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2013/8/27更新

書評

『原発事故と農の復興 ─避難すれば、それですむのか?!』
小出裕章、明峯哲夫、中島紀一、菅野正寿 

●評者=大今歩

本書は本年1月、立教大学池袋キャンパスで行われた公開討論会「原発事故・放射能汚染と農業・農村の復興の道」をベースとして、主に、@農産物の放射能汚染、A農民の放射線被曝に関する、中島さんや明峯さんと小出さんの論争から成り立っている。

中島さんと明峯さんは有機農業運動のリーダーであり、菅野さんは福島県での有機農業の実践者である。これに対して小出さんは、「反原発」を唱える科学者であり、福島原発事故以降は、文字通り反原発運動のオピニオンリーダーとしての役割を果たしてこられた。

私は福島原発事故後、中島さんらが、福島の農産物の放射能汚染が少ない、として「福島の奇跡」を称賛することに疑問を感じてきた。彼らに対して、小出さんがどのように論じられるのか、に大変興味を持って本書を手にした。

両者の主張を紹介して考察を加えたい。

農産物の放射能汚染

中島紀一さんは、原発事故により田畑が汚染されたが、事故後の2011年4月以降に育てられた農産物からは、放射能はわずかしか検出されなかった。そして2年目の2012年はさらに汚染が減少した、と述べる。中島さんは、それを「福島の奇跡」と呼び、背景に福島の「農人たちの努力」がある、とした。

これに対して小出さんは、中島さんは「99%1sあたり25ベクレル以下」と言うが、それは1sあたり25ベクレル以下は検出できない方法で測定しているからである。福島原発事故以前は、米の汚染は1sあたり0・1ベクレルしかなかった。中島さんの意見は、「ほとんどが1sあたり25ベクレル以下だからそんなに気にしなくてよい」と聞こえる、と指摘する。そして、大人はよいが、放射能の影響を受けやすい子どもには低い汚染でも食べさせるべきではない、と述べる。

中島さんが言う通り、福島の農民の農業にかける思いや、その努力には胸を打たれる。しかし、放射能の危険性にしきい値はない。汚染が少なくても、それなりの危険性はある。特に子どもの内部被曝には、十分な監視が必要である。国や行政による検査体制の確立と情報提供が求められる。

農民の放射線被曝について

明峯哲夫さんは、まず「危険かもしれないけど、逃げるわけにはいかない」という選択が重要である、とする。そして、子どもの被曝が重要な問題であることは認めるが、「親が原発と闘おうとしている時、子どもはそばに一緒にいて闘わなくていいのか」「農家であれば、自分の家の畑で育ち採れたものを食べて大人になっていく。(中略)健康が何よりも大事、という考え方だけを優先させるのはおかしい」と述べる。

これに対して小出さんは、「福島原発事故によって広い範囲(2万平方`、日本の面積の5・5%)が放射線管理区域(1uあたり4万ベクレル、年間5_Sv)になっている。そこに1000万人近くが暮らしている。放射線管理区域の中で人間が暮らしているのは、到底許せない。政府は人々を移住させるべきだ。放射能の危険度だけで人の生き方が決まるわけではないが、放射能は危険である。そして子どもがその危険の大部分を負う」と、明峯さんに反論する。

私は、明峯さんが農民として親として子どもに闘いを共有してもらいたい、という気持ちは分かる。しかし、子どもに放射能被曝による危険を冒させて、何と闘おうというのだろう。原発と闘うことと、福島で農業を続けることは、別の話である。私は、小出さんが言うように、政府や東電は農民に移住の権利を保障すべきだと思う(もちろん、移住先での農地を保証する)。移住の権利があれば、放射能の危険から免れられる人は多いと思う。

「移住の権利」の重要性

「福島の奇跡」を称賛する中島さんや明峯さんに対して、小出さんは歯に衣を着せず反論する。小出さんの本領がよく発揮された対談だと思った。そして、これまで抱いてきた疑問がかなり解けた。

事故後2年以上たったが、福島県内の放射線量はそれほど下がらず、除染の効果も限定的である。年間20_Sv以下を居住地域とする政府の方針では、多くの人々(特に子どもや妊婦)を被曝の危険にさらす。

「子どものいる家族だけを移住させればよい」という主張もあるが、仮に高齢者だけが地域に留まったとしても、病院や介護施設などを支える若者がいなければ、コミュニティは機能しない。インフラがなくても住み続けたい人には留まる自由を認めるべきであるが、移住の権利は保障すべきである。

確かに、農地があれば農業ができるわけではない。農民たちは、長い年月をかけて、共に里山や水路や農道を管理してきた。このような結びつきの中で生きてきた農民に、農地さえ与えればよい、と言うことは難しい。しかし、被曝は確実に農民とその家族の健康を蝕む。本書における両者の主張の対立には、深刻な問題が横たわっている。

菅野さんは、東京の脱原発アクションで福島からデモに行った時、「脱原発アクションの帰りにマクドナルドのハンバーガーを食べるのはいかがなものか」と言ったら、デモの参加者から怒られた、という。また、「原発を必要としない社会、人の暮らしを具体的に構築していこう、という脱原発のセンスが必要」「自分たちの暮らしが変わらなければ、脱原発社会は創れません」と明峯さんは述べる。

大量生産・大量消費の日本社会を変えなければ、原発をなくせない、という菅野さんや明峯さんの主張には、大いに共感する。しかし、福島の農業に希望を見出したいあまり、福島の農民に定住を求めることは、国や県が移住の権利を保障することをサボタージュしかねない。明峯さんらには、そのことに気づいてほしい、と思った。

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