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2013/5/10更新

いま 欧州では

スペイン─怒れる人々

俺たちが借金したんじゃない─俺たちは払わん !

redpepper.org.uk イオランダ・フレスニーヨ
翻訳・脇浜義明

今も続く15M運動

【インディグナドス】債務危機に苦しむスペインで自然発生的に広まった若者主体の非暴力デモ。左右二大政党が権力を握ってきた政治に怒りの「NO」を突き付けてきた。ささやかな呼び掛けがネットを通じて全土に広まり、都市では数万人が広場を占拠した。初日の5月15日にちなみ、運動は「15M」と名付けられ、危機に揺れる欧州各地へ拡大。米ニューヨークのウォール街占拠運動にも影響した。

金融危機と緊縮財政がスペイン人民に押しつけるツケは、酷くなるばかりだ。借金と利子の支払いを優先するため、国民の社会的経済的諸権利が次々と切り捨てられている。

銀行を救済するために公的負債が増え、政府はEUが課す赤字削減のために社会的費用を削減する。2013年予算は、借金・利子払い費用を34%増加させ(320億ポンド以上)、一方、国民健康費用は22%、教育費用は18%、女性権利改善費用は35%削減するという。

2012年の食糧援助受給者数は140万人。貧困ライン以下の世帯で暮らす児童は、2010年より13%増加して、全体の27%となった。失業率は25%に達し、特に若年層では50%。働き手が1人もいない世帯が170万世帯に達し、ローンどころか水光熱費の支払いにも苦労するようになった。住居の強制立ち退きが1日500件を越え、関連する自殺が「流行」している。

こういう悲惨な状況が全面化する中、矛盾の押しつけを拒否する闘う市民運動が形成されている。2011年5月15日、スペイン各地で数千人の人々が広場を占拠したのが、「15M運動」の始まりであった。マスコミは、占拠した民衆を「インディグナドス」(怒れる人々)と呼んだ。

インディグナドスの抗議運動は、今も続いている。当初の激しさはなくなったが、執拗に、ときには規模を大きくして、緊縮財政と債務専制政治に立ち向かっている。多くの地域では、15M運動が地域の要求や不満を組織し、指導するようになって、地方議会へと進出している。議会は消費者生協に加盟したり、それを一から形成したり、失業者への相談窓口を設けたり、大衆教育イベントを開催したり等々の活動を展開した。議会は、占拠運動のように華々しくはないが、人々の日常的な生活苦や闘いと密接に結びついている。

地方議会は、住民支持ネットワークを開発した。それは、危機が住民に押しつける難題に結束して立ち向かう場である。住宅と労働問題が主たる難題で、それらに対する集団的対応の検討・実践を目指した。立ち退きを迫られる人々の支援や都市野菜庭園、衣服交換、食料配給、「タイム・バンク」制度(例えば街の清掃奉仕活動をやって労働時間を「貯蓄」。その後、自分が老いた時、介護という形で「貯蓄」を引き出す)などの地域住民の相互扶助サービスを組織した。

同時に、立ち退き命令に対する抵抗、無人の建物を占拠して社会活動のために役立てる活動や、労働者搾取が酷い会社のボイコットなどの集団的直接行動も組織した。15M運動の影響で、生活協同組合も発展した。生産者との直接関係を成立させ、エコ農業を推進、商品市場以外の場を組織して、適正な価格で安全な食品を販売している。

広場占拠者の多くも、個人として、あるいは住民ネットワークを通じて、立ち退き抵抗運動(PAH)に参加した。PAHに登録している家族から立ち退き危機の連絡が入ると、直ぐに支援の呼びかけが発せられ、大勢の活動家が駆けつけ、立ち退きを強制する警官を阻止するのだ。こういうやり方で、500件以上の強制立ち退きを止めさせた。さらに、数カ月で100万人の署名を集めて、立ち退きと居住権に関する法律を変える運動も始めた。

PAHの運動の中には、銀行の前にテントをはって占拠する運動もある。マドリッド、アリカンテ、サンタ・クルス・デ・テネリフェ、その他の都市でテント村が作られた。目的は、立ち退きを迫られている世帯に賃貸を継続できる機会を与えるように銀行に圧力をかけることである。

最大の国庫援助を受けたバンキア銀行が、まずやり玉にあがった。銀行本店の前で人民裁判が開かれ、「銀行が責任を取れ」という判決を言い渡した。バンキア各支店への抗議行動も効果があった。昨年10月、バンキアの9支店に活動家が集合し、交渉に持ち込んで、立ち退きに直面していた9家族が公営住宅並みの家賃で引き続き住み続ける権利に合意させた。

