2013/3/5更新
「参院選まで安全運転」との宣伝は、眉唾のようだ。安倍首相は、国家安全保障会議設置や憲法改正に言及し、原発再稼働・TPP参加も示唆する。アベノミクスがもて囃され、危険な暴走を予感させる。
2月16日、PLP会館(大阪市中央区)で「許すな!憲法改悪・市民運動交流集会」が行われた。 この日特別ゲストとして来日した金泳鎬さん(韓国・檀国大学硯座教授)は、東アジア情勢について「恨みの悪循環に陥りつつある」としたうえで、「『井の中の蛙大海を知らず』という言葉があるが、日本は、海の中の鯨でなければならない」と述べた。そのうえで、日本の指導者に対し、「@中国の覇権主義を止めるには、まず日本の歴史総括が不可欠、A歴史総括をすれば、アジアのリーダーとしての地位を確保できる」と提言した。
高田健さんの基調講演要旨を掲載する。同氏は、安倍内閣の改憲戦略について、@当面96条改憲を狙っている、Aその間も集団的自衛権の容認等の布石を打っている、B改憲阻止には、東アジア民衆連帯が重要との方針を示した。(文責・編集部)
許すな!憲法改悪・市民連絡会事務局 高田健
昨年末の総選挙は、民主党と自民党の「負け比べ」の選挙でした。投票率も史上最低で、前回よりも多い約1000万人(10%)が棄権をしました。この中で自民党が「大勝」しましたが、自民党は支持されたどころか、前回(2009年)選挙と比べても、比例区での得票は219万票も落としています。
選挙結果は、民主党の公約破りに対する「懲罰的投票行動」であって、自民党を多くの人が支持したわけではないのです。大きなテーマであった原発や憲法9条に関して言えば、世論は依然として、原発と9条改憲に反対の意思を示しています。
政権を手に入れた安倍首相は、前回の大失敗の総括を生かそうとしています。6年前、安倍総理は9条の改憲をめざし、教育基本法の改悪を行うなど大暴走して、1年間で倒れてしまいました。そのため、7月の参院選でなんとしても議席の3分の2を確保し、「96条改憲」を当面の目標としています。そのうえで、昨年4月に自民党が発表した新憲法草案に基づき、国防軍を創設し、戦争ができる国にたどり着く、という構想を立てています。
この自民党案は、現行憲法への全面的な対案となっています。ただし、現行憲法は全面変更は認めていないというのが、学説として多数派です。このため自民党は、全面改憲ではなく、テーマごとに改憲を積み重ねていく方法を採ろうとしています。
逐条改憲は、その都度国会で議決し、国民投票をやらねばなりませんが、常に3分の2を確保するのは非常に困難なので、96条は何としても変えておかねばならないのです。96条の改憲は、維新の党・みんなの党を含めて合意ができるので、衆院では十分に可能です。参院で3分の2を確保できれば、改憲に着手するでしょう。国民投票も、うまく宣伝すれば、国民を騙すことができるかも知れないと思っています。
それだけではありません。安倍総理は、直ちに9条が変わらない間にも、自衛隊が米軍と共に各地で戦争ができる体制作りを、同時に進めています。集団的自衛権に関する従来の憲法解釈を変えるために、「安全保障法制懇談会」を再び立ち上げ、答申を出させて、歴代内閣の憲法解釈を変える作業にも着手しています。
@96条改憲と、A集団的自衛権の憲法解釈変更、を同時に進めながら、ゴールは、自民党改憲案です。それは、@天皇を元首に戴き、A国防軍で戦争をする国、です。これには、B国家緊急権で人権を抑圧する内容も含まれています。
改憲は、国民投票で信任を問うことになるので、世論の動向は私たちにとっても重要ですが、震災便乗型改憲論と、領土など偏向したナショナリズムによる改憲論によって、世論が大きく揺らいでいます。
第1次安倍内閣当時の憲法世論調査では、9条改憲反対派が常に6割を超えていました。ところが、昨年辺りから変わってきています。昨年9月15日、毎日新聞の調査では、改憲賛成65%、反対27%、9条改正を56%が「必要」としています。集団的自衛権についても、「現状のまま」が51%に対し、「行使する」は43%です。「何があっても9条を守り抜く」という世論が、明らかに減ってきています。
集団的自衛権について鈴木内閣は、「保有しているが行使はできない」という憲法解釈を示し(1981年)、歴代内閣はこれを踏襲しています。野田内閣も同様です。「憲法9条と集団的自衛権は相容れない」との解釈です。
集団的自衛権の行使は、米国からの一貫した対日要求でした。この圧力がより強まっています。第3次アーミテージレポートでは、@日米両国は、中国の台頭と核武装した北朝鮮の脅威に直面していること、A日本は、この地域で2流国家に没落する危機にある、これに対して、B集団的自衛権の行使を念頭に、米軍と自衛隊の相互運用能力を高めるべきだ、としています。「アメリカだけに闘わせるな、自衛隊も共に闘え」との要求です。
安倍首相は、第1次安倍内閣時代に安保法制懇を立ち上げ、いわゆる4類型(注@)に沿って集団的自衛権行使を想定しましたが、第2次安倍内閣では、この範囲をさらに超え、グアム・テニアン防衛も含めようとしています。日本から遙か彼方のグアム・テニアン米軍基地への攻撃を日本への攻撃として捉えるというのですから、これはもう日米安保条約もなにもあったもんじゃありません。
この日米安保拡大の要にされているのが沖縄です。オスプレイ配備も、集団的自衛権の事実上の承認と拡大という議論と結びつけて、宣伝されています。石原慎太郎らの挑発に端を発した尖閣諸島国有化。そして中国がくり返し行っている挑発行動にどう対処するか、という議論のなかで、オスプレイ配備が正当化されています。
