2013/1/28更新
新年号は、福島の現実から「分断・孤立化」を越える智恵と実践を見ようとした。今号は、目を「世界」に移してみたい。超格差社会である米国は、分裂がますます進み、州単位で政策が異なる事態も起きている。その原因としての「確証バイアス」の指摘は、自らを振り返る視点としても重要だ。極右が政権入りしていたオランダは、選挙で中道への回帰を選択した。緊張激化が予想される中国では、政府やマスメディアから自立した市民相互の交流が提起された。各点から見える「世界」を共有したい。(編集部)
米・ノースキャロライナ州在住 植田恵子
アメリカで死語になりつつあるの言葉の一つが、《bipartisan》である。「超党派」と訳され、共和党と民主党が交渉・協議によって政策合意する際に使われる。だが、過去4年のオバマ政権下で《bipartisan》は全く機能せず、国民はそっぽを向いた。しかし、オバマの再選によって双方が歩み寄り、財政の壁折衝では、痛み分けでブッシュ減税期限切れは回避された。
代わってよく耳にするようになったのが、partisan(単独一党支配)である。昨年11月の選挙を見ると、協調姿勢を見せ始めた米議会とは逆に、赤い州(共和党)と青い州(民主党)の二極化が一気に進んだ。いずれかの党が州議会を支配する州が37州(共和党24州、民主党13州)。超多数派(super majority)といって、州知事も議会も青一色、もしくは赤一色という州も増えた。私の住むノースキャロライナ州もその一つで、赤一色の共和党支配になった。
オバマは今回の選挙で、2州(ノースキャロライナとインディアナ)を除き、前回と同じ州で勝利を収め、しかも僅差(5%以下)で勝利した州が大きく減った。1976年には、大統領選の票差20%以上の郡に住む住民は4人に1人だったが、今は半分以上となった。つまり、赤い州はさらに赤く、青い州はさらに青くなっていることがわかる。一党体制になれば、協議の余地はなくなり、支配党の政策がそのまま実施される。
そして州によって、関心が高い保険・税制・中絶・銃規制・教育・同姓結婚・環境問題・学校で進化論を教えるかどうかなど、政策が変わってくることが予想される。
保守の牙城である南部州では中絶禁止になるだろうし、ミシシッピーやアラバマ(赤)で同姓結婚が認められる日は来ないだろう。ニュートンの小学校襲撃事件後、カリフォルニア(青)では自動銃など攻撃用武器や弾薬の規制強化が提案され、住民たちが銃の買戻し運動を繰り広げた(不要な銃持って行くと、50jのスーパーの商品券と引き換えに引き取ってくれる)。一方、テネシーやミズーリー(赤)では、学校関係者の武装が提案され、ユタ州(赤)やテキサス州(赤)では、小学校教師が銃操作の訓練を受けた。
私は冬休みをコロラド(青)のオーロラで過ごしたのだが、オーロラは、昨年7月に映画館大量襲撃事件の悲劇を経験し、新年1月5日にも、大きな射殺事件が起きた。このため銃規制賛成派が多く、20人もの子どもが犠牲になったのに、「より多くの人が銃を装備すべきだ」という南部の意見に首をかしげる人が多い。
しかし、このような色分け分断が進むと、問題も起こってくる。国民が選挙をゼロサムゲームとして眺め、協調路線を捨てていくのではないか。選挙法・選挙区の改正を見ても、それぞれの州が2014年、16年の選挙を自党に有利な方向にもっていくための改正案になっている。こうなると、米議会が一国としての統一見解を持ち、一つの方向に向かって進む道を模索することが難しくなるのではないか、という点だろう。
二極化の疑問への答えを探すうちに、聞き慣れない「確証バイアス」(confirmation bias)という言葉に当たった。ある仮説を確かめる際に、自分が抱いた先入観や信念を肯定的に証明する情報を重視して追求するが、これに反するような情報は黙殺したりする傾向にある現象を表す心理学用語だ。
例えば、共和党支持者は、保守的な考えや信念を裏打ちしてくれる情報をくれるテレビ・ラジオを視聴し、保守系新聞を読み、保守の友だちと意気投合し、共和党への忠誠心を高める。それは民主党支持者もしかりである。
1960年代では、ニューステレビ局は3局程度で、偏見や適切さに欠けるニュースを流せば、法的規制を受け、放映権剥奪もあった。しかし現在は、ケーブル、ウェッブ、ネットなどあふれんばかの情報選択肢がある。見たくないものには蓋をし、理想とする信念をゆるぎな
い確信に変えてくれる情報を得ようとする。
しかし、それぞれを満足させてくれる一方的な報道に浸っていると、異なる意見を持った相手がまともな人間であるという認識さえ薄れ、人々は自分だけの、あるいは自分と同じ意見を持つ人たちだけの情報ゲットーに閉じこもってしまう。
州知事も議会多数派も保守党になってしまった我が州ノースキャロライナの将来を見てみたい。2010年の中間選挙で、共和党はティーパーティなどからの強力なバックアップもあり、州議会で多数派を獲得した。元々ノースキャロライナは、ビジネス中心で穏健な民主党支持者の多い都市部と、保守派の多い地方とがうまく折り合ってきたが、2010年以来、投票者ID法や同性結婚の禁止、厳格な移民法が導入され、様子が変わってきた。
今回の選挙では共和党知事が圧勝。州の要職8つのうち7つまでを共和党関係者が占めた。州都ローリーのそばには325エーカーの州所有地がある。これをニューヨークのセントラルパーク並みの市民の憩いの場にするか、ビジネス街にしてしまうか、意見が分かれるところだ。新知事は電力会社出身である。私たちの光熱費はどうなるのか。原子炉をまた作るのか。公共教育は? 通勤電車の開発は? 福祉は? 州予算は? 税金は?
保守党が支配する州に住む民主党支持者の私としては、聞きたいことがたくさんある。しかし、州や郡レベルでの政策や行動を中立の立場で監視し、報道してくれるメディアや機関が十分ではない。優秀な地方紙はあるのだが、この4年でスタッフは半分以上カットされ、長期にわたる取材、分析、報道ができるかどうか、危ぶまれるところだ。
ノースキャロライナは、僅か1・7%の票差でオバマが敗れた紫州である。一党独裁で決められては困る。市民も議会も対話(bipartisan)が必要である。
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