2013/4/22更新
今岡良子さん(大阪大学言語文化研究科准教授) インタビュー
3月30日、モンゴル政府庁舎前では、「ウランは掘らん」「ウランは売らん」「私たちは福島市民と連帯します」の横断幕を掲げた反核運動家が、訪問中の安倍首相を迎えた。エルベグドルジ大統領との首脳会談のためモンゴルを訪問した安倍首相の車は、ゆっくり横断幕を見ながら政府庁舎に入っていったという。
日本の首相のモンゴル訪問は、2006年の小泉首相以来7年ぶり。この日、両首脳は経済連携協定(EPA)交渉加速に合意。石炭など鉱物資源や環境分野での協力を発展させることや、安全保障分野の関係強化も確認したと発表された。
しかし、「発表されない重要テーマがあった」と語るのは、今岡良子さん(大阪大学言語文化研究科准教授)だ。今岡さんは、モンゴルでの核廃棄物処分場建設に反対し、調査・情報発信を続けてきた。安倍首相のモンゴル訪問についても、「ウラン採掘、原子炉建設、使用済み核燃料の処理問題など、重要問題が話し合われたのは必至」と語る。モンゴルの反原発グループも「原子力開発がいっきに進むのではないか」と警戒している。
原発再稼働を公言する安倍首相によるモンゴル訪問の隠された意図について、今岡さんに聞いた。(文責・編集部)
編集部:モンゴルを訪問した安倍首相への抗議デモがあったそうですが…。
今岡:今回は、モンゴル反核運動(AntiNukeMovementMongolia)と緑の党が共同して、モンゴルでのウラン鉱山開発と核廃棄物処理計画に抗議の意思を示しました。 彼らは、安倍首相の車が通る予定の国立図書館前に立ち、放射能に苦しむ福島市民への連帯を前面に掲げ、「ウランは掘らん」「ウランは売らん」とアピールしました。「福島の人々が苦しんでいるのに、ウランを売って豊かになりたいとは思いません」という意思表示です。「発展途上国には電力が必要」という議論になりがちですが、当事者が、核による経済発展にNOを明言し、それは福島市民への連帯の意思なのだ、と語っています。
この日の参加者が20人ほどだったのは、デモ申請が却下され、警察が「逮捕」をちらつかせて恫喝したからです。特殊部隊の出動もほのめかされました。 モンゴルではデモ許可は必要ないのですが、今回は、緑の党党首ボウム氏が届出すると、後で警察に中止を求められ、拒否すると、3人の警官に暴力的に身体拘束されています。若手の反核リーダー=アリオンボルドさんも警察に呼び出され、「30日にデモをしたら逮捕する」と言われたので、幹部だけのスタンディングアピールとなりました。
当日は逮捕者護送用の装甲車が用意され、解散命令も発せられましたが、幸い逮捕者は出ませんでした。テレビ局 がこの抗議行動の取材をしていたので、当局もあまりに手荒なまねはできなかったのかもしれません。インタビューを受けたモンゴル反核運動共同代表のミンジュールさんは、「福島の人々と心は一つです。原発は全て撤廃。これを安倍首相と福島の人に伝えたい」と語っています。
デモの前を車で通過した安倍首相は、車の速度を落としてアピールを読んでいたそうです。デモの目的は果たせたようです。この日の参加者が20人ほどだったのは、デモ申請が却下され、警察が「逮捕」をちらつかせて恫喝したからです。特殊部隊の出動もほのめかされました。
モンゴルではデモ許可は必要ないのですが、今回は、緑の党党首ボウム氏が届出すると、後で警察に中止を求められ、拒否すると、3人の警官に暴力的に身体拘束されています。若手の反核リーダー=アリオンボルドさんも警察に呼び出され、「30日にデモをしたら逮捕する」と言われたので、幹部だけのスタンディングアピールとなりました。当日は逮捕者護送用の装甲車が用意され、解散命令も発せられましたが、幸い逮捕者は出ませんでした。テレビ局がこの抗議行動の取材をしていたので、当局もあまりに手荒なまねはできなかったのかもしれません。
インタビューを受けたモンゴル反核運動共同代表のミンジュールさんは、「福島の人々と心は一つです。原発は全て撤廃。これを安倍首相と福島の人に伝えたい」と語っています。デモの前を車で通過した安倍首相は、車の速度を落としてアピールを読んでいたそうです。デモの目的は果たせたようです。
編:2011年5月に明らかになったモンゴル核処分場建設計画は、今も継続しているのですか?