昨年9月末に、「ナショナリズムによる領土問題の悪循環を止めよう!」という市民アピールを出しました。これに対し、韓国・中国・台湾の市民・知識人が、1週間ほどの間に連帯アピールを発し、台湾でシンポジウムを開催しました。北京・沖縄・台湾の代表が集まり、日本側はスカイプで参加しました。
日本で市民アピールの記者会見を国会でやったのですが、テレビクルーも来て、かつてない大規模な記者会見となりました。ところが、日本の大手メディアの参加は皆無でした。韓国が5局、中国大陸が人民日報系含めて5局、台湾も5局くらいでした。一方日本のメディアは、「沖縄タイムス」と「週刊金曜日」の2つだけでした。
翌日、韓国はこのアピールを社説で取り上げました。中国も台湾もそうです。ところが日本の大手メディアは、この市民の動きを無視したのです。日本のメディアがこれを報道し始めたのは、産経新聞が最初でした。韓国紙の社説を逆輸入して、「日本の反日派の声明」が韓国で注目されている、という趣旨の記事でした。以降、日本のメディアも報道するようになりました。日本のマスメディアの劣化を物語るエピソードです。私が強調したいことは、こうした日本の市民の動きに韓国や中国や台湾の市民が直ちに呼応するような空気が、今の東アジアにできつつあることです。
最後に、今後の運動展開について述べます。尖閣諸島問題を利用して石原慎太郎がナショナリズムに火をつけたわけですが、危険なナショナリズムが再燃しています。マスメディアが批判的立場を全くとれていないなか、好戦的ナショナリズムが、集団的自衛権、憲法改悪の問題と結びつけられようとしています。
「中国軍艦が自衛隊をロックオンをした」というニュースが一斉に流され、大手メディアは、中国批判記事を掲載しています。一触即発の状況が語られ、ナショナリズムが煽られています。この延長で憲法問題が論じられれば、どうなるのか? 私たちは、戦術をしっかり考え直さざるをえないと考えています。
安倍内閣は、「秋の参院選まではおとなしくしている」と言われています。しかし実際は、おとなしいどころか、色んな問題で突っ走っています。選挙で勝てそうな問題、世論の支持を得られそうな問題について、どんどん突っ走っています。教育はその中の重要な問題のひとつです。大阪・桜宮高校の問題も利用しながら、教育の反動化を進めようとしています。ともかく安倍内閣の当面の明確な戦略は、《秋の参院選で勝利し、96条改憲を提案すること》です。
では、私たちは何ができるのでしょうか? 参院選に向け、護憲勢力の共同や、新党立ち上げも提案されています。ただし、国会内の状況は非常に厳しい。護憲を明確にしている、社民党、共産党の議席が圧倒的に少ないのです。昨年末の衆院選で社民党は敗北し、憲法審査委員を出せませんでした。50人の委員のうち、党として反対するのは共産党1人だけです。
しかし、私たちは諦めるわけにいかない。民主党の候補でも憲法改悪に反対する人がいれば、私たちなりに力を尽くす必要があるでしょう。公明党との関係も重要です。公明党・山口代表は、「憲法9条の改正につながるような96条の改正には賛成できない」と言っています。一見、96条改憲に反対しそうです。しかし、裏返して考えてみると、「9条改正に直接つながらなければ、96条の改憲に賛成である」と読めます。
安倍内閣が96条改憲を提案する際に、「9条改憲のための96条改憲」なんて言いません。「9条とは切り離し、民主主義のため、憲法を国民の手に取り戻すために96条を改憲しよう」と言うに決まっています。
ここは徹底して公明党を追及しないといけません。「公明党は9条改憲に加担するのか!」という市民運動も必要です。あらゆる手だてを尽くして、市民運動の柔軟さを活かして、こんどの参議院選挙で何としても安倍・自民党たちの3分の2を許さないという運動に今からでも力を尽くさなけれなりません。
足がかりにできるのは、民意です。原発や憲法の問題での世論調査は、安倍・自民党の主張を受け入れているわけではないことを示しています。この民意をどう活かすのか? です。沖縄では、オスプレイ配備に反対する運動が、全沖縄の意思になっています。本土でも、小さいながら市民運動が広がり始めています。3月11日前後には、原発事故2周年の取り組みがあります。3月20日は、イラク戦争から10年目です。5月には憲法記念日があります。こうした機会を捉えて、様々な市民運動と結びつき、憲法の問題を訴え、国会に反映させていくような運動を創っていかねばなりません。
もうひとつは、国際的連携です。国会と違い、市民運動は国際主義であるべきです。昨年、尖閣問題の際に日・中・韓・台の市民が、協同で声を上げました。中国でも、反日暴動・焼き討ちを批判し、「日本の市民運動と連帯して平和を作り上げるべきだ」と主張する市民運動が広がりつつあります。台湾にも韓国にも無論あります。こうした東アジア市民の連携を通じて、戦争に反対し、9条改憲に反対し、集団的自衛権の行使に反対する運動にこそ未来があります。
5月をめどに、東アジアの領土問題を考える国際的シンポジウム開催を予定しています。こうした動きを積み重ねて、石原慎太郎らの好戦主義者の動きを封じることができると思います。アジア民衆の連帯は、憲法問題でも重要で、一国主義ではなく国際的な観点で捉え、取り組みたいと思います。
安倍内閣はたいへんな勢いで、改憲に突き進んでいます。「憲法最大の危機だ」という人もいます。こういう運動をやると、いつも「危機だ」「正念場だ」と言い続けてきたように思います。でも、今度こそ本当の正念場です。
HOME┃社会┃原発問題┃反貧困┃編集一言┃政治┃海外┃情報┃投書┃コラム┃サイトについて┃リンク┃過去記事