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2013/1/28更新

オランダ

極右退潮→中道連立政権誕生

ユーロ危機影響受け、予算削減 医療費・社会保障費カット

オランダ・ユトレヒト大学研究員 小淵 麻菜

2010年からのギリシャ危機で、EU諸国は大きなダメージを被っている。比較的安定した経済状況を保っていたオランダも、例外ではない。失業率は、6・8%(昨年10月)。特に若年層が深刻で、13・3%と中央統計局は発表した。オランダ労組による統計では、7月時点で、27歳までの若年層の4分の1が実質、就業できていないという。

EU諸国平均の若年層失業率は20%の高率だが、オランダでは、就職先がないために、いったん修士課程へ進学する学生も増加している。オランダ人学生が住居費や生活費のより低いベルギーの大学へ流れている状況も、明らかとなった。オランダの大学運営は国の負担が大きく、個人負担は年間1800ユーロ(約21万円)と非常に小さい。にもかかわらず、さらに学費が安く(年間600ユーロ=約6万8千円)、生活費も安いベルギーへ、オランダ人学生が流れている。ベルギー政府は、国家予算をオランダ人の学位取得に費やしており、オランダ政府を批難している。

国外移住も増加中である。これまでの国外移住は、暖かい天候や、よりよい住居環境が理由だったが、現在は、職を求めて中国やシンガポールなど、知的労働者の需要が高い地域への移住が目立つ。2012年初頭5カ月で、5万2千人が移住した。

10月1日に消費税率が19・5%から21%に上がって、家計支出が落ち込み、クリスマス月の12月さえ、家計引き締めが顕著となった。中央統計局によれば、耐久消費財は昨年比10%の下落、光熱費を削減するなど、経済危機の余波は家計にまで及んでいる。

小売業者の倒産も続いている。2012年の小売業倒産は650社におよび、人口1600万の国で週平均10社が倒産している。

平等な分配

9月の総選挙で、ルッテ氏を党首とする中道右派の自由民主党が勝利、サムソム氏を党首とする中道左派の労働党は第2党に躍進した。

一方、前内閣中3番目の議席数で影響力を誇ったウィルダーズ氏率いる極右政党=自由党は、ほぼ半減し、リベラルの「民主66」も失力した。

この結果は、オランダ国民が「中道路線への回帰」を強く望んだことを示している。10月の組閣では、上位2党の連立政権となり、首相はルッテ氏、副首相は労働党のアッシャー氏となった。新政府は、@財政の安定、A平等な分配、B持続可能な成長、を掲げ、4年で160億ユーロの予算削減を行う計画だ。

新政策は、政権内でも議会でも、ことごとく懸念・反論に遭う状況だが、新政府は、医療費対策と社会保障額のカットで予算削減を進める決意のようだ。

医療費については、収入に応じた健康保険料の改定案を示した。生活保護を受けている者の健康保険料は20ユーロ/月だが、年収7万ユーロ(約700万円)を超えた場合は、482ユーロ/月である。平均所得者(約3万3千ユーロ)の場合、これまでの平均100ユーロから140ユーロへ値上げされる。中間層の実質負担が大きくなる。

失業保険は、失業後1年は最終所得の70%が支給されるものの、翌年は最低賃金のみ、それ以降は、家族全体の所得と資産によって支給額が決まる。失業者はより厳しい状況に立たされる。

排外主義との闘い

数年前、極右が台頭したときに作られた「移民難民担当相」は、新政権で廃止されるようだが、移民政策は厳格化が続く。国籍取得条件である在住期間が5年から7年へと延長。生活保護受給には、オランダ語習得が課せられ、入国から7年間は、生活保護を受けられない。

外国人への社会的排除や差別も続いている。外国人の言語能力は大幅に向上し、高学歴者も増加しており、移民の第2世代はオランダ人との接触も多い。にもかかわらず、オランダ人は外国人との接触に消極的である。半数が「外国人と接触したことがない」と答えており、移民、特にイスラム系市民に対する嫌悪感がくすぶり続けている。

オランダの2012年は、「経済的なダメージは、欧州諸国に比べてさほど大きくない」と自らを無理矢理納得させながらも、確実に不況の波に脅かされ、一部はその渦中に巻き込まれた一年だったと言える。政治的には、新連立政権が発足したが、オランダ経済の更なる低迷悪化をくいとめる経済政策の模索に追われている。

また社会的には、極右政党の指導者ウィルダーズ氏の力の弱まりに伴い、移民政策は明ら様な排外主義が鳴りを潜めつつあるが、依然オランダ人と移民との溝は大きい。今年、オランダの諸問題はどの方向へ行くのか、見守りたい。(参考:旬のオランダ ニュースと乗法を届けます

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