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2013/4/6更新

正念場の原発事故被害者救済 「移住の権利」の保障を急げ

大今 歩

事故は終わっていない

福島第一原発事故から2年がたった。人々の関心はすっかり薄れてしまったが、事故はいまだに収束していないし、15万を越える人々が避難を続けている。

一方、福島県内にとどまっている人々の中には、今も放射線管理区域(レントゲン室や原子炉など1時間当たり0・6μSvを超える場所)よりも強い放射能のもとで日常生活を送っている場合も少なくない。例えば、今年3月13日福島市の1時間当たり放射線量は0・82μSvであるから、単純計算で24(時間)×365(日)を掛ければ、約7mSvとなる。法令で定められた上限の1mSvの7倍もの線量である。

甲状腺がんが50人にのぼる可能性

そうした中、2月13日、福島県民健康管理調査の検討委員会(座長・山下俊一福島県立医大副学長)は、震災時18才以下の子どもを対象とした甲状腺検査において、3人を甲状腺がんと確定し、他に7人が約8割の確率でがんの可能性があるとした。今回発表されたのは、2011年の3万8000人を対象とした調査の結果であり、2012年の9万5000人を対象とした調査の二次調査で判明するがん患者を合計すれば、50人に上る可能性があるという(2011年2月20日、参議院講堂で行われたこども・被害者支援法の具体的施策を求める院内集会での井戸謙一弁護士の発言)。

山下俊一氏ら、事故と の関連を否定

子どもの甲状腺がんの発生率は100万人に1人なのに、3万8000人に10例ものがん発症(約300倍の確率)の原因について、福島医大の鈴木真一教授は、「甲状腺がんは最短4、5年で増加したというのがチェルノブイリの知見」、また山下俊一座長は、「人数だけ見ると心配するかもしれない。しかし、20〜30代でいずれ見つかる可能性があった人が前倒しで見つかった」と、いずれも福島第一原発事故による影響を否定している。

しかし、山下氏と言えば、事故直後から福島県のアドバイザーとして「放射線の影響はクヨクヨしている人に来る」「100mSvの積算線量でリスクがあるとは思っていません」と県内各地で講演し、子どもへの甲状腺被曝の影響を真っ向から否定してきた人物である。また昨年9月、1例目のがんが発見されたとき、山下氏が座長を務める検討委は事前に福島県と秘密会を開き、「がん発生と原発事故に因果関係はない」との見解をすり合わせていたことが明らかになっている(「毎日」2012・10・3)。

原発事故との関連の疑い

だから今回の山下氏らの説明は予断に基づくもので、甲状腺がんは原発事故による放射性ヨウ素被曝の影響を考えざるを得ない。検討委は記者会見で「(10人の)被曝量は把握しているが、公表はしない」と回答したという。おしどりマコ氏は「10人のうち何人かを個人的に知っている。線量の低い地域ではなく、警戒区域に近い所で生活していたご家族である」と述べている(『週刊金曜日』3月1日号)。

検討委は公表しないが、被曝線量の高い子どもが発症している。事故直後、政府はSPEEDIの公表を遅らせ、安定ヨウ素剤を配布しなかった。そのことが今回の事態を招いた可能性がある。

がん以外の健康被害

さらに今後心配されるのは、低レベル被曝にともなう、がん以外の健康被害である。

チェルノブイリ原発事故の6年後から3年間、WHOはベラルーシの汚染地域と非汚染地域の約8000人の健康調査を行った。その結果、汚染地域では健康な子どもの割合は2割以下に過ぎず、慢性病の子どもが多いことがわかっている。病気罹患率を見ると、内分泌系は5〜10倍、消化器系は6〜7倍と、汚染地域の方が大きくなっている(『サイレント・ウォー―見えない放射能とたたかう』講談社、今中哲二)。今後、福島でも同様のことが起こりかねない。

20mSv以下は「帰還」方針

ところが、政府は来年初めにも年間積算線量が20mSv以下の「避難指示解除準備区域」への住民の「帰還」を進める方針である。「除染」には膨大な作業と予算が必要で、「1mSvは震災後の混乱期に打ち出された実現困難な目標」(政府関係者)だからだという(「読売」2013年3月11日)。法令により1mSv以上の被曝をさせてはいけない、と定めているのに、政府自らが「除染」を値切るため、法令を破り、福島の住民を被曝の危険にさらそうというのである。

「しきい値なし仮説」が定説

「帰還」方針の根拠に政府があげているのは、山下氏と同じく年間100mSv以下なら健康への影響が検証できない、との説である。しかし今日、被曝量は小さくても被曝量に比例してがん死リスクが増加するという「しきい値なし仮説」が定説であり、ICRPでさえこれを採択している(同前『サイレント・ウォー―見えない放射能とたたかう』)。

「除染」は有効か

政府が「20mSv以下は『帰還』方針」を打ち出すのは、『除染』の効果が限定的であるためである。そもそも「除染」はは、帰還困難区域を小さく見積もって福島県を残したいと考える県庁と、国と結びつき、大きな利益を得ようとするゼネコンの利害が一致して進められてきた。しかし、「除染」が有効であるという幻想が人々を福島にとどめ、被曝を強いてきたのではないか。さらに、「帰還」は被曝に拍車をかけるのではないか。

移住できない理由

郡山市の小学校教員の國分俊樹さんは事故後、放射能の危険性を生徒らに訴え続けておられる。自身も事故後、累積6mSvの放射能を浴び、内部被曝を含めると10mSvを超えている、と予想しておられる。しかし、「郡山市を離れたくても家のローンが残っているし、他県に移ったら失職するので移住できない」と述べておられた(昨年10月13日「教育塔を考える会」集会での講演)。放射能の危険性を熟知しながら、深刻な被曝環境に留まらざるを得ない苦悩を痛感させられた。

「移住の権利」の保障を

政府や福島県はこの2年間、一貫して事故を小さく見せかけ、福島県民の健康よりも福島県の存続を、また国および東電への責任追及をそらせることを優先してきた。

福島県の中には、國分さんのように政府が住居や生活を保障すれば移住を希望する人は少なくないと考えられる。福島の人々に今後予想される被曝による健康被害を考えれば、不十分な「除染」による「帰還」ではなく、「移住」の権利の保障をすすめるべきであると思う。

福島原発事故は終わっていない。否、むしろ今こそが正念場なのである。

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