2012/12/20更新
沖縄 富田 英司
沖縄では、「日米地位協定」問題が新聞・テレビ等のマスコミによく取り上げられるようになった。米兵が事件・事故を頻繁に起こすからだ。加害者である米兵は「日米地位協定」によって守られ、逮捕されることもまれである。被害者は「日米地位協定」の壁によって、泣き寝入りするしかない。
11月3日の琉球新報は「沖縄はもはや無法地帯だ―空には頻繁に墜落している欠陥機・オスプレイが飛び交い、外を歩けば米兵に性的暴行を受け、自宅で眠っていても米兵に襲われる世界はどう考えても正常ではない」という社説を載せた。
読谷村の米兵事件の概要を確認してみよう。
11月2日午前1時、嘉手納基地所属の米空軍兵(24)が、読谷村の居酒屋で酒に酔って暴れ、同じ建物の3階住居に侵入し、眠っていた中学2年の男子を殴ってケガをさせ、部屋の中をメチャクチャに破壊した。暴れた後、アパート3階から転落して大怪我を負った米兵は、救急車で米海軍病院に搬送された。
米海軍兵による集団女性暴行致傷事件から17日後の事件であり、午後11時から翌午前5時まで《深夜外出禁止令》が出ている中での犯罪だった。相次ぐ凶悪犯罪に対して、県民は「外出禁止令の意味がない」「米軍司令部は綱紀粛正と言うが、いつもこのとおりだ」と憤慨している。
さらに県民を怒らせたのが、藤村官房長官の発言だ。同氏は、「起訴前の身柄引き渡しを要請する必要はない」と発言し、地位協定への波及を抑えようとしたのだ。
ここでも「日米地位協定」が登場してくる。日米地位協定17条5項(C)では、容疑者の身柄が米側の手中にある場合、米軍当局は起訴前まで身柄引き渡しを拒否できる。
殺人や強姦などの凶悪犯罪に限って、米側が「好意的配慮」で起訴前の引き渡しが可能となる運用改善が1995年に合意された。しかし、運用改善による身柄引き渡しは、これまで2件しかない。
藤村官房長官の発言を聞いた被害少年の親は、「ふざけないでほしい。こんな子どもを殴っておいて、犯罪の大小で区別されるのは変な話だ」「日本人と同じような処分をしてほしい」と、憤慨している。
案の定、5日沖縄県警は、この兵士を容疑者として断定したが、米軍の監視下にあること、起訴前の身柄引き渡しを求める「凶悪事件」に「該当しない」と判断し、兵士の引き渡しを求めない方針を決めた。
起訴前身柄引き渡しが議論になるのは、警察が容疑者を特定した時点で、米兵が基地内にいる場合だ。身柄引き渡しを要求しても米軍に拒否されるので、米兵は事件・事故を起こした場合、基地に逃げ込む。基地外にいる容疑者を発見して逮捕すれば、起訴前身柄引き渡しの対象にはならない。米海軍兵2人が逮捕された集団女性暴行致傷事件の場合が、それに該当する。
ところが、今回の暴力事件の米兵は怪我をしたので、人道的な観点から基地内の米海軍病院に搬送された。負傷していなければ、その場で警察官に逮捕されていたはずだ。基地内の米海軍病院に搬送された米兵は、退院後に嘉手納基地内に移送された。基地内に移送されたことも問題だが、米兵の退院後、県警は身柄引き渡しを要求すべきだろう。
県警が身柄引き渡しを要求しない方針を決めたことに対し、多くの県民から「夜中に人の家に入り、人を殴るのは凶悪・重大事件だ」「県警まで私たちの財産、命を守らないのか」等々、批判の声が上がっている。
本土の基地でも米兵による事件・事故が起こるが、米軍専用基地の74%が集中し、在日米軍兵士の70%が駐留(特に事件・事故をよく起こす海兵隊の87%が沖縄駐留)する沖縄では、米兵の事件・事故の件数が圧倒的に多い。
この「日米地位協定」は、「治外法権」(米軍の無法地帯)そのものだと言える。占領時代から「日米地位協定」時代へと続く米軍駐留67年間に、多くの沖縄県民が怒り、泣いてきた歴史がある。そのことを政府関係者は知っているのか?
多くの県民は、@欠陥機・オスプレイの強行配備、A相次ぐ米兵の凶悪事件の発生、Bそれでも「日米地位協定」の抜本改定に背を向ける日本政府(前の自民党、および今の民主党)の対応を見て、もう「基地の全面撤去運動」しかないと決意し、抗議行動を続けている。
●11月22日/うるま市天願の市軍用地等地主会会館の敷地内に無断で侵入したとして、うるま署は、在沖米海兵隊キャンプ・コートニー所属の1等兵(20)を緊急逮捕。
●11月30日/沖縄県警が、米海兵隊基地・牧港補給地区(キャンプキンザー)所属の2等軍曹(35)を道交法違反の疑いで現行犯逮捕した。午後7時ごろ、沖縄県北中城村の県道で酒気帯び状態で車を運転し、計4台の玉突き事故を起こしたもの。
●12月6日/在日米軍のアンジェレラ司令官(空軍中将)が東京都内で記者会見。「米国籍、日本国籍の国民が平等に扱われるので、日米地位協定の改定は必要ない」と表明。
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