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2013/7/11更新

トルコ反政府デモ

反政府デモ富裕層優遇策に反旗翻すゲジ公園レジスタンス
保守派と結び富裕層を政権基盤とするエルドアン政権

タイラン・トースン(6月11日Z-Space)

5月末、イスタンブールのゲジ公園をショッピング・センターに変える都市計画に抗議する小グループを機動隊が暴力的に排除する事件が起こった。この事件が引き金になり、トルコ全土で大規模な反政府デモに発展。機動隊の弾圧で3人の死者が出るほどのトルコ史上最大の騒乱へ発展した。

その背景となるエルドアン政権の抑圧政策を列挙する。

@エルドアンAKP(公正発展党)政権は、文化的多様性や生活を締めつける傾向を強めた。例えば、午後10時以降の酒類販売禁止も、デモを誘発した一要因である。

Aボスフォラス海峡の橋に、トルコに多数いるマイノリティ宗派「アラウィー派」(1500万人)を虐殺したことで有名意なオスマン・トルコ皇帝の名をつけ、文化・宗教的多様性を否定。

B政府は1年前、避妊禁止の法制化を試みたが失敗。その後、産婦人科を訪れる独身女性の記録を病院から提出させ、女性の家庭に婚外妊娠を警告する電話をかけた。

C貪欲なネオリベラル方針に基づく都市計画を大都市で強行。市民の憩いの場を豪華ホテル、金持ち用住居、ショッピング・モールへ変えた。

以上が抗議運動の直接的動機だが、AKP政権が拠って立つ権力構造を述べれば、もっとよく分かるだろう。

トルコは、トルコ人と伝統的ムスリムだけではない。2000万人のクルド人(トルコ総人口は7200万人)を筆頭に、種々のマイノリティ民族がいる。宗派についても、スンニ派のハナフィー学派が多数派だが、「空想的」イスラム理念で社会を作り変えようとする「イスラム主義者」(派)は、ごく一部分にすぎない。大きなアラウィー派やキリスト教徒、そして世俗派も多い。

その中で近年、「トルコ・イスラ主義ファシズム」と呼べるような抑圧的政体が色濃くなってきた。これは、トルコ・ナショナリズムと、公平、貧者への同情、過剰消費の節制といった本来的なイスラム価値観を欠く、金銭欲あふれるイスラムが奇妙に統合した権力構造である。この体制は、AKPが3回の総選挙を通じて権力掌握・維持する中で形成・強化された。

AKPの選挙勝利は、暗黒の90年代の結果といえる。90年代は、PKK(クルディスタン労働者党)のゲリラとトルコ軍の間の低強度戦争の時代であった。治安部隊による大規模な人権侵害や4万人の死者、それが2001年の国民経済破綻へと続いた。

中道左派・右派諸政党は治安装置の単なる手足に成り下がり、2001年の経済危機を招いたので、国民の信頼を失った。そうした状況下で、元イスラム主義政党で保守派のAKPが、民主主義と人権尊重と国民大衆のための経済発展を公約に掲げたので、国民にとって唯一の選択肢となったのだ。

政権党の変質

しかし、政権について10年ほど経つと、AKP政権は、国民大衆でなく国家利益の名による復古政策を実行し始めた。国民大衆の要求を取り込んでいるかのように振る舞いながら、実際は民主主義を裏切るトルコ民族国家の地盤固めをやっていった。これを成功させた基盤は2つある。

エジプト軍事クーデター

革命の要求は応えられていない
軍を支える米国の影

ロバート・フィスク(7月2日Z-Space )

「イスラム主義は国を経営できるか?」─エジプトはその実験場だった。しかし軍は、民主的選挙で選ばれたムスリム同胞団の大統領に見切りをつけた。「ムルシー大統領は、もはや用なし」「イスラム主義は国家運営に失敗した」と軍が宣言したのだ。タハリール広場の群衆は大歓声をあげた。軍は彼らの抗議を「素晴らしい」と評したからだ。

しかし民衆は、その意味をよく考えた方がよい。1992年のアルジェリアでは、イスラム救国戦線が選挙で勝利しそうだったので、軍が介入して「選挙中止」を宣言、民衆はこれを支持した。将軍たちは「国家の安全保障が危機に瀕する」と言ったからだ。これと同じ言葉をエジプト軍も使った。アルジェリアはその後内戦に突入、25万人が死んだ。

では軍の「ロードマップ」とは何だろうか?軍人は軍に敵対的な新しい大統領を迎えるために現大統領を退陣させるようなことはしない。ムバラク失墜後の臨時軍政府と同じように、軍事政権となる可能性が高い。

