2012/12/14更新
須田友美さん(仮名)は、大阪市内在住の小学生の子どもを持つ母親だ。震災廃棄物の広域処理のずさんさに疑問を感じ、大阪府の「災害廃棄物の処理指針に係る検討会議」傍聴や申し入れ行動、署名活動などに取り組んできた。行政交渉を繰り返したが、「『安全』しか言わない行政相手ではラチがあかない」と感じている。現在は学習会や署名活動など、市民へのアピールに力を入れているという須田さんに、話を聞いた。 (編集部一ノ瀬)
──がれきの広域処理は、「被災地の早期復興支援」と説明されています。また、がれき焼却反対の声には、「地域エゴ」という批判もあります。
須田…まず、広域処理は被災地支援にはなりません。原発事故の被災者支援の原則として、@放射能被曝がこれ以上進まないようにする、A限られた予算・物資を、できるだけ被災者支援に集中する、ということが求められています。しかし、いま進められようとしているがれき広域処理は、こうした原則とはまったく逆の方向のものです。
確かに、膨大ながれきの山の写真や映像を見ると、「早く何とかしなければ」と の気持ちになります。しかし、政府計画によると、広域処理に回されるがれきは現在、401万dから136万dに減っています。これはがれき全体の10%程度です。たとえ広域処理分が今すぐなくなったとしても、まだがれきの約90%が残されるわけです。これを全国で大金をかけて燃やして埋めても、被災地にはお金は落ちず、大した片付けにはなりません。
また、受け入れ自治体が得る補助金なども、被災者のために使われるべきものです。
陸前高田市長が「被災地で放射能に特化したプラントを作って被災地で処理すれば、大阪で処理するより10倍早く処理できるので、そうさせてほしい」と、雇用や復興に直結する提言をされています。現地では、がれき処理を兼ねた防潮堤など、燃やさずにより安全に処理する代替案がいろいろ出ていますが、環境省は無視して、広域処理ばかりを進めています。そうし た意見が取り上げられないのは、不思議です。
須田…福島原発事故はまだ収束していません。放射能放出は今も続いているわけです。私たちはまず、「人類が遭遇したことのない放射能汚染が起こった」こと、その影響は未知であることを、しっかりと認識することが必要です。
また、多くの方が被災地に留まりながらも、少しでも放射能を避けるために、西日本の野菜を取り寄せたり、夏休みなどの長期休みの時期に子どもを西日本の保養キャンプに参加させたりと、いろんな努力をされています。放射能がれきを全国に拡散させれば、かろうじて汚染を逃れた保養・移住先をも人為的に汚染し、被災者の選択肢をさらに狭めます。
また、放射能がれきを全国に拡散させれば、被災地での有害物質の焼却や埋め立ても野放しになり、被災者をさらなる危険にさらしてしまいます。
──反対の声を押し切って、がれき試験焼却が終わりましたが…。
須田…がれきには放射性物質だけでなく、アスベストや多くの有害物質が含まれています。このことは、テレビで細 野大臣も認めています。がれきの焼却処分は、こういった有害物質が気化したり、焼却灰に濃縮して住民の健康を脅かす懸念があり、被災地でも他府県でも安易にしてはいけないことです。安全性への確信がないまま、大阪で試験焼却が急がれたことは、本当に残念です。
須田…大阪府・市は、「科学的知見に基づいた基準を定め、安全なものしか受け入れない」「放射線量については、がれきを積み込む岩手県宮古現地と、積み込み・荷揚げ、積み替え時の4回にわたって測定して安全を確認する」と言っています。
ところが、放射能の測定方法には、ごまかしがあります。大阪市は1度だけがれきそのもののベクレル濃度を少量のサンプル検査で測りますが、あとは空間線量のみの測定です。
しかし、空間線量では、がれきそのものに含まれた放射能の総量は分かりません。「空間線量が基準値以内だから安全」というのは、大阪市の大ウソなのです。
大阪市のスケジュール通りに進めば、来年2月には本格焼却に入ります。2014年3月までに、3万6000dを処理する計画になっています。そして問題は、放射性物質だけにとどまりません。大阪府ががれきを積み替え施設で測定したところ、平均1g あたりの空気中から1・8本のアスベスト繊維が検出されています。これは、受け入れ前(0・45本)の4倍の数値です。こうした場合、精密検査の必要があるのですが、府は無責任にも「安全宣言」をし、市は焼却を強行したのです。
また、環境省大気汚染物質広域監視システム「そらまめ君」の測定結果を見ると、試験焼却の時間に合わせて有害物質PM2・5(注…ディーゼル排気微粒子など、直径が2・5μm以下の超微粒子。肺の奥深くまで入りやすく、健康への影響が大きいと考えられている)の値が急上昇しています。焼却が終わると元のレベルに戻っていますから、試験焼却の影響であると考えて良いと思います。
──東京都や北九州市では、本焼却が始まっています。
須田…がれきの本焼却が始まった周辺の住民から、健康被害の訴えが出始めています。症状は様々で、発熱や目・喉の痛み、じんましん、下痢、倦怠感、胸の痛み、通常では見られにくい、大量でドロッとした鼻血などが報告されています。こうした健康被害は、問題視されていませんが、過小評価されるべきではありません。「がれき焼却が原因」だと断言はできませんが、原因が説明されていないのです。
──安全性についての説明は、ウソが多いわけですね。
須田…昨年8月、東日本大震災に対処するため、2つの特別措置法が作られました。@災害廃棄物処理特措法と、A放射性物質汚染対策特措法です。この2つの法律が、放射能がれき処理に関する法的な根拠になっています。
廃棄物(ごみ)処理は、市町村の自治事務です。府県や国は、それについて口出しはできない原則です。@は、それを都道府県や国が市町村に口出しできるようにする目的があります。これによって、放射能がれきを全国に強制し、焼却できるようにしたわけです。住民の意思に反することは強制できない、という憲法や地方自治法に違反している問題があります。Aでは、放射能の焼却や埋め立ての基準を大幅に緩和しました。
原発事故や放射能がれき処理の責任を税金で処理し、健康被害があっても住民に押し付ける内容になっています。これらの安全の根拠について、ほとんど議論らしい議論がされたことはありません。すべてが「安全」という名のブラックボックスの中で、中味が一切知らされていない状態なのです。国や行政が、震災後の混乱に乗じて、こうした市民の命と健康に関わる大切な事柄を、一方的にルーズにしてしまったことは、大変なことだと思います。
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