2013/3/5更新
プレカリアートユニオン書記長 清水直子
プレカリアートユニオンに、中小企業で働くトラックドライバーの加入が相次いでいる。去年11月、仲間と「田口運送・都流通商会支部(田口運送グループユニオン)」を結成したUさんは、十数年ドライバーとして働いているが、一時に比べて「給料が半分になった」という。ドライバーの多くは、ハンドルを握っていればある程度は稼げると思うからこそ、少々のことは我慢してきた。Uさんも、1日十数時間におよぶ重労働をこなし、困難な道路状況でも、プライドをかけて荷物を届けている。
この間、チェーン展開している飲食店、店舗などで、在庫管理の手間を運送業者に押しつけるようになったことから、運送業者は、極端な場合は1個という少ない量の荷物を、細かく指定された時間に、指定された場所に配送するよう求められるようになった。この負担は、現場のドライバーにしわ寄せされている。荷物の管理や荷下ろし・積み込み時の作業量が増える一方、運送会社の多くで賃金が引き下げられ、サービス残業(残業代不払い)がまん延しているため、労働時間は長くなるのに手取りの給料は減っている。
そんななかで、時間あたりの賃金が都道府県の最低賃金を下回る、という状況すら生まれている。例えば、1日14時間労働で1カ月26日働くと、月に約364時間労働になる。どんなに残業をしても月給30万円だとすると、時給824円!(東京都の最低賃金は時給850円)。この時給で、ドライバーとしての過酷な労働に従事していることになる。
ドライバーが商品事故の弁償をさせられることも、横行している。背景には、配送時間を細かく指定される上に、倉庫内での作業が増えて、余裕がなくなるなかで、どんなに気をつけていても商品を壊す事故が起きてしまうこと、その際、取引先が運送業者に(ひどいときは小売り価格での)弁償を強いること、などがある。
さらに、運送業者のなかには、経費削減だとして、損害保険から抜けてしまったり、そもそも加入しない会社も増えている。そして、「商品事故を起こしたのはドライバーの責任だ」として、代金を給料から天引きするのだ。数十万円の弁償をさせられているドライバーもいる。これでは、一体何のために働いているのかわからない。
もちろん、商品事故弁償金の天引きは違法だから、さかのぼって(労働債権の時効は2年)取り戻すことができる。まず、会社が、労働者に商品事故の代金を払ってほしければ、給料は給料として払った上で、それとは別に請求をしなければならない。
では、そもそも、商品事故の代金は、ドライバーが弁償しなければならないのか。ドライバーが故意に(わざと)、または重過失(飲酒運転や違法な薬物の使用など)によって商品事故を起こしたわけでもなく、通常の注意を払って起きた商品事故の損害は、企業活動によって利益を得ている企業が負うべきリスクだから、企業負担が原則だ。
ただし、支部ができた会社では、組合員からはこのような天引きは行われていない。労働組合に加入することで、相当な歯止めになるのだ。
政策的に円安が誘導され、ガソリン価格が上がっている。この負担も黙っていたら労働者につけ回されてしまう。立ち上がったUさんは、仲間たちにこう呼びかけている。―「眠い目をこすりこすり、昼ご飯もゆっくり食べれず、また、食べ逃がしたり、せっかく買ったパンをゴミ箱に捨てるあのくやしさ。きついきつい毎日の仕事の見返りをキッチリいただきましょう。さあ、やりましょう」
Uさんたち支部の仲間は、「払え、残業代!やめろ、弁償金の天引き!入ろうユニオン」と書いた支部の横断幕をどーんと広げて、交通量の多い道路脇でアピールをし、配送センターで組織拡大のチラシを入れたティッシュを配って、仲間集めのために奮闘している。
2月上旬、著書の『おしえて、ぼくらが持ってる働く権利』(合同出版)が、4刷になった。マンガとキャラクターの掛け合いで、働く上でのトラブル解決方法を説明した本だが、解説本とは一線を画し、労働組合で仲間と力を合わせて解決することのイメージを持てるよう工夫した。初版は、2008年3月、ワーキングプアの温床といわれた日雇い派遣で働く労働者によるユニオンが次々結成され、不当な天引きを取り戻す動きが盛り上がった頃だ。
そのとき、あとがきにこう書いた。―「きっと方法はある。仲間は必ずいる。あきらめないで。1本のロープを奪い合って、人をけ落として上まで上る競争をするより、人と協力して、今いる場所を生きやすく変えていくほうが楽しい。みんなで知恵と力を出しあって、生きていこう!」 労働組合では、そういうことができるところだ、とあらためて思っている。
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