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2012/11/30更新

アメリカ大統領選

分裂する米社会―オバマ再選の構図

ノースキャロライナ州在住 植田 恵子

オバマ氏再選が決まった米大統領選。ノースキャロライナ州在住の植田恵子さん(大学教師)に、緊急レポートをお願いした。日本では「僅差」と報道されたが、2週間前にオバマの当確が出ていたという。ウォール街占拠(左派)・ティーパーティ(右派)などの市民運動が政治運動化。「ウォール街は、オバマからロムニーに乗り換えた」との情報も流れたが、あっさりオバマの勝利が決まった。というより共和党・ロムニーが惨敗した、と観た方が良さそうだ。

世界の覇者としてのヘゲモニーが揺らぎ、多数の貧者と一部の大富豪に分裂するアメリカは、今後どうなるのか?選挙戦の検証を通して分析していただいた。「今後共和党がどう反撃してくるか?二大政党制も揺らぎ始めた」と感じる植田さんは、「政治っておもしろい」と結んでいる。(編集部)

  度し難い共和党・ロムニー候補の反人民性

Citizens United(企業献金無制限化法)が合法化されて初の大統領選は、年頭から、テレビをつけても、コンピューターを開けても、ロムニーとオバマの広告のオンパレードだった。11月6日午後11時13分、激戦地フロリダ州の最終開票を待たず、あっけないほどの早さと大差でオバマの再選が決まった。2008年の選挙は、オバマという初の黒人大統領候補、ウォール街株価大暴落に続く不況、戦争への嫌悪感、マイノリティや若者の政治参加など、CHANGE(変化を!)に相応しい大きなうねりがあった。

しかし、あれから4年、どん底を這う不況の中で、目立った景気回復の兆しは見られず、8%近い失業率も変わらなかった。低迷と失業を克服できなかった大統領が再選された例は、まずない。ロムニーは、国民に繰り返し問いかけた。「4年前と比べて、あなたの生活はよくなったのか?|と。しかし、米国民はオバマを選んだ。ウォール街、銀行、大企業、富裕層からの上限なき政治献金を受けながら、ロムニーは敗れ去った。明暗を分けたものは何だったのだろう。

子どもに「共和党と民主党の違いは何か」と聞かれた母親が答えた。「共和党は自分の利益を守る党で、民主党は貧乏人を守る党だ」と。実に明快な答えだ。共和党とは、政府の介入や規制を嫌い、宗教的信条、個人の自己責任を重んじ、人種、階級、性的役割の固定化した、現状維持型社会を望む保守派である。共和党の敗北を見る時、社会の変化、科学、国民のニーズに逆行するような政策や言動が目に付いた。

例えば議会である。オバマ政権で最も期待されたのは、経済復興だった。しかし、2010年の中間選挙では共和党が圧勝、共和党のミッチ.マコーネル上院野党議長は『我々が目指す唯一のゴールは、オバマを1期限りの大統領として葬りさることだ』と公言。極右に傾く共和党は、ティーパーティを中心に共和党内部でも穏健派や民主党と折衝を目指す超党派を排除し、一貫して、オバマのホワイトハウスからの叩き出しに精力を注いだ。

共和党は、景気刺激策をはじめ、オバマと民主党と名がつく法案に悉く反対票を投じ、民主党法案は4000件以上が共和党の反対票で棄却された。それらの法案の中には、共和党がかつて法案化しようとした景気回復法案も多く含まれていたのにもかかわらず…。

共和党はオバマ叩きゲームに明け暮れ、議会は捻じれに捻じれた。オバマの無力さもさりながら、苦しむ国民をないがしろにした共和党の振舞いに国民は怒り、失望させられた。

明確だった政策の違い

今回の選挙では、保険案、中絶問題、財政赤字と増税、移民法、経済政策、教育、年金、エネルギー、社会福祉、男女の賃金格差など多くの政策が議論され、両党の方針の違いが明らかに現れた。

 @中絶問題

バイデン副大統領候補は、「自分はキリスト教徒として中絶には反対である。しかし、自分の信仰を政治には持ち込まない。中絶は女性のプライバシー権として支持する」と述べた。

