2012/12/14更新
里井直美さん(仮名)は、町田市(東京)から大阪へ避難してきた。福島原発事故を伝えるTV画面に、生中継ではなく「資料映像」が出ているのを見て、「とんでもない事故が起こっている」と直感したという。
1年ほど大阪市内のマンスリーマンションで、親子で仮住まいをしていた里井さん。今年9月にやっと大阪市此花区に落ち着き先を見つけて転居。ところが、橋下市長が放射能がれき処理を決定。放射能から逃れてきたはずが、目と鼻の先で、放射能がれきの荷揚げ・焼却(舞洲工場)・埋め立て(北港処分場)がおこなわれることになってしまった。「橋下市長は、まず第一に住民を守る行動をして欲しい」と語る里井さんに、話を聞いた。(編集部一ノ瀬)
──大阪への避難を決めた経過を聞かせてください。
里井…地震の時は、自宅の揺れはかなりひどかったのですが、壊れることはありませんでした。そのうち福島原発事故がテレビで報道され始めましたが、福島原発が映った画面には「資料映像」とありました。「どうして生中継の映像が流れないの?」と不思議に思いましたが、すぐに「とんでもない事故が起こっている」と直感しました。それからは一歩も外に出ずに、原子力資料情報室など、ネットで情報を集めました。
13日には、東電が「計画停電を実施する」と発表しました。「原発がないと電力は足りなくなるぞ」という見せしめです。「そんな卑怯な脅しは許せない」と思いました。
息子や娘も交えて、どうするか話し合いました。そして14日には、私が関西生まれであることもあり、大阪への避難を決め、トランクに身の回りのものだけを詰め込んで、15日に大阪に避難。とりあえずマンスリーマンションを借りました。此花区に引っ越したのが、今年の9月です。
娘は恋人が東京に残っていたため、大阪との行ったり来たりの生活を続けましたが、昨年結婚し、東京に戻りました。
──そこにがれき焼却の話が飛び込んできたわけですね。
里井…がれき処理の話を聞いた時は、大ショックでした。大阪市は、どうしてこんなことするんだろう、って…。福島のお母さん方ががれき処理で放射能被害が広がらないように、「大阪を守ってください」と声を上げておられますが、私も本当にそう思います。
──東京の娘さんは、被ばくについて何か言っておられますか?
里井…3・11後に出産したこともあり、被ばくについてはたいへん気を使っています。水・食料は、鹿児島から取り寄せていますし、外食をしないようにしています。家族が仕事で遅くなる時は、お弁当を2食分作って持たせているそうです。
私が、娘の出産の手伝いで町田に戻った時に、ゆっくり話をしました。ところが彼女は、そうした話になると、窓を閉めるのです。ご近所では被ばくや放射能の話題はタブーだから、聞かれたくないんだそうです。
被ばくに気を遣いながらの子育ては、大変です。娘の家族みんなが揃って、被ばくを避けながら何とか元気で暮らして欲しいです。
──町田の様子はどうでしたか?
里井…震災前と変わらずに普通に暮らしていること、それが一番印象的でした。友人・知人には、私が避難する話を伝えられないままに出てきました。「避難するお金がある人はいいわねー」とか言われたり、「自分だけ逃げてきた」 という罪悪感に苦しんだり、いろいろ辛い目にも遭いました。
町田で被ばくや放射能の話をしても、反応は良くありません。みんな内心では心配していると思うのですが…。「こんな話をする私が変なのかな?」「被ばくのことを考えなければ、ここで今まで通り生活できるんだ」という考えも頭に浮かんだほどです。
町田に帰ったのは、昨年10月中旬から1カ月ほどでした。私は気付かなかったのですが、町田市が11月1日からがれきの本焼却を始めていたのです。後で確認すると、来年3月までの間、毎日5〜8dのがれきを焼却しているそうです。滞在中、私は手にしこりが出たり、右目が充血したり、風邪でもないのに鼻水が出たりしました。がれき焼却の影響ではないか、と心配しています。
──がれき処理を決めた橋下市長に訴えたいことは?
里井…何より、住民を守ることを第一に考えて行動して欲しいです。来年2月から、毎日100dのがれきを14カ月間燃やし続ける、というのですから、桁外れの量です。
11月19日、難波・高島屋前で「日本維新の会」の街頭演説会があったので、がれき焼却に反対する手作りのプラカードを持って、抗議に行きました。ですが、橋下市長は私たちの抗議を利用して、「大阪は大阪だけで成り立ってるんじゃない」「いつからこんな勝手な国民が増えたのか」「がれきは受け入れる」と叫んでいました。
聴衆から大きな拍手と声援が起こっていました。ですが、私の見たところ、半数の人は、冷静に橋下市長の話を聞いていたと思います。
橋下市長を見ていると、がれき処理は自分の立場を守るためにやっているように見えます。これ以上、被ばくで苦しむ人が増えて欲しくはありません。
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