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2013/1/15更新

飯舘村/切花農家

帰りたいけど帰れない

飯舘村 高橋日出夫さん 

飯舘村で有機農業のリーダーとして営農してきた高橋日出夫さんは、その技術を生かして切り花農家だった。放射能汚染で全村避難となったが、移住は考えていない。村に帰る決意は固く、時期や条件を探っているが、「仲間とともに」との思いが強く、汚染された土地で有機農業が可能なのか?全く目処が立たない現実と向き合っている。

「除染の効果は期待薄だが、今手厚い補償をもらっても、切れたら終わり。飯舘村は平成の姥捨て山になる」と恐れている。農のおもしろさを顔を輝かせて語り、「生きるには達成感が大事」と語る高橋さんは、「まじめに除染して、元の生活に戻して欲しい」「これくらいで我慢して、は許さない」と言い切った。(編集部・山田)

信頼できない政府の除染

飯舘村では昨年7月から試験的除染が始まり、11月に本格除染が始まりました。しかし、仮置き場が確保できず、遅々として進んでいません。政府は、「2014年までに帰村してもらう」と言っていますが、山林を含む地域全体を除染しないと効果がないことは、試験結果を見ても明らかなので、村民は信じていません。

▲インタビュー中、頭を抱え込む場面もあった

除染の目標値そのものもゆるくて「5_Sv/年以下」です。これは放射線管理区域に指定される線量で、子どもや女性は帰れないことが前提のような目標値です。

村民は除染に懐疑的ですし、効果が期待できない除染作業に税金を使うことにも疑問を持っていますが、「早く帰りたい」と望んでいるお年寄りはたくさんいます。狭い仮設住宅でテレビを観て過ごすことに、堪えられなくなっているのです。

私も早く村に帰りたいのですが、政府が行う除染には、不信感が強まっています。私は切り花農家ですから、口に入るものではないし、ビニールハウスの栽培なので、土もほとんど汚染されませんでした。

でも、食品を作っていた仲間の有機農家は、営農再開を諦めざるを得ません。私だけ帰って営農を再開するわけにはいきません。私が再開すれば、悪例になって、「農業を再開した人がいるのだから、早く帰村しなさい」という圧力に加担することになります。政府の思うつぼになってしまい、仲間たちは、作っても売れない野菜や米を作らざるを得なくなるのです。

私の地区では、若い農家も育っていました。8戸の有機農家のうち6戸に後継者がいましたが、ほとんどの若者は、県外に移住しました。私の息子は、福島市でスクールバスの助手をやっていますが、有機農業ができないのははっきりしていますので、迷っているようです。多くの村民が「戻りたいけど戻れない」という気持ちで揺れています。

帰村の道は遥か遠く、避難生活を続けざるを得ないのが現状です。昨年4月から、全村見守り隊としてアルバイトしています。全村見守り隊は、総勢400人が3交替で20行政区をパトロールしています。

村は、人がいなくなって、猪・猿・鹿が激増しています。私たちの地域には猪も猿もいなかったのですが、猿が40匹くらいの集団を作り、柿・キウイなどを食べ荒らしています。猪も大繁殖しています。村は、野生の王国化しています。

補償問題

今は、月10万円の生活補償と不耕作地への補償があって、何とか暮らせていますが、補償が切れた途端に、路頭に迷います。今手厚い補償をもらっても、切れたら終わりです。それよりも、「農業ができる暮らしを取り戻したい」が、心からの願いです。

若い人が帰れる環境にならなければ、飯舘村は「平成の姥捨て山になる」と村民は噂しています。子どもたちの甲状腺癌は、数年後から発症し始めると言われています。そうした事実が明らかになると、ますます若い人たちは、出ていくことになります。

 福島医大副学長の山下俊一教授は、「笑っていれば放射能は逃げていく」と講演した人物です。こういう専門家に子どもたちの健康管理を任すことなんて、とてもできません。恐ろしいことです。

 農のおもしろさ

農業は、売上げから経費を引いていくら残るのかを計算すると辛い気分になりますが、お金のことさえ考えなければ、とても楽しい暮らし方です。

農業は、作付け計画から始まります。畑一杯に並んだブロッコリー、ハウスに群生するトルコキキョウをイメージし、種を植え、育てるのですが、手を抜いたり災害があると、はっきり結果が出ます。

毎日作物の様子が変わるので、朝、畑に行って作物を見るのが楽しみです。ビニールハウスだと、朝、戸を開けると、微生物たちの呼吸が香ってきます。この匂いで、どんな微生物がどれくらい繁殖しているのかわかるのです。

山の赤土に米ぬかや糖分と菌を入れて切り返すと、発酵して60度位まで温度が上がります。白い胞子が表面を覆い、微生物が増えていることが目で確認できるのです。これを畑に撒くと、土がサクサクになります。野菜でも果物でも甘くおいしくなります。できた作物を仲間に食べてもらって、成果を誇るのです。

 作業を終えて、きれいな夕日を眺めながらオカリナを吹いていると、「世の中は銭金ではないなー」と思える瞬間がたくさんありました。楽しい記憶です。

息子たちが暮せる環境に戻せ

私は、自分の力で作物を作って、暮らしていきたいだけです。生きるには達成感が大事です。今は、賠償金とアルバイトで生活できるカネはあります。でも、生きているという実感がないのです。

政府や東電に求めることは、「まじめに除染して、元の生活に戻して欲しい」「除線作業はやりました」というアリバイではなく、あたりまえに生活できるレベルまで線量を下げて、息子たちも帰って子育てができる環境を戻して欲しい。それだけです。「これくらいで我慢してください」というのは許しません。

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