2013/6/13更新
文部科学省が福島を中心に設置しているモニタリングポスト(以下「ポスト」と略)が、実態よりもかなり低い測定値を示している、との不信がくすぶり続けている。「グリーンピース」や「市民と科学者の内部被曝問題研究会」は、昨年11月、独自の調査結果を発表し、「政府による放射線測定は信頼できない」と結論づけている。
計画的避難区域に指定された飯舘村の酪農家・長谷川健一さんは、継続的に村内の放射線測定を続けており、「ポストの測定値は、汚染を過小評価し、賠償を低くするための意図的ごまかしではないのか?」と不信を募らせている。
ポストへの不信は、あちこちで聞いた。「子ども福島」も独自で線量測定を始めた。こんなすぐにばれてしまうようなごまかしが、いまだに続けられ、大手メディアが全く報道しようとしないことに、むしろ驚いてしまう。放射線量ごまかしの意図は何なのか? (編集部・山田)
5月30日の飯舘村役場の空間線量は、1・729μSv/時と発表されている。モニタリングポストの測定値だ。同日、長谷川さんらが居住していた前田地区内55戸の玄関先を測定すると、地上1bで平均2・80μSv/時、地上10aだと平均4・27μSv/時だったという。同地区のポストの測定値は、1・705μSv(実測値2・73μSv)で、地区内実測線量の6割という低さだ。もはや機器の誤差とは呼べない測定値のごまかしが、今も続けられている。
飯舘村の長谷川健一さんが、ポストの数値に疑問を持ち始めたのは、2011年11月。村当局が線量計20台の貸し出しを始め、村民が自宅や周辺地域の線量を測れるようになったためだ。村が購入した線量計で測定したところ、ポストの測定値があまりに低いことに驚いた。村当局に説明を求めると、「グレイとシーベルトの違い」などと説明したが、原子力安全委員会の指針で「1グレイ=1シーベルト」が示され、村当局の説明は、破綻した。長谷川さんは、村民に呼びかけて独自調査を始めた。
2012年3月には、京大原子炉実験所の今中哲二さんらが、事故1年後の線量を測定するために来村したので、長谷川さんも同行。その際、村役場にあるモニタリングポスト周辺の測定をお願いしたという。この時のポストの測定値は、0・9μSv/時。同じ場所で、今中氏が持参したサーベイメーターで測定したところ、1・0μSv/時。ポストは、約1割低い数値を示したという。
ところが、ポストから10b離れた場所で測定すると、2・4μSv/時と3倍近くに跳ね上がり、さらに10b離れると3・0μSv/時だったという。この原因について長谷川さんは、「自衛隊と大成建設が、ポスト周辺を徹底的に除染をしたからだろう。土の入れ替えもやっていたので、ポスト周辺だけ極端に線量が下がった」と語る。
国際的環境保護団体・グリーンピースは昨年10月、4日間かけて福島市内 315カ所、飯舘村 95カ所、合計410カ所で放射線調査を実施した。同時にポストとの比較も行い、調査した40カ所のポストのうち、75%に該当する30カ所が周辺の放射線量より低く表示されていた、と発表した。ポストから数歩離れた場所を測定したところ、放射線量が大幅に上昇、半径25b以内の放射線量を計測した結果では、ポストより4・5倍も高い放射線量を計測した場所もあったという。
グリーンピースの放射線専門家、リアナ・トゥール氏は、「(センサーの)周囲の金属やコンクリートの構造物が放射線を遮断している」として、「日本政府による放射線測定は信頼できない」と結論づけた。
また、「市民と科学者の内部被曝問題研究会」の矢ケ崎克馬・琉球大名誉教授らも、昨年8〜10月に、モニタリングポスト周辺の線量を調査した。調査したのは、相馬、南相馬市の51カ所、郡山市の48カ所、飯舘村の18カ所。「シンチレーションサーベイメーター」と呼ばれる小型の放射線測定器をモニタリングポストに近づけて測ったところ、いずれもモニタリングポストの数値の方が10〜30%ほど低くなっていることがわかった。同研究会も「一部のモニタリングポストでは、表土をはぐなど周囲が除染されていた」とコメントしている。
これについて「ひまわりプロジェクト南相馬」の小沢洋一代表は、「住民はポストの数値を参考に生活している。実際より低い線量を示されることで、故郷にとどまれば、健康被害につながりかねない」と懸念。「ポストの数値が公式の記録になれば、補償額などに影響を及ぼすこともあり得るのでは」と話す。