しかし、ライアン副大統領候補は、自分の宗教信念から中絶に反対し、中絶を非合法 化する、と述べた。

タッドエイキンという超保守派の候補者が、8月にlegitimate rape(合法的レイプ?)であれば、強姦されても女性の体は望まなければ受精することはないから、中絶を禁止しても大丈夫、という驚くべき発言をした。合法的レイプとは、女性の訴えだけでなく、明らかにレイプが起こった証拠のあるレイプの場合である。その後、リチャードマードックという候補者が、命は神の贈り物だから、例えレイプで妊娠しても、それは神の計画なのだから、中絶はいけない、法律で禁止する、と発言。レイプで妊娠、出産しても、女性は死ぬわけではないから、中絶を合法化する必要なし、と言った議員もいた。

レイプは、女性にとって、精神的殺人行為である。米国にはPlanned parenthoodというNPOがある。この財団の主な働きは、保険のない貧しい女性たちの予防ケア(特に子宮癌検診)、マンモグラムや避妊、家族計画である。が、予算のうちの3%が中絶に費やされているため、共和党は、この団体を胎児殺し団体だと攻撃。この団体は政府からの経済援助も受けているが、打ち切らせようとした。

 Aオバマ保険改正法 (オバマケア)

オバマケアは、ロムニーがマサチューセッツ州知事時代に作った医療制度改革を参考にしている。低所得者でも安く保険に入ることができ、病歴があっても、保険加入を拒否されない。子どもは26歳まで親の保険に加入可能だ。

ブッシュの高齢者公共健康保険改悪法で、持病を持つ高齢者は高額な薬代の支払いに苦しんだ。1年の薬代が2830ドルまでは25%負担ですむが、それ以上は保険が効かず、全額自腹を切らざるを得ない。4550ドルからまた保険でカバーされる。これはブッシュのドーナッツ法と呼ばれていたが、オバマケアでは、このドーナッツの穴がふさがれた。女性は避妊、中絶、家庭内暴力、予防ケアが保険によってカバーされ、男女の医療費格差もなくなった。

しかし、ロムニーはオバマケアに反対。「就任第一日目の仕事は、オバマケアの廃案、保険は全て地方政府に任せる」と述べた。現在マサチューセッツの非保険者は6%、ノースキャロライナは18%、テキサスは23%である。ちなみに08年の全国平均は15%だった。

ローンに苦しむ民衆と露骨な金持ち優遇策

B財政赤字と税制改革

ロムニーは、あらゆる所得層の所得税減税(富裕層は20%カット)、軍事費の2000万ドル(16億円)増加。これでは数字が合わないと非難されたが、景気刺激策による税収増加、支出カット、企業の特別控除の廃止でやっていける、と主張。しかし、どの特別控除を廃止するか、具体案はゼロ。最終的には中産層に2500ドルの増税が待っている、と専門家は分析する。

オバマは、年収25万ドル以下の所得減税をし、その代わりに富裕層への増税を約束(25万ドル以下というのは全体の97%を指す)。軍事費削減を主張。

 C移民

オバマはdream act(不法移民の子どもたちが州内学費で 大学に行ける法律。アメリカの州立大学は納税者である州内者と州外者の学費が2倍違う。州内学費を不法移民の子どもたちにも適応しようという法案)を支持。移民の不法入国には反対するが、現在不法滞在している移民、子どもたちに対しては合法的に滞在可能な法的処置を考慮する。

ロムニーはdream actに反対。不法移民の国外追放に賛成していたが、後半は毎回有権者の顔を見るたび、意見が変わった。

 D 教育政策

ロムニー政権の下では、公共教育費が削減され、今以上に公共教育は地方政府にゆだねられることになり、地域差が大きくなる。国家予算の中で教育費が占める割合は、国防費と同じ14%である。ロムニーは、国の学生ローンの廃止も提案している。「必要ならお金は親から借りろ」と発言して非難を浴びた。

オバマは、学生ローンの返済に苦しむ学生や卒業生のために学生ローン改革をした。2014年以降であるが、政府の学生ローンを借りた学生は可処分所得の10%以上を払う必要はなく、20年後は残りが取り消し、公共サービス関係の仕事についた人は、きちんと返済していれば10年後は残り分取り消し、という改正案である。グローバル経済の中で雇用を生む基本は、教育である。公共教育を重視しない国は、国際競争には勝てない。

非白人を過小評価した共和党

選挙の明暗を分けたのは、政策ばかりではない。選挙戦略も大きく作用した。(以下全文は1463号を入手ください。購読申込・問合せはこちらまで。)

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