2013/8/9更新
参院選の結果をどう見るのか?また、これをふまえて各々の運動現場でどう闘うのか?意見を寄せてもらった。
安倍首相は、早くも集団的自衛権について解釈改憲への布石を打ち、9条改憲に向けた突破口を模索している。こうした安倍政権の動きについては、高田健さんの分析と提言が参考になる。
原発再稼働は、焦眉の課題だ。伊方原発現地(愛媛県)から、近藤誠さんに寄稿していただいた。翼賛報道で肥大化する「影」に惑わされることなく、闘い続ける、との決意が述べられている。世論調査では、脱原発が多数派だ。再稼働阻止全国ネットの行動に注目しながら、現地の動きをこれからも報せていく。(編集部)
許すな!憲法改悪・市民連絡会 高田健
参院選が終わった。過去3番目の低投票率(52・61%)の参院選挙(この低投票率をどのように見るかは総括の一つの大きなテーマだが、別の機会に譲る)で、改憲派の自民党65議席(非改選と併せて115議席)、維新の会8議席(同9議席)、みんなの党8議席(同18議席)で、計81議席(改革や無所属など非改選の改憲派と併せて143議席)で、改憲発議に必要な3分の2(162議席)には届かなかった。
自公与党は135の安定多数を確保したが、事前に一部で語られた、《自民の単独過半数》はならなかった。しかし、「加憲」の公明党20議席を加えれば163議席で、3分の2を超え、あわせて民主党の中にも改憲賛成者がいることを考えると、3分の2を阻止できたことの意義を確認しながらも、改憲問題は容易ならざる所に至った、と言わなくてはならない。
しかし大事なことは、政府与党は「衆参のねじれを解消した」と称しているが、憲法96条、9条や、脱原発の問題では、院内の多数は必ずしも院外の世論の多数ではない、ということだ。
昨年の衆院選で民主党政権の大失敗と小選挙区制度に助けられ、自民党が法外な大勝をしているので、当面、自民党がすすんで解散に出ることはほとんど考えられない。このあと、大きな国政選挙は3年後の2016年の参院選まではありそうにない。すでに投票日の前の段階で北岡伸一(安保法制懇委員)は「2016年衆参ダブル選と抱き合わせた改憲国民投票実施論」(日経新聞7月1日)を唱えていたが、これは無責任なブラフか、願望に過ぎないと考えられる。
いま、安倍首相は、公選法の20歳選挙権と国民投票の18歳投票権を分離する方向で「憲法改正手続き法」の改定を考えている。憲法96条による18歳改憲国民投票の投票権と、国政選挙の20歳選挙権の同時実施は、常識的に考えてほとんど不可能に近い。あわせて、第2次安倍政権成立以来掲げてきた憲法9条改憲に向けた突破口作りのための96条先行改憲が、世論の抵抗できわめて困難になった。
これらを考慮すれば、明文改憲のための具体的な改憲案の作成と改憲発議、国民投票実施にはそうとうの時間がかかることはあきらかだ。この明文改憲がすぐには難しい条件の下で、安倍首相が切望する《集団的自衛権の行使》を可能にするためには、現行憲法のもとでの実質的な改憲状態作り=解釈改憲の道を模索する以外にない。開票後、菅義偉官房長官は「衆参のねじれが解消されたことで、首相の持論である憲法改正や集団的自衛権の行使容認といった『安倍色』を全面に打ち出す環境は整備された」と発言、その危険な狙いを口にした。
しかし、この集団的自衛権の「解釈」変更は、歴代政府による従来の憲法解釈を大幅に突破する、きわめて強引な「解釈」によるものとならざるをえない。選挙後、安倍首相はこの「解釈」を可能にする「国家安全保障基本法」(安保基本法)を閣法(政府提出法案)で国会上程する、と発言している。
ということは、内閣法制局による憲法適合性の審査が可能になり、かつ閣内に閣僚を送り込んでいる公明党の了解が得られることが前提条件になる。歴代内閣の下で集団的自衛権の行使は違憲としてきた内閣法制局が合憲解釈に転じることは、容易ではない。
安倍政権は、アベノミクスの強行のために日銀に介入して総裁を事実上更迭した時と同様に、法制局長官の更迭も含めて法制局を屈服させ、その憲法適合性の判断を口実にして、集団的自衛権行使で躊躇する公明党を「説得」するという覚悟だろう。
参院選を経て、自民党は改めて自公連立政権維持を基本にすえた。石破幹事長は26日、この公明党対策で、「安保基本法の上程は通常国会以降になる」との見通しを表明した。しかし、あせる安倍政権は、この安保基本法で打ち出す予定の秘密保全法(特定秘密保全法案)を先取りして、秋の臨時国会に提出する方針を固めたという。
安倍内閣は、年末の防衛大綱で打ち出す予定の海兵隊機能と敵基地攻撃能力を備えた自衛隊を、自民党改憲草案の国防軍の先取りとして既成事実化しながら、戦後の安保・防衛体制の歴史的変換を企てている。
いずれにせよ、私たちは戦後憲法闘争史上、かつてない重大な危機に直面している、と言わねばならない。衆参両院での多数議席を背景にした1999年の小渕内閣の下での第145国会、2006〜7年、第1次安倍内閣の下での165、166国会の強行採決の連発の悪夢の再現が思いやられる。
昨年末の総選挙と、今回の参院選を経て、改憲をめぐる国会内における力関係は、改憲反対勢力にとって、きわめて不利になった。前述したことだが、私たちは国会と世論のねじれを有利な条件ととらえ、改憲反対、脱原発などの課題を一層大規模に世論に訴え、国会外の大衆行動を巻き起こすことで、安保基本法など、憲法違反の「解釈改憲」を阻止しなくてはならない、と思う。
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