなっていくので、どこかでバランスする時点がきて、注いだ金属が熔けなくなるはずです。核燃料から放出される崩壊熱は、燃料と金属の混合物から格納容器に伝わり、さらに原子炉建屋に伝わり放熱するので、「空冷」できる時点がくるという原理です。

ただし、熔けた核燃料が図のように饅頭のような状態であるとは限りません。むしろ格納容器のあちこちに飛び散っている可能性が高いので、注いだ金属で全部の核燃料を包み込むことは、かなり困難です。

つまり、注水をやめてしまうと、冷やしきれない核燃料が一部残るので、それが揮発した放射能として環境中に飛び出してくる可能性があります。

水か金属か、どちらがいいか?確信はないのですが、水を注ぎ続ける限り、汚染水が貯まり続けるという困難は増すばかりです。汚染水の問題を解決しない限り、汚染は広がり続けます。事故収束は望みようもないことは、言うまでもありません。

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