人民新聞オンライン

タイトル 人民新聞ロゴ 最新版 1部150円 購読料半年間3,000円 郵便振替口座 00950-4-88555┃購読申込・問合せはこちらまで┃人民新聞社┃TEL (06) 6572-9440 FAX (06) 6572-9441┃Mailto:people★jimmin.com (★をアットマークに)
HOME社会原発問題反貧困編集一言政治海外情報投書コラムサイトについてリンク過去記事

2012/12/14更新

日弁連シンポ

「99%を貧困にする政治 〜生活保護基準引下げで人々の暮らしは良くなるのか?」

清水直子(ライター)  

年末の予算編成に向け、生活保護基準引き下げの動きが本格化していたが、12月16日に解散・総選挙が行われることが決まり、結論を先送りしたまま年を越すことになった。

生活保護を手始めに医療や社会保障費全般の削減に踏み込みたい財務省の思惑は変わらず、生活保護バッシングを背景に生活保護の削減を掲げる政党が勢力を伸ばしている。

しかし、生活保護を叩くことで、日本が抱える問題を解決することができるのか?そんな疑問に応える、「99%を貧困にする政治〜生活保護基準引き下げで人々の暮らしは良くなるのか?」というシンポジウムが、11月6日、東京・星陵会館で行われた。主催は、日本弁護士連合会。

大阪市立大学教授(社会保障法専攻)・木下秀雄さんの報告や、生活保護利用当時者からの発言があった。ここでは、精神科医・和田秀樹さんによる「生活保護を叩いて得をするのは誰か」と題した講演を紹介する。内容は、生活保護バッシングが何をもたらすかを端的に分析したものだ。(筆者)

受給者の生きる力と自由を奪う生活保護切り下げ

和田さんは、9月に出版した著書『テレビの金持ち目線─「生活保護」を叩いて得をするのは誰か』(ベスト新書)で、生活保護バッシングに一石を投じた。受験勉強法の指導などでも知られる人だが、なぜ生活保護について発言するようになったのか。

講演で和田さんは、「私は愛国者だから、生活保護を守らなければならない、と思う。日本が外国にバカにされる国になってはいけない。中国や韓国に負けてはいけないと思っているから、この制度を守らなければならないと思っている」という。

「私自身は、競争は悪いことではない、と思っている。ただし、マラソンがいい例だが、前の人の背中が見えなくなると、後ろの人がまともに走らなくなってしまう。あまり格差が大きくなったり、敗者復活のシステムが用意されていないと、競争に参加する人が少なくなって、国全体の活力を落としてしまうしまう」として、健全な競争社会を維持するためにも生活保護は必要、という立場だ。

バッシングで「自殺幇助」するマスコミ

さらに、精神科医として、一番気になるのは自殺だという。

「日本では、1998年から14年間、自殺者が3万人を超していて、40歳前後まで自殺が死因のトップ。生活保護基準が引き下げられるとか、生活保護を受けることへのバッシングが続くのは、危険だ。

うつ病は、落ち込む病気でもあるが、罪悪感を感じる病気でもある。うつ病によって、自分は人に迷惑をかけているのではないか、自分が世の中の邪魔なのではないか、と思ってしまう。今のマスコミがやっているのは自殺幇助。私は、精神科医としてそれを許すわけにはいかない」。

生保拡充は、金持ちに金を回すより有効な経済効果

和田さんは、生活保護叩きや生活保護引き下げによって、治安の悪化、平均寿命の低下、健康レベルの悪化、消費不況の悪化、教育レベルの低下、格差社会の固定化、餓死が起きると指摘する。

消費不況の悪化については、次のように指摘する。「今の不景気の一番大きな理由は、労働分配率が間違っていること。日本は金持ちがケチなので、金持ちに金を渡しても景気がよくならない。その証拠が1999年の金持ち減税だ。このとき、年収3000万円以上の人の最高税率が、65%から50%に下がった。年収1億円の人は、年間1500万円税金が安くなった。月125万円の金持ち手当だ。当時の自民党は、金持ちに金を回せば景気がよくなると説明した。

ところが、金持ちに金を回しても、貯金にまわるだけだった。預金通帳の桁の数が増えることに喜びを感じているような人に金を持たせても、ろくなことはない。ケインズもいうように、消費性向は貧しい人ほど高いのだから、貧しい人に金をまいた方がよほど景気はよくなる」。

「生活保護は、非常に有効な公共事業だ。例えば、公共事業で10兆円の道路工事をして雇用を生もうとしても(土建屋などに金が落ちるため)末端の労働者に流れるのは2兆円程度。うち1兆円程度は、貯金にまわるかもしれない。生活保護は、ほぼそのまま消費にまわる。消費を増やすために公共事業をやるなら、生活保護が一番効率がよい」。

利権を生じやすく、経済効果が限られてしまう土建関連の公共事業よりはるかに生活保護の経済効果は有効、という指摘だ。

だが、ここへきて自民党の生活保護プロジェクトチーム(世耕弘成座長)が11月19日にまとめた生活保護法改正案には、食費などについて、自治体が現金給付か現物給付かを選択できる制度の導入が盛り込まれている。現金で給付される保護費を搾取する貧困ビジネスの存在を理由にしているが、結局、生活保護利用者の経済的自由をさらに制限し、生きる力を削いだ上で、新たな利権を作ることになるのではないか。

活保護は懲役や禁固刑ではない

講演で和田さんも「生活保護を現物支給しよう、という人がいるが、生活保護を受けている家族が、たまの娯楽やレクリエーションのためにディズニーランドに行くのがいけないのか。生活保護を受けているくせにディズニーランドに行くな、カラオケに行くな、という人がいるが、精神的健康のためにお金を使えないというのは、人間を奴隷か家畜と思っているということだ。食べられて、寝るところがあればいい、というのは、懲役、禁固刑と同じ。たまには娯楽を楽しんで、精神的健康を損なわないようにするのが生活保護の理念だと思う」と語っていた。

また、「生活保護を受給している人が、保護費をもらうとすぐに酒を買ったりパチンコに行くと批判するけれど、食べるのがやっとの状態で酒を買うとかパチンコをするというのは依存症だから。治療が必要な人を叩いてどうするのか」とした上で、アルコール類やパチンコの

大量のテレビコマーシャルが依存症を作っている、と批判。多額の広告料に支えられて高給を得ているテレビ局の社員が、生活保護費で酒を買った、パチンコをしたと叩くという構造を重ねて批判した。

和田さんは、福祉や互助、治安対策以外にも、生活保護の積極的意義として、公共投資、安全保障、国のブランド力維持(による日本製品の価格維持効果)、生活を下支えすることによる新産業育成・文化育成などを挙げる。さらに、「累進課税が厳しい方が国は活性化する」として、高所得者の税率を高くする一方で、経費は柔軟に認めるようにすれば、消費が喚起され、世の中にお金がまわるようになる、と説く。

生活保護バッシングは、一体なんだったのか。生活保護切り下げをきっかけに、各政党が何をしようとしているのか。総選挙を前に、改めて考えたい。

HOME社会原発問題反貧困編集一言政治海外情報投書コラムサイトについてリンク過去記事

人民新聞社 本社 〒552-0023 大阪市港区港晴3-3-18 2F
TEL (06) 6572-9440 FAX (06) 6572-9441 Mailto:people★jimmin.com (★をアットマークに)
Copyright Jimmin Shimbun. All Rights Reserved.