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2013/1/28更新

戦闘続きのイスラエル

貧困が、息子を占領の最前線に立たせている

エルサレム在住  ガリコ 美恵子  

選挙のための空爆

昨年11月中旬、イスラエルは、またもやガザに化学兵器を使った空爆を行った。まず、ハマスのリーダーであるアフメッド・ジャブリ氏を、ミサイルで撃ち殺した。無人戦闘機が、ガザ上空からジャブリの乗る車に、狙いを定めて発射した瞬間の画像が、何度もテレビで流された。

シャブリ氏は、5年間ガザで拘束されていたイスラエル陸軍兵士ギラッド・シャリッドを解放した、いわばイスラエルと友好関係にあった人物である。

怒ったハマスはロケット弾で激しく反撃したが、ハマスの持っているのは、手製のへぼっちょいロケット弾だ。ほとんどがネゲブ砂漠の無人地帯に着弾した。イスラエル経 済の中心地であるテルアビブ方面にも数発飛んだが、建物に当たりそうな場合は、イスラエル軍が誇る最新対空ロケットで打ち落とされた。

対空ロケットがはずれて、周辺地域で2〜3名犠牲になった。エルサレム中心地にある首相官邸を標的にしたと思われるミサイルが発射され、2度ほど警報が鳴り響いたが、着弾したのはエルサレムとベツレヘムの間にある葡萄畑とオリーブ農園で、人的被害は皆無だった。

このガザ攻撃は、ネタニヤフ首相が年明けのイスラエル総選挙の票集めのためだったことは、周知の事実だ。

兵士の親として

イスラエル空軍戦闘機の整備士である娘のボーイフレンドは、休みなしで軍機の整備チェックに当たり、「しばらく基地に籠もりっきりだった」という。

エジプト政府の仲介で攻撃が停止され、娘に会いに来たので、『空爆で白りん弾を使用しているだろう』と私が責めると、驚いたことに「そんな危ないものは使用していないはずだ」と答えた。

彼が嘘をついているようには見えない。軍は、兵士たちに使用している化学兵器の中身を知らせていないのだろう。与えられた職務をこなし、担当以外の事は知らなくてよい、というのが常に軍の方針である。当初イスラエル軍は、空爆のみならず陸や海からも攻撃準備をしていたことも、明らかになっている。

亡くなった私の元夫には、別の女性(12年前に他界)との間に生まれた息子がいる。彼は現在、パラシュート部隊に所属している。

ガザ攻撃が始まった頃、彼からの音信が途絶えたため、私は心配で憂鬱な日々を過ごしていた。「どうかイスラエル軍が攻撃を早くやめますように」と、心の底で祈った。彼の携帯電話に、『不本意なことを命令されたら、嫌だとはっきり言って刑務所に行きなさい』とメッセージを送ったが、返事は来なかった。

停戦になって、息子は10日間の休暇をもらい、エルサレムに住む私と娘に会いに来た。

『返事くれなかったじゃない』と私が責めると、『眠る時間もないくらい忙しくて、いろんな人からメッセージが届いたけど、何も見てない』との返事。『何がそんなに忙しかったの?』と聞くと、『地図作ってた』という。

パラシュートでどこに着地し、どこに進軍するのか、地図を作って、ガザ侵攻命令への準備に追われていたという。「(作戦中は)ちょっとでも気を許せば死ぬ。命かけて毎日地図作ってた」というのだ。

可愛い義理の息子には人殺しになってもらいたくない、というのが心からの願いである。何度か、パラシュート部隊から除隊するよう説得したが、彼の気持ちは変わらなかった。

「戦闘部隊は、年々人員不足になっている。軍にとって、最前線に向かう戦闘員は貴重。僕は、実の両親とも亡くなって、自分の力で生きなければならない。任務は危ないけれど、兵役終了時に支給される金が、他の部隊より大きいので、辞めるわけにはいかない」と語った。切ない話である。

ネタニヤフ首相は、右派の絶対数が多いイスラエルの選挙で勝ち残るために、化学兵器を使用して、ガザで約130名の尊い命を奪った。この化学兵器で重度の火傷を負ったパレスチナ人は多い。ガザ攻撃に反対するデモが西岸地区各地で行われたが、デモ鎮圧を口実にして10名近くの若者を殺し、投石を理由に多くを刑務所に送った。イスラエルによる汚い暴力は「テロ」そのものであり、国際社会がこれを見逃すことは許されない。  

変革の兆し

新年早々の選挙に先立ち、政治改革を求める人々の間で、新しい政党が注目されている。物価、地価が賃金に見合わない高さで、しかも税金が高く、イスラエル庶民の生活は四苦八苦である。昨年、家賃、税金、物価の高さに反対するデモが毎週のように続き、テルアビブでは焼身自殺者もでた。イスラエル経済の変革が望まれている。

人気が高いのは、イスラエル経済の変革を主張する「アーレツ・ハダシャ」(新しいユダヤ人の国)という政党で、2年前に結成された。今回の選挙で議席を獲得するかは不明だが、人気と注目度は、確実に上がっている。「マリファナ合法化」を主張する「緑の葉っぱ党」も、若者に人気だ。麻薬の合法化はないだろうが、金銭的苦悩をかみ締め、占領する側の苦悩から解放されたいというイスラエルの若者の心理をよく表している。

総選挙で投票権をもつ国民の約20%はイスラム教徒、キリスト教徒のアラブ人である。ナザレ出身のアラブ系国会議員であるハニン・ゼアビ女史は、2008年にガザ救援のピースボートに乗って、イスラエル国籍者が入ることを法律で禁止されていたガザ地区に入った。

さらに彼女は、超左派であることがシオニズム国家であるイスラエルの国会議員として失格であるという理由で、国会議員資格を剥奪された。

女史は裁判を起こし、「人道主義の救援ボートでガザに入ったことは、違法ではない。また、民主主義国家であるイスラエルで、左派として活動することを理由にした議員資格剥奪は違法」との判決を勝ち取り、国会に戻った。

この判決は世間を騒がせた。イスラエルが民主主義国家であることを誇りに思うイスラエル人が多い。私は、シオニズムが民主主義のイデオロギーに負けたのだ、と解釈する。真実と民主主義を追求する一面を併せ持つイスラエルは、まだ希望の持てる国なのかもしれない。本当のことを口に出せない国民性の強い日本よりは、まだ希望の持てる国なのかもしれない、と思い始めている。

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