軍最高評議会の「最高」という言葉には注意すべきだ。選挙まで、民衆の名のもとに公共の秩序維持を呼びかけ、権力を行使する。ムルシーが就任して、将軍2名を解任したが、あれがムルシー政権の絶頂期だった。

エジプト軍の背後にいる米国が軍を支えることが容易に見て取ることができるのに、この事態は、イスラム主義者と軍の間の闘いだと言えるのだろうか。

自由選挙要求は、イスラム主義者が国を運営できるかどうかを見てやろう、というだけのことだ。この自由選挙要求が、独裁者や軍閥支配のアラブ政権に反対する民衆のスローガンであった。

問題は、「モスク」対「国家」ではなく、むしろ、「イスラム主義」対「現実」だった。残念なことに、エジプト政府は、ムスリム同胞団スタイルの憲法を制定して時間を浪費し、各省庁にミニ革命を遂行させ、人権グループやNGOを弾圧する法律を発布した。そもそもムルシーの支持票は51%で、そんな勝手を許すほどの支持基盤はなかったのだ。

2011年のエジプト革命は、パンと自由と正義と人間的尊厳を求めたが、それは応えられなかった。しかし、軍がムルシー以上に民衆の要求に応える保障はない。ムルシーへの抗議を「素晴らしい」と呼ぶ以外に何かを提供する気配はない。政治家はゴロツキであるが、将軍は殺し屋なのだ。

1つは、政府と軍の権力闘争でAKPが勝ったことだ。AKPは国民の支持を得て、軍部の政治介入を防いだ。しかし問題は、AKPの勝利が本当の民主主義をもたらさなかったことだ。クルド人、アラウィー派、労働者、公務員、女性、学生の人権が抑圧された。軍事政権に続いたのは、同じく非民主主義的なトルコ─イスラム主義ファシズムだったのである。

AKP政権の最新形態は、主として大中規模建設会社経営者である新保守イスラム主義ブルジョアジーの代弁者である。この権力ブロックは抑圧装置をそのまま受け継いで、自分たちの利益実現のために使っている。

2013年にやっと米の仲介でクルド労働党のアブドゥラ・オジャランとの和平交渉が始まったが、クルド人の運動に同情的なジャーナリストや弁護士や学生らが刑務所に送られた。アラウィー派などの権利や、女性の権利は否定され、政府を批判するリベラルジャーナリストは主流メディアから追い出された。

AKP成功の第二の要因は、「ポピュリスト的ネオリベラル政策」である。その1つが消費者ローンの促進政策だ。低中産階級を対象に人工的に消費の波を作り出し、マイカー、マイホームなど生活向上の幻想を持たせたのである。国内の低賃金のおかげで輸出が増大、AKP政権下で経済成長が実現した。欧米は、トルコ・イスラム主義を「サクセス・ストーリー」の見本として賞賛し、中東のモデルとした。

しかし、サクセス・ストーリーは2012年に終わった。経済が下り坂になったのだ。理由は単純で、ローンを背負いすぎた低中産階級が消費できなくなり、企業は経営不振、失業者増大、国民の70%までが貧困ライン以下の生活を余儀なくされた。

AKP政権は、ある方策を採用した。ばらばらな批判勢力には弾圧政策を続け、経済的成功者を味方につけるやり方だ。権力維持のためには、一部の社会層の消費向上と地位向上を図ってやれば十分である、という考えである。

次に採用したのは、保守派でしっかり政権基盤を固める方策だ。トルコ─イスラム主義者である富裕層を政権支持層にし、多数の貧困層は放置された。夜の酒類販売禁止、避妊禁止などは、保守派のAKP支持固めに役立った。

ゲジ公園レジスタンスに端を発した大衆抵抗は、この安直なAKP延命方策に終止符を打つものである。トルコ全土を揺るがした大デモは、社会の分裂を狙った政府の反民主主義的、差別的、社会工作的政策に反対するものであると同時に、都市公共空間や自然を破壊して新ブルジョアジーに富蓄積の便宜を図ることに反対するものでもある。

広場に集まったデモの中では、世俗派と敬虔なムスリムの間で交流が生じた。ムスリムは、「富は資本家ではなくて神のもので、我々は反資本主義モスレムだ」と言った。お互いに助け合い、食物や水などを分かち合っっている。こういう交流から、各運動体(左翼、NGO、労組、アラウィー派、ムスリム集団)は、多様性の尊重と相互敬愛という教訓を学びつつある。

権力の分裂支配を覆すためには、運動側が参加民主主義的に統合化されなければならない。また、誰であれ弾圧の犠牲者を仲間として救い出さなければならない。

権力側はけっしてあきらめず、分裂工作を用いたり、暴力的弾圧を行うだろう。結果は誰にも分からない。大切なことは闘い続けること、そして世界の同じような人々と連帯の輪を広げることだ。

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