モンゴルアメリカ科学研究センター2007年設立。モンゴルの核開発(ウラン鉱山開発・原発建設・廃棄物処理)の拠点。「モンゴルウランイニシアティブ」を提唱し、核燃料サイクルの国際化を構想している。東日本大震災が起こった2011年3月11日、京都でシンポジウムを開催。ここでモンゴル代表は、核廃棄物の引き受け条件について「モンゴルで生産した燃料であること」と、発表している。 |
今岡:モンゴル産のウラン燃料を原発導入国に輸出し、使用済み核燃料をモンゴルが引き取る「包括的燃料サービス(CFS)」構想があります。
モンゴルには、世界最大といわれる推定埋蔵量140万トンのウランがあります。掘り出して核燃料を製造し、日本・米国・韓国から原発を買った国に輸出、その原発から出る使用済み核燃料を引き受ける、という構想です。「ウランを輸出して外貨を稼ぎたいなら、最終処分場を作って使用済み核燃料を引き取れ」という「核のゴミ」押しつけプログラムなのです。
この構想が実現すれば、日本から新興国への原発輸出がさらに進んでしまいます。モンゴルこそ、アジアの脱原発のカギを握ると思っています。
ウランで利益を得たい人たちがいる限り、また廃棄物処理に困る国がある限り、モンゴルの処分場問題はいつでも再燃する問題です。東芝をはじめとする日本の原発企業は、米政府に推進を要請しています。原子力ムラは、これっぽっちもフクシマを反省していないのです。反原発運動は、国境を越えた協力が必要です。
編:モンゴル政府は、核廃棄物受け入れを否定したと聞いていますが…。
今岡:2011年5月に、この秘密構想が明らかになると、モンゴル国内でも大きな議論となりました。このためバトボルド首相は、同年9月1日、「外国の核廃棄物受け入れはしない」と発言。9月22日には、エルベグドルジ大統領も、国連総会で「モンゴルに核廃棄物を搬入されてはならない」と演説しました。
しかし、彼らが否定したのは「外国産」廃棄物であって、モンゴル起源の核廃棄物については、受け入れる可能性を示唆したものだと考えています。昨年5月に発表されたモンゴル「投資計画2012−2017」には、「放射性廃棄物保管、加工、埋蔵施設建設関連施設建設」の予算がつけられていました。
反核団体や野党がこれを問題視すると、閣議決定された予算項目から「放射性廃棄物保管、加工、埋蔵」という言葉が消え、『放射能を測定する施設』と名称が変わりました。核に関する基礎研究、実験をするための基盤づくりに力を入れているようにも見えます。
モンゴル政府と東京工業大学が共同製作したロードマップによると、今は原子力安全神話を流布する時期に当たっています。実際、昨年9月からモンゴル国内で、放射線の有効利用や安全性を説く膨大なリーフレットが流通し始めました。
日本政府は、3・11後、モンゴル政府との交渉に関して、ウランや原発に関連する言葉を使わなくなり、公式サイトからも関連情報を消去しました。モンゴル政府も、反核団体やマスコミが騒ぐと、「法に従って国民を守るために頑張っている」との姿勢を見せます。このため、情報が出にくくなり、証拠を掴むことが難しくなっています。
しかし、ウラン開発で利益を得たい人たちと、原発利権に群がる人たちにとって、「モンゴル・ウラン・イニシアティブ」は、夢の続きを見させてくれる甘美なベッドです。同構想は、いつでも再燃しますし、水面下では進行していると考えるべきです。
編:モンゴルが原子力開発に着手する理由とは?
今岡:推進派の人々は、「豊かになるために地下資源開発は必要不可欠」と考えています。「夜でも煌々と電気がつく国になる」という政府の宣伝に、若者は呑み込まれています。
モンゴルのウラン開発はソ連主導で進められてきましたが、ソ連崩壊で頓挫します。91年、社会主義経済だったモンゴルも市場経済化しますが、モンゴル政府は、地下資源を売って経済を立て直そうと、1997年に鉱業法、2006年に鉱物資源法を制定しました。こうした法整備が、原子力開発を大きく後押ししました。
ただし、南モンゴルでは、中国による原油・石炭・レアアースなどの地下資源の乱採掘による砂漠化と化学黄砂が、地球規模で大問題になっています。
編:今岡さんが、モンゴルの原子力開発に反対する理由は?
今岡:千頭の家畜を飼って暮らしている遊牧民の人が、私に次のように語ってくれました。「私の故郷にはウランがある。何マイクロシーベルトが危ないとか、そういうのはわからない。けれども、学校で原爆のことを学びました。ウランは唯一の核兵器の原材料になる物質です。だから、私の故郷から人殺しの道具を掘り出 してはいけないのです」―これは、モンゴル人に共通の思いです。
また、モンゴルの文豪ダムディンスレンは、広島を訪れて「太陽の国日本には2つの黒点がある。1つは広島の原爆。もう1つは米軍基地。この黒点がなければ、太陽の国はもっと輝く国になるだろう」と語りました。今、彼が生きていたなら、「太陽の国には3つ目の黒点、フクシマが増えた」と言うでしょう。
一方モンゴルでは、ウラン開発、原発建設、核廃棄物という3つの黒点ができようとしています。この3つの黒点がなければ、モンゴルはもっと輝く国になるでしょう。 3・11の悲劇にもかかわらず、歴代首相が再稼働に意欲を示したのは、モンゴルがウラン燃料を日本に提供し、日本が輸出する原発のものも含めて処理できない廃棄物を受け入れるという秘密協定があったのではないか、と私は推測しています。
3つずつ黒点をもった日本とモンゴル。滅びのための相互的、互恵的二国間協定で心中するのではなく、自然に学び、人間の英知を集めて創造的に生きる関係を築いていきたいものです。
HOME┃社会┃原発問題┃反貧困┃編集一言┃政治┃海外┃情報┃投書┃コラム┃サイトについて┃リンク┃過去記事