2013/6/2更新
反住基ネット連絡会 白石 孝
豊中・箕面で住基ネットに反対する取り組みを行ってきたメンバーらで、「個人情報が筒抜けに? 管理監視社会がやってくる! マイナンバー(共通番号)について考える」というテーマで反住基連絡会の白石孝さんを講師として学習会を行った(千里中央公民館、5/11)。
共通番号(住民登録番号)が使われている韓国の現状と問題点を伝える反住基連絡会作成のDVDを見た後、白石さんに、@共通番号は時代遅れ、A国会審議で見えてきたもの、B政府の考えている共通番号、の順に話していただいた。
法律が成立しても、実際の施行まで3年間ある。イギリスでは08年に「国民IDカード制」を導入したが、10年には「国家は必要以上に国民の個人情報を収集しない。国民の人権を踏みにじる制度」として廃止法を成立させている。(「イヤです!管理監視社会」北摂ネットワーク広瀬正明)
5月9日、衆議院本会議で自公民維み5党の修正案をふまえて番号関連4法案が可決、参議院では5月16日から審議が始まり、6月上旬には成立している可能性が高くなった。
法案は3月1日に閣議決定、同月22日から衆議院における審議が始まったが、その過程で、法案そのものにも、また、近い将来想定される拡大利用についても、重要な問題点が数多くあることが明らかにされた。もし、与野党伯仲の国会であれば、または反対や批判的な議員が多い国会であれば、審議ストップあるいは廃案、再提出を余儀なくされるほどの状況だった。にもかかわらず、野党になった民主党も政権時の提出政党であり、維新やみんなも番号制推進派であることから、問題点を徹底解明することなく採決してしまうひどさだった。
例えば、内閣官房から公表された「情報連携のイメージ図」では、将来「個人番号」(共通番号)が付与されていない分野情報も「符号」を使用して連携できるとされており、そうであれば共通番号制度をあえて作らなくてもいいという根本的矛盾が明らかにされたが、その後の質疑にはつながらなかった。
また、ネットワークを利用しての「利便性」について、厚生労働省など政府公表資料でもその効果がほとんどないことも明らかにされた。番号変更に関する法案の不備や、自分の情報を見ることができるという売りの「マイポータル」に関わるセキュリティの脆弱性も明らかにされたが、その場でのやりとりで収束してしまった。
公的分野に限定して利用を開始するという説明を政府やマスコミはしているが、警察など公的分野での自由な利用や、民間での利用についても、法案では基本理念などで謳っているうえ、3年後に見直すことも盛り込まれている。
医療分野での積極利用や生保業界を初めとする民間企業から利用拡大要請などの声があがっているにもかかわらず、国会での論議を先送りにし、法案成立ありきの対応に終始した。システム設計も法案成立後に実施とされ、導入および運営経費も不明なままだ。
このように、審議に臨む議員の勉強不足、追求の甘さが目立ち、官僚からのレクチャーを鵜のみにして質問に立ったことが推察されるような議員、法案そのものの審議ではなくIT社会万能論のみを唱える議員など、およそ法案を精査する姿勢が垣間見られなかった。このようなレベルの議員こそ、自民党が主張する議員定数削減の対象者になるべきではないか。
政府やマスコミは、「先進国で番号制度を導入していないのは日本だけ」というデマを振りまいている。
確かに何らかの番号制度を導入している国は多く、日本もすでに税金、年金、医療、介護など分野別の番号制度は導入されている。問題は、官民にまたがる広範囲な分野で同一の番号を使う制度なのか、それは見える番号なのか、ということだ。
そういった点からは、官民分野で利用し、顔写真つきICカードを全員配布している国はほとんどない。米国は顔写真はなく紙のカード、韓国はプラスティックカードだ。英国、ドイツ、オーストリア、カナダなどでは共通番号ではなかったり、民間利用を限定するなど、どちらにしても今回の日本のような方式は世界的にも珍しいものなのだ。
番号先進国と言われる韓国や米国では、個人情報が大規模に漏えい、流出し、社会問題化している。それは、便利さを求め、民間分野での利用を進めたからだ。便利さと危険性とは裏腹の関係で、便利に使うためには、どこでも同じ番号を使い、簡単にアクセスでき、利用価値が高くなければならない。
住基ネットはなぜ利用度が低く、失敗の金食い虫と言われているのか。それは、番号を見えないようにし、カードの利用分野も限られているからだ。しかし、情報の流出はほとんどない。99%は年金事務のためにしか使われていない「年金専用」ネットだからだ。
米国では、連邦司法省や取引委員会など政府関係機関が公式に発表している情報では、成りすまし犯罪被害者が3年間で1億人であったり、被害額が4千億円という桁違いになっている。カード利用や税申告で成りすますことが多く、給付付き税額控除では、過誤あるいは不正申告が4割に達している、という制度的破たんを来している。
その結果、国防総省が職員・軍人番号に共通番号を使わずに独自番号へと切り替えたり、高齢者向け医療カード(メディケア)への使用を止める検討に入るなど、共通番号制から分野別番号制へと舵を切り始めている。
韓国では、1962年に導入された住民登録番号制度が、当初は「北からのスパイ摘発」だったものから、行政内部での利用へと拡大し、さらには民間分野での利用へと3段階で進み、番号なくしては生活できないほど社会に深く浸透している。ところが、2008年からの4年間で約1億2千万人分の個人情報が流出、詐欺や成りすまし被害が出ている。人口4千8百万人に対して、一人2・5回分の個人情報が流出したのだが、個人情報の内容がカードやネット情報も含まれているだけに深刻だ。
そこで、ネット利用には別の公的個人認証番号制度ができたが、住民登録番号を廃止、変更することは困難を極めている。それほど共通番号は広く深く浸透しているのだ。
このように、共通番号制度はその弊害が大きく、世界的には見直しの時期に来ている。ネット時代にあって、いつでもどこでも同じ番号を延々と使うこと自体、時代遅れではないか。IDやパスワードを適宜変更するのが、個人情報保護の常識になっているのに、時代錯誤も甚だしい。
国の「特定秘密」に関する秘密保全法制も秋の臨時国会には提出される動きが出ているが、共通番号制度とは表裏一体の関係にあることを指摘したい。田島泰彦上智大教授は、「国を統治し、管理する側からの情報の統制・コントロール」で、その「根源にあるのは、情報はお上のものとの根深い発想に他ならない」と述べている。
ところで、米国オバマ政権は2011年に、「ネット空間における本人確認の信頼性のための国家戦略」(NSTIC)で、国防という観点を位置付けたが、それからもわかるように、国民の個人情報は第一級の「国家的財産」である。だからこそ国防総省は危険な共通番号から撤退したわけだ。日本の保守派はこういった観点すら持っていない。
共通番号制度は危険で、そして壮大な無駄遣いになる。今からでも廃止の世論を起こしていこう。
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