2013/3/14更新
「ここで死ねると思っていたのに、移転勧告がショックで、入院した」―こう語るのは、川添良子さん(74才)だ。神戸市須磨区で被災。西区の仮設住宅で3年間過ごした後、「借り上げ住宅」としてキャナルタウンウェスト(兵庫区)に移り住んだ。15年前だ。ところが一昨年前、神戸市から入居期限20年を根拠とした「移転勧告」が送られてきたという。
阪神・淡路大震災では、30万世帯が家を失った。被災者向けに自治体が、都市再生機構(UR)や民間事業者から約7000戸を借り上げ、公営住宅を基準とした家賃で貸し出したのが、復興借り上げ住宅だ。復興住宅の契約期間が20年とされ、2015〜23年度に返還期限を迎えるため、神戸市は2年前から移転を迫っている。
居住者らは、3月4日、神戸市役所前にテントを張って、居住継続を求める座り込みを始めた。現場で居住者の声を聞いた。東北大震災では、6万3000戸が「見なし仮設」、「借り上げ復興住宅」として使用されているが、いずれ同様の問題を引き起こすだろう。神戸の今は、20年後の東北だ。 (編集部・山田)
テントに座り込む川添さんは、一人住まい。隣に座る吉山隆生さん(62才)とは、仮設住宅時代に知り合い、今も棟は違うが同じ団地に住む。「兄弟以上の仲だ」と語る。キャナルタウンウエストは、最初期の借り上げ住宅で、被災者480世帯が暮らす。
神戸市の借り上げ住宅は107団地、3741戸(兵庫県は、37団地、1865戸)。家賃は公営住宅と同額で、物件本来の家賃との差額計約24億円は、神戸市が支出している。同市は2011年1月から、住み替え希望者307世帯に市営住宅をあっせんするなど、移転促進を進めたため、「被災者連絡会」(会長・河村宗治郎さん)など住民団体は、継続入居を求める交渉・陳情を積み上げてきた。
継続を求める理由には、居住者の高齢化がある。入居時に60歳を超えていた人も多く、「6割が70才以上だろう」と河村さんは語る。「避難所や仮設住宅を転々とさせられ、ようやく落ち着き場所を見つけた。15年以上ここで暮らし、親しいご近所さんもできている。こんな老人に今さら宿替えは酷だ」と語る。
「20年契約」も一律ではない。吉山さんの契約書に、20年期限は書かれていないため、住民説明会でこの点を指摘すると、市の担当者は、2002年までの契約書には期限を書いていなかったことを認めた。これについて、座り込みの応援に駆けつけたあわはら富夫神戸市議は、「20年期限を知らせていないのは、行政の不作為。70才を超えた高齢者に、今さらどこへ行けと言うのか」と、神戸市を批判する。
矢田立郎神戸市長は、専門家らによる委員会を設け、高齢や障がいなどの条件付きでの契約延長を認める方針を示しているが、入居者たちは、「独り立ちできない入居者だけが残される」として、「希望者全員の継続入居」を求めている。
神戸市借上公営住宅入居者連絡協議会や兵庫県震災復興研究センターも、入居者の不安解消を優先すべきとして、「希望者全員の入居継続」を骨子とする請願書を、兵庫県と神戸市に提出している。当初、約7000戸あった借り上げ公営住宅は、「住み替え斡旋」等で、現在は5000戸を割っている。居住者の高齢化は進み、10年もすれば入居者は大幅に減るだろう。
そもそも日本は、欧州などと比べて公営住宅が圧倒的に少なく、居住権が守られていない。東北大震災の復興状態を見ても、住民生活の復興は後回しにされ、「誰のための復興か?」疑問だ。「平和的に老後を過ごしたい」|座り込み参加者の声だ。東北各地の仮設で暮らす高齢者とも重なる声だろう。
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