2013/4/22更新
福島原発告訴団々長 武藤 類子
原発事故を起こし、被害を拡大した責任者たちの刑事裁判を求める福島原発告訴団が結成され、1年が過ぎた。福島地方検察庁への告訴人は、福島県民と全国合わせて14716人となり、「厳正捜査と起訴を求める」署名 は、10万筆を越えている。「2013年度内には、結論を出したい」との報道が相次いだため、3月25〜29日には、福島地検前で強制捜査・起訴を求める激励行動も行われたが、未だ福島地検の動きはない。告訴団長の武藤類子さんに、刑事告訴に踏み切らざるを得なかった理由や、福島の現状について聞いた。(文責・編集部)
編集部…福島地検の動きは?
武藤…福島地検は、3月末を目処に結論を出すとの報道があったのですが、未だ起訴の動きはありません。2月22日には、全国から700人が集まって東京地検包囲行動を行いました。「地検は強制捜査せよ!」「東電を起訴せよ!」が私たちの要求です。
強制捜査が行われないと、証拠が隠滅される恐れがあります。福島第一原発吉田昌郎所長の事故調査委員会での証言は、証拠として押収されたようですが、事故に至った原因や経緯については、膨大な証拠があり、東京電力が保管しているはずです。それらをしっかり検証し、刑事責任を問わねばなりません。保管されている証拠を、強制捜査によって保全すべきです。
編…武藤さんは、刑事告訴の 理由に、「原発事故の途方もない理不尽さ」を挙げています。何を指していますか?
武藤…事故によって突然放射能が降り注ぎ、普通の市民生活が根こそぎ破壊されました。今も数十万人の人々が先の見えない過酷な生活を強いられています。まず、津波対策など原発の安全管理が本当になされていたのか?という 疑問があります。また、SPEEDI(スピーディ)の情報が隠され、避難の時機を逸し不必要な被曝を強いられた人もいます。避難区域の指定にしても、人々の安全が優先されることなく設定され、住民間に分断も持ち込まれました。
それに対して、事故に責任があるはずの加害者が、責任を問われることなく、取ろうともしていない、という理不尽さです。
編…福島では、諦め感も出ていると聞きますが…。
武藤…福島県は、「2020年までに県民全員帰還」の方針を掲げて、「除染して復興」の路線を突き進んでいます。これが、事故の実態を封じ込める強い圧力となっています。こうした大きな流れに抗っていくこと自体が、被害者には大きなストレスです。
人情として復興を願う気持ちは共通ですが、復興に取り組む人と、放射能の危険性を危惧する人たちの間に、大きな分断が生まれています。地域で一緒に暮らしてきた人たちの間で生まれた分断によって、率直にものが言い辛い状況があります。
本当はみんな不安を抱えています。先日も事故原発で停電し、使用済み燃料プールの冷却が止まりました。さらに貯水槽の汚染水が溢れたという報道もありました。4号機プールの燃料棒を取り出す作業も、これからです。子どもの甲状腺検査の結果も公表され、不安が現実化しています。心配・不安・怒りを内包しながらも、複雑な人間関係や状況があって、怒りを率直に表に出せないのです。
疲れて諦めている人もいるでしょうが、一方で損害賠償裁判もたくさん起こっています。浪江町は、町として損害賠償裁判を提起しました。「我慢も限界だ」と行動する人も増えています。
編…現地メディアの報道は?
武藤…告訴団を結成した昨年3月頃は、無視されがちでしたが、全国紙に取り上げられた頃から、地元紙も取材に来るようになりました。記者はさまざまな立場や視点をもっていますが、社としては、県の「復興路線」に沿った報道姿勢が多いでしょうね。
編…今後の行動は?
武藤…4月27日、郡山市で告訴団の総会を行います。結成1年を過ぎ、今後の行動計画を立てます。福島地検と東京地検は合同で捜査をし、勝俣前会長や清水元社長らの事情聴取も行ったようです。こうした動きを見ながら、証拠資料となるものを集めて地検に提出したり、地検への働きかけをしていくつもりです。
笹子トンネルの天井崩落事故では、事故の翌日に特別捜査本部が設置され、事故の原因と責任の追及が始まりました。原発事故があまりにも巨大であるから責任が特定できない、という理屈は間違っています。巨大な事故であればあるほど、徹底した責任追及が必要です。
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