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2013/4/11更新

アメリカの保守「改革」

教育の格差拡大・不公正課税…
共和党の独裁的政治  

ノースキャロライナ州在住 植田 恵子

米国・ノースキャロライナ州在住の植田恵子さん(大学教師)からレポートが届いた。共和党が支配する同州の「教育改革」「税制改革」は、橋下大阪市長の未来図だ。(編集部)

競争原理で教育改革

学校を生徒の成績によってABCのランク分けして、保護者に通知する(実は似たようなことは、既に行われている。学年末に州の英語と数学の学力テストがあり、何パーセントの学生がパスしたのかが新聞やネットで公開される。この数値によって親たちは住む場所を選ぶため、レベルの高い学校地域の住宅価値は上がり、住み分けが進む)。これは、低いランクを与えられた学校名だけでなく、教職員にも緋文字の烙印を押すことになる。

「劣悪校」のレッテルを貼られた学校で教えようという教師はいまい。教師の終身雇用を2014年から全廃とし、生徒の学力評価を教師の評価とすることになった。つまりは教師に対する罰則制度である(成績不振、中途退学は学校や教師だけの責任なのか。

家庭や不安定な社会や経済や制度といった要素の方が、教師の資質よりずっと大きい問題をはらんでいるのではないか。新聞の投書欄に、現教師からの怒りの投書があった。学習に対する学生の責任は問われないのか?居眠り、遅刻、サボる、宿題を出さない、勉強しない。そんな学生でも落とすと在籍率が下がって、問題になるから、何らかの方法であげてやらなければいけない。しかも使われているカリキュラムは2003年のもので、現行の学力テストとは合っていない。それでも、彼らの成績によって私の給料が決まるのか、と)。

終身雇用の代わりに来年度は教師は1%の昇給が約束される。当州の教師の平均給料は、上から46位だったのが、この改革によって、48位となった(初任給約3万j。昇給は5年間据え置き)。小学校低学年には補助教師がつくのだが、補助教師3000人を解雇し、代わりに専門知識と経験のある教師を1800人雇う。心配された早期教育(幼稚園入園前の1年間、早期幼児教育を施すことによって、落伍者を減らす政策)は、対象児童を5000人増やすことになったが、詳細は不明。

公共教育の中でもう一つ心配されるのが、役割分担である。今までは地域の教育委員会が、教育から学校建設まで学校関連事項の全域にわたる権限を持っていた。しかし現州政府は、教育委員会の権限を教育のみに制限し、スクールバス運営、学校建設計画やそのための債権発行の住民投票などの郡政府への移行を提案している。現在、教育委員の大部分は民主党で占められ、郡政府などは共和党であることから、教育に関する民主党の権限や政治的発言力を制限する狙いがあると見られる。新校舎のデザイン一つにしても、地方政府の承諾なしには行えず、教育内容までが交渉の道具にされる可能性もある、と関係者は懸念している。

州立大学─当州には州立大学が17校ある。2年前には州からの予算が15%(4億j)、去年は13%に減らされ、やっと今年は一息ついたと思いきや、来年は1・39億jのカットが組み込まれている。州政府は、州外学生の学費を12・3%上げることで対応するように迫っている(州立大学の学費は2種類、現在当州納税者の子弟は7000j、州外者は20900j)。この措置は、州外学生や保護者には多大な負担となる。

もう一つの対策は、大学の統合だ。赤字校の廃校や統合が検討されている。ターゲットになるのは、おそらく過疎地域にある小規模校だろう。廃校になった場合、遠方の大学に通えない地方の学生たちは、どうなるのだろう。そのような大学に通う学生は、黒人やマイノリティが多い。また、黒人大学も廃校対象にあげられている。彼らは教育の機会を奪われ、就職も困難になるだろう。産業の乏しい地方では大学の存在が地方経済を活性化する力の素にもなっているが、廃校は過疎化と失業を齎すと考えられる。

それでは、統合を免れた大規模校はどうか?実は、大学内部での統合戦略が練られている。現州政府は、企業の意向を受け、理数工学系など仕事に直接結びつく分野は優遇し、食えない人文系は予算を振り向けない政策を取りつつある。大学の職業訓練校化である。バランスの取れた知識、多角的な思考能力、コミュニケーション能力を備え持った人間の育成がもっとも大切だと思われるが、会社の歯車になるパーツとしてしか教育は期待されていない。

企業・金持ち減税し,消費税増税

税金の方では、景気回復、ビジネスの活性化のため、法人税、所得税をゼロにする法案が検討されている。200億jの州予算中、法人税、所得税が80億jを占める。80億jが消えた時、それに代わる税収を何に求めるのか。

共和党がターゲットにしているのが、消費税である。市によって僅差はあるが、現在消費税は平均6・75%で、食品は2%だ。それを、食品を含めた消費税を8・5%まで上げる、と言う。それではまかなえないので、今まで消費税が掛けられていなかった理髪、靴修理、芝刈り、塗装、大工、スパ(療養温泉)など約130のサービス分野にも広げる方向に議論されている。値上げにつながれば、不況も未だ去らぬ中、特に小規模のビジネスは打撃を受け、チップに頼るサービス労働者は客に財布の紐を締められて、収入減につながるだろう。

課税の不公平という点では、次のような問題もある。年収35千j以下の低所得世帯は、所得税控除がある(ラムニーが言っていた47%という層)。当州には該当者が90万人いる。しかし、この新しい税法だと、所得税控除を受けていた低所得者は、恩恵がないばかりでなく、生活必需品全てに消費税がかかり、この法案で得をするのは可処分所得のある富裕層だけだ。

「民主党憎し」で公園計画を撤回

州都ローリーの州立大学の二つのキャンパスを挟む形で、精神病院の広大な敷地がある。春には満開の桜に目を奪われるオアシスである。病院の移転に伴い、土地の将来が市と市民の間でこの9年、議論されてきた。最終的に、ローリー市が州から借りうけ、ニューヨーク・セントラルパーク並みの公園を作ろうという案が採択され、パーデュー民主党前知事が、任期切れぎりぎりの去年11月に決議案に署名した。しかし、選挙で州知事及び議会を制覇した共和党は、前知事が署名したリース契約を履行する必要はないと、この決定に難癖をつけ、覆しを計った。

原案ではローリー市は年50万jのリース代で今後75年間6800万jを土地所有者である州に払うことになっていたが、共和党議員は、この土地は市場価格に照らし合わせると、8400万jの価値があり、年50万jでは貸せない、と言い始めた。共和党州政府は、入札でもして草の1本まで売り払い、ホテルやショッピングモールや駐車場にしてしまうつもりなのだろうか。コンクリートで固められた土地は、もう二度と私たちに癒しの場所を与えてはくれない。空気や自然や空間や憩いといった、数値に換算できない価値のものが山ほどあるのに、それが見えない。

ここで見えてくるのは、公園の是非ではなく、政治である。共和党が嫌ったものは、公園計画の牽引力となったローリー民主党市長であり、民主党前知事だった。民主党の匂いや色が漂うものは全て抹消しようとする、共和党一党独裁(partisan)の傲慢な意思だったのではないか。そして今日(3月26日)、現共和党知事は公園計画白紙案に署名した。とにかく対話がない。共和党議員が、民主党議員や州民との対話なしにどんどん政策を決定して、発表していく。民主主義とは程遠い独裁政治で、本当に怖い話である。

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