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2013/5/2更新

3/26-30  チュニス

世界社会フォーラム報告A

激動の国際社会の中で議論を蓄積・発展させる存在に  

ATTAC京都 春日 匠

3月にチュニジアの首都チュニスで開かれた世界社会フォーラムについて、前回のレポートでは、開催国チュニジアの雰囲気について報告した。「アラブの春」をうけて、チュニジアの若い人々の空気は、楽観的すぎると思えるほど明るいものだった。

さて、2010年末のチュニジアに端を発した「アラブの春」運動は、まずスペインに飛び火し、2011年5月15日に行われたことから「M15運動」と呼ばれ、Indignados(怒れる者たち)運動としても知られる運動につながった。

この運動は、さらに9月、ニューヨークに飛び火し、「ウォール街を占拠せよ」運動につながった。この「選挙せよ(オキュパイ)」という名称や、そこで叫ばれた「我々は99%である」というキャッチフレーズは、各国で同様の運動が展開するきっかけになった(たとえば、フランクフルトなどでも同様の運動が行われている)。

ちなみに、ここで「我々は99%である」というのは、70年代から比べて上位1%の富裕層の所得は数倍になっているのに対し、それ以外の99%の人々の経済状態は悪化している(か、増えていても微増に留まっている)という認識に基づいている。

したがって、これらの新しい運動が焦点にしているのは、一言でいえば「経済と民主制」である。アメリカで、「好景気」にもかかわらず99%の所得は伸びず、税制等で富裕層に有利な政策が進められているのは、富裕層や金融業界の、資金力にものを言わせた強力なロビイングにより民主制がゆがめられているからである、という認識である。

そのため、まず民主制を99%のために取り戻し、公正な経済システムを再構築しなければいけない、ということである。

もちろん、こうした流れは、チュニジアにおいて突然起こったわけではなく、1999年のシアトルWTO閣僚会議に端を発する大規模な「オルタグローバリゼーション」運動の流れの中にあり、このオルタグローバリゼーション運動は世界社会フォーラムのなかで育ってきたものである、と言っても良い。

実際、チュニジアにおいてもスペインにおいても、世界社会フォーラムに係わってきたRAID-ATTACチュニジアといったグループのメンバーが「アラブの春」や Indignados運動にも深く関わっていた。

アメリカはこうした「オルタグローバル運動」について言えば活発とはいえなかったが(とは言ってもパブリック・シチズンのロリ・ワラックなど、日本よりははるかに多くの個人や団体がこういった運動にかかわっているわけであるが…)、「占拠せよ」運動やアメリカ社会フォーラムなどの関係者が世界社会フォーラムにも参加する、という流れはできてきている。

議論が不調だった国際評議会

こういった流れの中で、世界社会フォーラムの重要性は増している一方で、運動としての世界社会フォーラムそれ自体は、必ずしも順調とは言い難い。

今回のチュニジアでのフォーラムは、政府機関などからも一定の協力を得、地元グループの奮闘もあって、まず成功と言っていい盛況であったが、フォーラムの方向性を決める会議である国際評議会では、地元組織委員会の健闘とは対照的に、国際評議会での議論が不調であることに対する反省が多く聞かれた。

このため、世界社会フォーラムの会期終了後に、2日間の日程でチュニス市内のマジェスティック・ホテルで開かれた会議では、「次回の世界社会フォーラムをどこで開催するか」といったことの他に、国際評議会の再編といった問題も議論された。

世界社会フォーラム自体への注目は、ブラジルのポルト・アレグレやインドのムンバイに10万人以上を集めた2004、2005年頃(第4回、第5回ぐらい)がひとつのピークであったように思われる。

その頃、イギリスのグレンイーグルスで行われたG8サミットや、世界経済フォーラムでも、債務と貧困など、第三世界の抱える問題に焦点が当てられたが、これは世界社会フォーラムの存在が大きな影響を与えたものと思われる。この頃は、例えばイギリスのBBCも、世界経済フォーラムとその対抗フォーラムとしての世界社会フォーラムをある程度バランスよく報道するなど、社会フォーラム自体への注目は高まっていた。

その後、フォーラムの手法が定着してきたことで、目新しさもなくなってきた面もあると思われるが、世界社会フォーラムが報道される量は急速に少なくなっていく。

社会運動体の「顔合わせの場」としての世界社会フォーラム

もちろん、すでに述べた通り「オルタグローバリゼーション」が世界の社会運動の潮流の中に定着していることは事実であり、その中で世界社会フォーラムが重要な役割を果たしていることも事実である。

ひとつには、現在は多くの既存の社会運動体は「ネットワーク型」と呼ばれるように、特定の中心を持たず、全世界で独自に活動を続けている。その場合、日常のやりとりはインターネットなどを通じて行うわけだが、やはりそうは言っても、顔を合わせる機会というのは重要である。そのため、世界社会フォーラムをそうした機会として利用するネットワークも増えてきている。

また、同じグループでなくても、同じ課題に取り組んでいる異なる団体間の交流というのも重要である。もともと、第1回世界社会フォーラムは2001年1月に行われたが、同年9月に世界貿易センタービル等を狙った同時多発テロが発生し、アメリカに主導されたアフガン戦争、イラン戦争が勃発した。この2つの戦争に反対するデモも、世界同時行動として行われたが、この日程を提案する会議などが反戦運動総会として世界社会フォーラム内部で行われていた。この反戦運動総会が、フォーラム内で意見を収斂させる試みの原型の一つであるが、2007年のナイロビからは、さまざまなテーマごとに(主に最終日を使って)収斂セミナーと呼ばれる集会が行われるようになった。

今回も、平和、反核、アフリカ、労働、資源収奪、シリア内戦といったテーマで30をこえる収斂セミナーが行われた。収斂セミナーの社会フォーラムの中での位置づけは、フォーラムとしても「実験中」といった様相で、フォーラム毎に少しずつ変わるのだが、今回は、ここでの世界同時行動等の議論は国際評議会によって収集されて公表される、といったことが計画されている。

例えば「気候正義ネットワーク」というネットワークがあり、フレンド・オブ・ジ・アースのような有名な団体がメンバーになっているが、ここでは「気候正義」という概念を中心に、気候変動の防止・対応策がグローバル資本の論理に絡め取られて、被害をうける(特に第三世界の)当事者のための活動というより、もうけになる先行投資として捉えられていることを批判し、公正な対策がとられることを求める、という議論が行われた。例えばここでは、「気候債務」といった概念を使って、先進国に有利な形で行われている議論を再定義し直そうという提案が行われ、また同時に、世界同時行動などの日程調整が行われる。

こういった形で新しい社会運動を巻き込むような「拡大」という意味では課題を残した世界社会フォーラムであるが、参加者の中で議論を蓄積し、発展させていくという意味では、なくてはならない存在になっているのである。

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