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2013/5/20更新

小出 裕章さん(京都大学原子炉実験所助教)インタビュー(上)

人間の手に負えない事故であることを再認識すべき
溶け落ちた核燃料の取り出しは不可能でしょう 

昨年12月、野田佳彦首相(当時)による「事故収束宣言」とはいったい何だったのか?汚染水の漏洩、停電による冷却ポンプ停止など、「収束」とはほど遠い現実が次々と明らかになっている。小出裕章さん(京大原子炉実験所助教)に現状を聞いた。質問項目は、@事故原発の現状、A事故現場と除染の被曝労働、B再稼働について、C廃炉計画についての評価と見通し、D予想される大地震について、など。2回に分けて掲載する。

「人間の手に負えない事故が起こってしまったのです」と小出さんは語る。1〜3号機の事故原発建屋には、今も人が近づくことすらできず、ロボットも猛烈な放射線で電子回路が破壊され、帰還できずに討ち死にするものが多数。私自身も含めて危機感が薄れていることをあらためて痛感した。(編集部・山田)

※ ※ ※

編集部…汚染水の漏洩の実態と影響からお願いします。

小出…福島第1原発の1〜3号機では、溶け落ちた炉心がこれ以上溶けないようにするために、ひたすら水を入れるという作業を2年間続けています。ただし、溶けた炉心は、鋼鉄製の圧力容器の底を抜け、格納容器の中に落ちています。格納容器にも穴が開き、入れた水が漏れ出て、原子炉建屋・タービン建屋の地下は、汚染水で水浸しになっています。こんな状態が2年続き、冷却水が溜まり続けています。

東京電力は、溢れてくる水を浄化して、冷却水として再使用する計画を立てましたが、コンクリート構造物(原子炉建屋、タービン建屋、トレンチ、ピットなど)にも割れがあり、地下水が流れ込み、1日に400〜500dも汚染水が増えている状態です。

東京電力は、敷地内にタンクを作り、これを保管してきたのですが、追いつかなくなって、池を掘り、遮水シートを敷いて、汚染水を入れたのですが、それもまた漏れてしまいました。

やることが本当にお粗末だと思いますが、事故現場があまりにも酷い汚染状態だということです。放射能さえなければ、ゆっくり確実に工事もできるのですが、全てが猛烈な被曝環境でやらなければいけないのです。

私は放射線業務従事者ですが、その私すらが行きたくないと思うほど猛烈な汚染地帯なのです。そういう状況で汚染水は溢れ、現在も海に向かって流れているでしょうし、今後は、意図的に海に流すという日が遠からずくる、と私は思います。

私は、汚染水が地下水を汚染しないよう、周囲に防壁を張りめぐらすべきだと今も思っています。

新たな浄化装置=「アルプス」

編…浄化された汚染水は、どれぐらいの放射能レベルですか?

小出…今浄化しているのは、セシウムだけです。他の放射性核種については、何の浄化もしていないのです。例えばストロンチウムは、29万Bq/ccほどの汚染度で、法定濃度基準の何百万倍。近づくのも嫌だな、というレベルです。漏れ出たといわれる120dは35兆Bqで、広島原爆による放射能=89兆Bqの3分の1に相当します。

そこで、東京電力は他の放射性核種も除去できる「アルプス」という浄化装置を稼働させる、と言っています。どこまで浄化できるかは、私にはよく分かりません。原子炉施設から環境に放出してもいい濃度が、それぞれの放射性物質について定められていますが、そのレベルまで浄化するのは無理だと思います

でも仮にうまくいってセシウム、ストロンチウムなどの放射性核種も法定濃度を下回る程度に浄化できたとしても、トリチウムは不可能です。トリチウムは水素の同位体なので、水そのものになってしまっているからです。

浄化装置は、水の中に含まれている放射性物質を取り除いて水をきれいにするものなので、水そのもになったトリチウムは取れず、法定濃度限度の何万倍、あるいは何十万倍もの汚染水を、そのまま海へ流す日が来るでしょう。

想像を超えた汚染環境での復旧作業

編…被曝労働についてお聞きします。原発建屋周辺の作業環境は、一体どういう状態なのでしょうか?