こうした指摘を受け文部科学省は、「全てのポストに不備があり、実際より低い数値が計測されていた」と発表した。同省は、設置されたバッテリーが放射線を遮蔽するなど「機器設置段階のミスが原因だった」として、「約1割の誤差」を認めた。しかし「ポスト周辺の除染や遮蔽板」によるごまかしについては、次のような正当化を試みている。
モニタリングポストの目的は、当該地域の空間線量測定ではなく、「原子力プラントからの異常放出を早期に検知すること」、大気中放射線の「異常上昇」を知るためなので、周囲を除染し、「地震などに耐えられるため」金属製の土台の上に設置。場合によっては、遮へい壁を設置して地表からの影響を低くするような対策を施している、と説明する。
これに対して今中哲二(京大原子炉実験所)氏は、次のように語る。「事故後に新たに設置したモニタリングポストは、その地域を代表する値を出さねばなりません。ところが実際は、土を入れ替えコンクリートで基礎を作り、そのうえに遮蔽板となる鉄板を敷いて検査機を置いたために、周辺より低い値となってしまいました。いったい何を測るためのモニタリングポスト測定器なのか?との根本的疑問が湧きます。私も測定しましたが、ひどい場合は、5割ほど低く出ている場合もありました」。
ポスト周囲の除染について福島県のモニタリング担当者は、「除染は各市町村ごとの計画に基づいて進めており、ポスト周辺を除染するのもやむを得ない」と説明する。
行政側は「意図的に数値を低くしているのではない」と口をそろえるが、除染作業員からも、「ポストの周囲だけ除染することがある」との証言もよく聞く。また、地元新聞等に掲載されている「各地の空間線量」は、ポストの数値が使われており、事実上これが公式の空間線量として使われているのだ。
ポストの設置場所も、文科省の説明とは食い違う。原発からの異常放出をいち早く検知するためなら、原発周辺はより密に設置されるはずだが、福島第一原発と第二原発の間にある富岡町に、ポストは1カ所しかない。原子力規制委員会のHPに「放射線モニタリング情報」がリアルタイムで表示されているが、原発周辺にポストは極端に少ないのがわかる。むしろ、汚染された周辺地域の小中学校や役場・公民館など、優先的に除染が終わったところに順次ポストが設置されている、という印象だ。
文科相が認めたバッテリーの設置ミスは、意図しないものかもしれない。しかし現実には意図的に、はるかにひどいごまかしが行われている。
福島大学でも、学食周辺など学生が通る広場が2012年3月に除染され、そこにポストが設置された。当時表示板には0・23などの数値が示されていたが、周囲は0・8〜0・9μSv/時だったという。権力から束縛されない、自由な「真理探究の場」であるはずの大学で、それも福島原発事故のあった地元の大学で、人々を欺くためのごまかしが行われている。
飯舘村の長谷川さんは、線量の高い地区でも測定を行った。蕨平では、ポストで4・5μSv/時。30b離れて測ると、9μSv/時になった。比曽地区では、ポストで2・4μSv/時、30b離れると5・6μSv/時を示した。実態は公表値の2倍以上の汚染だったという。
長谷川さんががこの問題を重視するのは、次のような理由だ。「10年後、20年後、今の子どもたちの身体に異常が出てきた時に、国との補償交渉で必ずポストの数値が出されるに違いありません。ポストの数値が実測値の半分の場所もたくさんあり、この数値を根拠に事故と健康被害の因果関係を否定されてしまうことになりかねません」。
長谷川さんは、2011年の12月から、前田地区全55戸の玄関先で放射線量を測定・記録する活動を続けている。「結果を見ると、平均的には少しずつ下がっています。でも、とても子どもが暮らせる環境ではない」と肩を落とす。
「子ども福島ネット」の深田和秀さんは、「帰還事業の道具だ」と指摘する。空間線量を低く誤解させることで、県外避難した県民の帰還を促し、「復興」をアピールしたい県の意向がごまかしを招いている、と語る。
小出裕章さんは、「ポストは除染をし、きれいに整地した場所に検査機を置いているわけだから、周辺地域より低い値が出るのは当たり前」とコメント。今中助教は、「こんなごまかしは、専門家でなくても誰でも検証できること。未だに改善されず、放置されていること事態が異常」と語る。
ポストの測定値が当該地域の放射能汚染値としては全く使えないことは、実証済だ。にもかかわらず、これが公的な数値として記録され、東電による補償などの判断基準になっていくとすれば、誰が得をし、誰が損をするのか?明らかだ。政府・自治体がポスト測定値のごまかしを誰のために行っているのかも、同様だ。
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