笛を吹く老人たち/労組・農民組合も占拠参加

インディグナドスの運動からは、様々な市民的不服従団体や抗議団体が生まれている。その中にイヤヨフラウタス(「笛を吹く老人たち」の意)がある。これは、市民的不服従と経済危機の責任者への直接抗議運動を行う65歳以上の人々の集団である。

彼らは、政府省庁やバルセロナの株式市場や銀行などを占拠している。警察は、相手が老人なので弾圧に苦慮。メディアの注目も集めた。

他にもアンダルシア労働組合の活動もある。同労組は、農業日雇い労働者の組合で、農民の国際組織ビア・カンペンシーナ(農民の道)に所属しているが、昨年8月、食費すらない世帯のために、2つのスーパマーケットから食品を奪ってこれらの世帯に配るという行動に出た。後に、活動家数人が警察へ自首して、罪を被った。また、立ち退き命令が出ている家屋や使われていない農場を占拠する運動もやっている。400エーカーの公有の未使用農場を占拠。地方政府と交渉して、失業農業労働者に有機栽培をやらせる成果もあげた。

最近では、分野ごとの抗議の増加が目立つ。民営化や他の「新自由主義改革」で社会福祉の権利が脅かされる中、「公共衛生と教育を守るマレア(「潮流」の意)運動」が生まれている。彼らは病院や学校でストを決行し、街頭へ出た。

マドリッド地方政府が公立病院の民営化を決めたので、抗議行動を開始した。まず、病院労働者が4日間の予定でストに突入。これが5週間も続くと、約400人の専門職が抗議の辞表を提出。4人の労働者がハンガーストライキ、医師、看護師、その他の医療労働者が院内でテント村を作って抗議の寝泊まりを行ったのである。

2012年2月には、スペイン各都市で予算削減、公共事業民営化、労働権削減への抗議が活発化。3月のゼネストに発展した。このゼネストは一部成果をおさめたが、バルセロナとマドリッドでは警察権力による激しい弾圧が繰り広げられた。11月にもゼネストが行われ、労働者の60%が支持したが、再び警察の弾圧が荒れ狂った。

メディアの支持を受けた政府は、抗議行動や社会運動を犯罪行為として取り締まることを決め、静かな抗議行動も犯罪とする公共秩序新法を制定。それでも抗議運動は続いた。15M運動の一周年を記念して、数万人の人々が街頭を埋め尽くしたのである。7月には、地方から鉱山労働者がマドリッドまで行進。スト決行中の労働者や15M運動に合流し、大集会を開いた。

一週間後には、80を超える市町村で50万人以上の住民が政府の緊縮財政に反対を表明した。9月には、150以上の労組や社会団体による「社会サミット」がマドリッドで開かれ、数十万人が結集。10日後、「民主主義が誘拐された。我々はそれを救出する」と叫ぶ群衆が議会を包囲した。警官の弾圧で蹴散らされたが、4日後、再び議会包囲。その後、予算審議中も同様の包囲が繰り返された。

次々生まれる市民メディア

主流メディアは大きな集会しか報道しないので、対抗メディアが次々と生まれて、創意工夫にあふれた運動を紹介している。「ディアゴナル」「ペリオディスモ」「ウマーノ・ディレクタ」のような活字や電子メディアが生まれ、15M以前から存在していた「テレク」や「ラテレ・カット」のようなテレビ・プロジェクトもある。地方では、ラジオ局や、テレビとインターネットを結合した「チャンネル・トマラテレ」や「マドリッド15M」という新聞も生まれた。

大新聞社を解雇されたジャーナリストたちは、自分たちのメディアを作った。「ラ・マレア」、「エル・ディアリオ」、「モンゴラ」、「対抗経済」などだ。必ずしも活動家メディアではないが、活動家メディアより取材範囲が広く、多くの読者を引きつけている。このような対抗メディアの発達やツイッターやソーシャル・ネットワークのおかげで、情報や運動が広範囲に広がっている。

昨年10月13日、持たざる者の国際連帯組織「グローバル・ノイズ」の呼びかけに応じて、「俺たちが借金したのじゃない、俺たちは払わん」というスローガンで大衆デモが全国規模で起き、国民による負債監査を要求した。国民負債監査運動は、昨年3月に立ち上げられ、スペインの負債分析や情報収集のみならず、大衆教育と動員の活動もしてきた。

国民による監査は、人民の政治的決定権を強化する参加型民主主義として進められている。国民が支払う必要のない不正な負債がたくさんあるとして、運動を推進している。国家債務は銀行を救済するために蓄積されたもので、それを支払うために国民生活が犠牲にされているという理解が、国民の間にどんどん広がっている。そして、そういう政治体制をデットクラシー(debtocracy)と呼び始めている。

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