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2013/7/26更新

【連載特集・若者の「生きづらさ」を追う】  @「若者の自殺」

自殺に追いつめる労働環境の劣悪化
生きること・労働の意味を問い続ける「ひきこもり」の人々

昨年初め、本紙で引きこもりからの脱出を目指す若者たちへのインタビューを連載した。当初の問題意識は、雇用の不安定化・派遣切りなど、若者の労働環境の変化が関係しているのではないか、というものだった。確かに、雇用の不安定化・低賃金化によって若者の生きづらさが強化されたことは間違いないのだが、当事者の語りを聞いているうちに、それだけで説明しようとするには無理があることもわかってきた。

実際、引きこもりの原因は多様で、本人も「よくわからない」という場合が多い。学校や会社でのイジメ・パワハラが原因である場合もあれば、親子関係に起因する場合もある。「生きづらさ」の多義性や奥深さについては、山下耕平さん(「生きづらさからの当事者研究会」)、松岡千紘さん(「若者で考える未来ネットワーク」)のコメントが参考になる。

連載を再開するにあって、いくつかの前提を書いておく。まず、「ひきこもりの実態は、誰にもわからない」ということだ。ひきこもりを抱える家族は、71万世帯との推計結果もあるが、その実数すら50万〜100万人と幅が広い。そもそも、家族を含む対人関係を断っている「真性」ひきこもり当事者との接触は不可能であり、支援者や研究者が当事者として接触できるのは、「経験者」もしくは「自称ひきこもり」の人々なので、実数すらわからない。また語る主体も、当事者・家族・支援者・研究者・精神科医など多様で、それぞれの立場から見えている「現実」を、いわば「蟻の目」で記述している。このため、鳥の目で俯瞰的に全体像を記述した報告や研究は少ない。

連載再開の第1回目は、「生きづらさ」を象徴する「若者の自殺」をデータで追う。生きづらさの主要要素の一つが労働環境の劣悪化にあることを再確認できる。この連載を通して、@「生きづらさ」の中身をできるだけ具体的に示し、Aひきこもりからの「回復」とは何か?を問い直し、B歴史的転換期・未来が見通せない不安の時代の中での生きづらさやひきこもりの意味を問い直してみたい。(編集部・山田)

※ ※ ※

まず、「将来に対する不安感」の国際比較のグラフだ(図@)(官邸資料より)。日本は、18才以上の86%の人が「将来を心配」している。これは調査対象23ヵ国のなかでトップ。「将来に自信」を持っている人は、平均の約3分の1しかいない。次に若者の自殺に関するデータ。20代の自殺率を1993年と2009年を比較している(図A)(性・年齢(5歳階級)別の自殺の年次推移をグラフ化)。10才以上の全年齢で自殺は38%増加しているが、20〜24歳はこの16年間で2・1倍と、他のどの年齢層よりも自殺率が増加している。つづく25〜29歳は1・94倍で、あわせて20代はちょうど倍増していることになる。この16年間でもっとも「生きづらさ」が増したのは20代と言える。バブル崩壊から若者の自殺が増え始め、小泉政権時代(2001〜05年)の新自由主義政策(雇用の不安定化・低賃金化)で、特に若者の生きづらさが増し、自殺が増えた、と推測される。

図@

図A

「勤務問題」が多くの若者の命を奪っている

自殺の原因を垣間見ることができるのが、20才代の自殺の原因別増加率である(図B)(警察庁平成22年度中における自殺の概算資料)。をグラフ化2)。20代の就職失敗での自殺は、この3年間で2・76倍と急増している。親子間不和、生活苦に次いで仕事の失敗(196%)、失業(180%)、仕事疲れ(130%)が上位を占めている。

「全年齢全原因」の自殺率も1・8倍に増えているが、「勤務問題」による自殺率は、どの年齢層もその2倍程度増加している。この6年間で、労働環境はすべての年齢層で急激に悪化しているのである。

とりわけ20代は、この6年で5・14倍も「勤務問題」による自殺率が増えている。増加率が一番高いだけでなく、自殺率の絶対値そのものも、20代が一番高くなっている。労働は人間にとって基本となるものだが、その労働自体がどの年齢層よりも若者の命を多く奪っているのである。

異常に高い日本の「生きづらさ」

自殺に関する国際比較データを見ると、日本が突出していることがわかる。年間3万人を超える自殺者が出る日本の異常さは、よく指摘される。しかし、若者の自殺率の高さは、際だっている。日本はOECD28カ国中、3番目に自殺率が高い国だ(表@)。日本より韓国とハンガリーが高くなっている。では年齢階層別に見ると、どうか?