小出…私は、京都大学原子炉実験所で働いていますが、放射性物質を取り扱う時には、放射線管理区域でやらなければなりません。1時間あたり0.6μSvを越えるような場所は、放射線管理区域に指定するのが日本の法律です。

私のような放射線業務従事者が管理区域内で仕事をするのですが、被曝を避けるため、20μSv/hを超える場所は、「高線量区域」に指定して規制します。

例えば、1カ月ほど前、ネズミが配電板の配線をショートさせ、停電が起こりました。冷却が一時停止して、大問題となりました。皆さん「何でそんな馬鹿なことを許したのか」と、散々文句を言ったわけだし、私もお粗末だなと思いました。けれども、その配電板がある場所とは、300μSv/hという放射線が飛び交っている場所なんです。

東電は、事故収束のために冷却水循環のためのラインを作り、ポンプを据え付けて、電源供給のための配電盤も作ったのですが、その配電盤をトラックに乗せて建屋に横付けして「置いてきた」という状況です。現場でゆっくり配電盤を組み立てる時間などない場所なのです。

ですから、配電盤をしっかり管理してトラブルがないようにすること自体が、とても難しい現場なのです。

300μSv/hというのは猛烈な汚染環境ですが、他の場所はもっと凄くて、東電としては「ここならば、まだ我慢できる」として、そこに置いたのでしょう。発電所の敷地の中には、到底、人間が行けない場所も山ほどあって、原子炉建屋内部は、人が入ることすらできません。

ロボットを送り込んでも帰ってこれず、次々と駄目になると。そういう場所なんです。皆さんは、「大事故だからもっとしっかり事故に対処しろ」と思われるでしょうけれども、そんなことが言えないほどに無茶苦茶ひどい場所だ、ということをまずわかっていただきたい。

4号機爆発の原因は3号機からの水素流入

編…4号機の使用済燃料プールが、今も大きな危機として存在しています。現状を説明してください。

小出…4号機の原子炉は、定期点検中でした。炉心にあった548体の燃料集合体は半分位しか燃えてないと思いますが、残りの約600体は、完全に使用済核燃料です。すべて燃料プールに移されていました。

使用済核燃料とは、猛烈な放射能の固まりです。

一番危険なのが、セシウム137です。概算すると、広島原爆約1万4千発分になりました。

運転もしていなかった4号機で、なぜ爆発が起きたのか?私は水素爆発だと思います。東電が言ってるように、3号機で発生した水素が共通のダクトの中を通って4号機へ流れ、爆発が起こったと思います。

1号機や3号機は、格納容器が破壊され、水素が吹き出しました。水素は軽いので、原子炉建屋の最上階に集まって爆発しました。ですから、最上階が吹き飛んでいます。

ところが4号機は、3号機からダクトを通して水素がきたので、最上階だけでなく下の階にも水素が存在し、爆発で壁が吹き飛んだのでしょう。この下の階が、使用済燃料プールを支えていた壁や柱でした。使用済み燃料プールは宙ぶらりんの状態となりました。

東電も「崩れ落ちたら手が着けられなくなる」ことは理解しており、補強工事をやりました。燃料プールの下の階の床から燃料プールの底に鉄骨を並べて支え、コンクリートで固める、という耐震工事です。

しかし、爆発で壁も抜けているので、床だって損傷しています。このため、実は格納容器の外にあるコンクリートで支えているのです。格納容器は、厚さ3aほどの鋼鉄製ですが、フラスコのような格好をしていて、上の方は筒ですが、下の方に出っ張りがあります。その周りに1〜2bのコンクリートを外張りしています。そこに柱を立てて、使用済燃料プールの底面を補強したのです。

使用済燃料プールは一部しか支えられていないので、今も宙ぶらりんの状態だと思います。

事故の状況は東電にもわからない

小出…東京電力は、「震度6の地震でも大丈夫」だと言っていますが、東電の耐震計算など信じるべきではありません。爆発で壁も何も抜けていて、本当はどこまで傷んでるかわからないのです。

もし大きな余震でプールに亀裂が入って、水が少し抜けるくらいなら、上から水を入れることもできるので、燃料が溶け落ちることはないと思います。しかし、燃料プール全体が崩れ落ちてしまうような大地震が来れば、広島原爆1万4千発分ものセシウム137がありますから、放射能を閉じ込める防壁が全くない、野ざらし状態で放射能が噴出します。こうなると、手の施しようがありません。

編…ロボットによる修復作業の可能性は?

小出…人間が入れない現場がたくさんあるので、できることはロボットにやらせなければならないと思います。しかし、そのロボットすらが、帰って来れなくなるほどの汚染環境なのです。頭脳にあたる電子回路が、放射能によって破壊されるからです。

そもそも、ロボットができること自体が限られています。自動車工場などはロボットを使っていますが、決められた部品で決められた作業工程だからできるのです。どうなっているかわからないような場所でロボットができることは、かなり限られていると思います。

例えば3号機です。壊れた原子炉建屋の中からガレキを運び出す作業をやっていますが、ロボットでは無理のため、カメラで見ながら遠隔操作で重機を使って人間が操作しているのです。ロボットでできることは、本当に限られています。(次号へつづく)

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