15〜24才、25〜34才では、自殺率トップの韓国、2番目のハンガリーを大きく越えており、平均の2倍近い。先進主要国(G7)で20代と30代の死因のトップが自殺などという国は、日本以外にない。先進国(G7)の若年層の死因トップは「事故」などが多くなっている。そもそも、日本以外の先進国(G7)は若年層の自殺率の絶対値が低いので、自殺が死因のトップになりようがないのである。

こうしたデータから見えてくるのは、@日本は、「bPの日本(Japan as No.1  D・ボーケル)」と言われた時代からわずか20年ほどで、最も不安を抱える国に激変した。A不安感は、若者の自殺に顕著に表れている。B若者の自殺の原因は、主に労働に関するもので、C若者の自殺率の高さから、日本の若者の抱える生きづらさは世界の中でも突出している、といえるだろう。

分かりにくい「生きづらさ」

取材をとおして、ひきこもりに至る経緯や、胸の内の苦しさを語る当事者の語りは、理解も共感もできる内容なのだが、「ひきこもり」とは?と一般化しようとすると、一つの像を結ばない、というもどかしさを今も持ち続けている。

若者が抱える生きづらさは、労働環境の変化は大きな要素だが、経済的貧困のみならず、人間関係の貧困や社会的居場所のなさなど多義的で、生きることや労働の意味を問うような深みのある問題でもあるからだ。

生きづらさの多義性や深みについて、2人のコメントを紹介したい。

「生きづらさからの当事者研究会」の山下耕平さんは、次のように語る。

「生きづらい」という言葉はモヤッとしていて、「どういう意味かわからない」とよく言われます。年配の方からは「生きることがつらいのなんて当たり前じゃないか」とも言われます。

学校を卒業してそれなりの企業に就職すれば、人並みの生活ができる、という「1億総中流」と言われた時代がありました。男性は企業に、女性は家庭へ、子どもは学校へという、「日本型工業社会」ですね。そこからはじかれる人の中で、障がい者に対しては、貧弱ながら社会福祉政策が用意されてきた。

ところが、日本型工業社会が崩れていく中で、障がい者とは認定されないけれども、いわば不器用な人が数多く社会からはじかれるようになりました。

「生きづらい」という言葉が出てきたのも最近のことで、一昔前なら、「障害者」「部落出身者」「在日朝鮮人」といった属性を根拠にした差別があり、生きづらさの根拠も比較的明確で了解可能でした。ところが、今言われている「生きづらさ」は属性でくくることができません。

属性としての被差別者でなくても、社会に参入できず、はじかれてしまっている中で、「自己責任」に帰されて、「生きづらい」としか言いようがない状態が生まれてきたのだと思います。

生きづらさを抱えた若者は、それを自分の内面の問題にして自分を責める、という構図が長く続いています。今も「精神科の患者」、カウンセリングの「クライアント」といった被支援者として存在しているのが、ひきこもり当事者の現状だと思います。「生きづらい」というのは、自分の内側から外に向かって語られる、新たな名付けなのでしょう。名前が付けられることで、このモヤモヤとした「生きづらさ」と向き合い、他者と共有することができる。

「生きづらさからの当事者研究会」は、しんどさを自分の中に閉じこめるのではなくて、自分の生きづらさと向き合い、他の人と共有する主体として立つことを目指して、試行錯誤を繰り返しています。

根が深い悩みをギリギリで支え合う

「若者が未来を語るネットワーク」(通称「わかみね」)の松岡千紘さんは、同会を運営するとともに、クラブで社会問題をテーマに歌うラッパーとしても活動している。社会運動やクラブで出会った若者たちと生きづらさを共有しながら、社会や政治への発言を続けている。

生きづらさというのは、漠然としてるのですが、根が深くてなおかつ広いのです。チラッと出てきた言葉の下に、でっかいものが張り付いていて、その中のある部分は、みんなの前でも出せるけど、他の部分は、特定の人にしか話せないこともあります。

私もそういう相談を受ける機会が多いのですが、みんな重い生きづらさを抱えながら、ギリギリのところで支え合う状態になっています。それぞれが倒れそうな状態で支え合うというのは、危うい状態です。

本当は、これを社会全体が分担すればいいのでしょうが、社会に出ると同調圧力があり、他人と違うことをすると仲間はずれにされてしまう経験を積んできているので、みんなが集まっている場では話せないのです。

私自身も、子育てと大学での勉強を両立させるだけでも大変なので、今は、あらかじめ自分の限界を伝えるようにしています。「今私が引き受けられる状態ではない」とか、「時間は、15分くらい」とか、伝えるようにしています。

もっと支え合いの輪と空間を広めていきたいという思いが強いです。

2人のコメントからも、若者の生きづらさは、孤立感や居場所のなさとも深く結びついていることがわかる。ひきこもりは、日本社会全体の生きづらさを象徴しており、皆が抱える「生きづらさ」と地続きの問題であることは確かだ。

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